女子会 Ⅰ
三月に入り、学年末に向けて学校も慌ただしくなってきた。
四月からは休みに入る真琴と、この三月で任期が切れてしまう臨時講師の理子の送別会をしようということで、久しぶりに女子会が行われたのは、明日から高校入試が始まるという日だった。
この理子も、古庄に想いを寄せていた一人だ。
若さに任せて、なりふり構わず古庄にアプローチしていたけれども、それからどうなったのか……。真琴も女友達も、それを訊き出す機会はなかった。
相変わらず、理子はハッとするほどの可愛らしさで、その顔に見合った可愛らしい洋服に小柄な身を包み、女子会をするレストランに姿を現した。
こんな理子だったら、どんな男性でも彼女にしたいと思うだろう。理子がどんな風に古庄のことが好きなのかは、話をしたことはないが、相手が古庄でなければ、叶わない想いを抱えて辛い思いをすることなく、もっと幸せになれるのに…と、真琴は思わずにはいられない。
けれども、古庄の子を宿す真琴が、そこに口出ししてしまうのは憚られた。
それでなくとも、真実を打ち明けられず裏切っている気がして、理子の顔を見るたびに、真琴はいつも後ろめたいような気持ちになった。
「賀川先生、女子会なんかに来ても大丈夫?『旦那さん』、何も言わなかった?」
藪から棒に、国語教師の谷口から尋ねられる。
「何も言うも何も…、一緒にいるのは週末だけで、今はまだ平日は別々に暮らしてるから…」
幸か不幸か、この日の女子会の話題は、理子の恋バナではなく、真琴の結婚と妊娠のこと。真琴はまだ真実が話せず、奥歯に何かが引っかかったような物言いしかできない。
「ああ、そういえば、まだ別々に暮らしてるって言ってたっけ…?」
質問をした谷口は、そう言いながら前菜のカルパッチョを美味しそうに頬張った。
「ははあ…。ということは、お互い別々の生活があるけど、想定外で赤ちゃんが出来ちゃって、とりあえず結婚したってことなのかな?」
と邪推するのは、理科教師の中山。
本当はそうではないけれども、学校での説明はそうすることにしているので、真琴は否定はせずに恥ずかしそうに肩をすくめる。
「まあ、順番はどうであれ、最終的には結婚するつもりで付き合ってたんなら、それでいいじゃないの」
石井がそこで真琴を助けるように、口を出してくれる。
実際には、『結婚するつもりで付き合った』期間などもなく、いきなり結婚してしまったのだが…。その事実も告げられず、真琴は苦笑いするしかない。
そうやって真琴の幸せな話で、女子会はひとしきり盛り上がったのだが、ただ口を閉ざしていたのは理子だ。
真琴に関しての話題が尽きる頃、その理子が不意に口を開く。
「……賀川先生の旦那様って、どんな方なんですか…?」
グッと言葉を呑み込む真琴に、石井と谷口が意味ありげな視線を投げかける。
「ああ、それ。まだ訊いてなかった!どんな人なの?やっぱり、先生だったよね?」
明るい声で理子に同調したのは中山だ。彼女はまだ何も、真琴の相手について勘付いていないらしい。
ここで本当のことが言えたら、どんなに気持ちが楽になるだろう…。
でも真琴は、理子の心情を思いやって、やっぱり真実は告げられなかった。
「どんな人って……、近いうちに紹介できると思うから、自分の目で確かめてみて…」
そう言って真琴は笑ったが、その時にどれだけ理子がショックを受けるのかと想像すると、胸が苦しくなった。
そんなふうに心配事を抱えていては、美味しいはずの食事もろくに喉を通らない。いつも楽しかったはずのこの女子会も気分が乗らず、真琴は早く帰りたくなってくる。
自分のために会を持ってくれている、せっかくの好意を無にするように思うのは、本当に恩知らずなことだとは解っている。
でも、このように思ってしまうのも、全ては〝秘密〟を抱えているせい。この秘密から解放されて、何の気兼ねもなく、今の状況をこの親友たちから祝福されたら、どれほど嬉しいだろう…。
けれども、真実を隠して嘘を吐いていた自分を、果たして親友たちは心から祝福してくれるだろうか…。
この秘密を抱える限り、真琴の気が安まることはない。秘密とは、それほど罪深いもの…。それを改めて、真琴は思い知った。




