私のものです… Ⅲ
「ずっと、言えなかったんです。…あなたのことを、『好きです』って…」
古庄の腕に包まれて、レースのカーテンからこぼれてくる外の街灯の光を見上げながら、真琴がつぶやいた。
「…うん」
古庄もカーテンと青白い光が作る天井の模様を見ながら、返事をする。
今までも、十分に想いは通じ合っていたつもりだった。けれども、真琴から告げられたたった一言で、まだこんなにも愛しい想いが溢れてくる。
その想いを表すように、古庄は抱きしめたその手で、真琴の滑らかな背中を撫でさすった。
「……『好きです』って言って、あなたを自分から追いかけるのが怖かったんです」
真琴のその言葉を聞いて、古庄の手の動きが止まる。天井から視線を移して、腕の中の真琴を見つめた。
自分の本当の気持ちをやっと打ち明ける真琴は、緊張して感極まり、震えはじめる。
「怖い?…どうして…?」
自分は決して怖い男ではないと思う。真琴にだけはできるだけ優しくしてきたつもりなのに、どうして真琴がそう思うのか、古庄には解らなかった。
真琴は息を呑みこんで、自分の想いの丈をどう言葉で表現すべきなのか考えて、思い切って口を開く。
「……追いかけても、追いかけても。あなたは到底手の届く人じゃない、って……」
そう言葉を絞り出すと同時に、真琴の目からは堪えきれない涙が零れ落ちた。
古庄は、真琴の言ったことの意味を考えながら、真琴を見つめた。
好きになればなるほど、怖くなる…。
それほど、真琴にとって自分は、圧倒的で驚異的だったのだ。
古庄自身、自分の容姿が普通ではないことは知っている。何ら周りの人間と変わるところなどないのに、周りの人間たちは勝手に自分を崇め賛美する。
もちろん、真琴は容姿だけで人を判断するような人物ではない。しかし、自分のこの容姿は、そんな真琴をも苦しめていたなんて…。
「…君が『怖い』と思う原因が俺のこの顔なんだったら、俺はこの顔を火で焼いて、二度と見られないようにしてもいい」
古庄がそんなことを言い始めたので、真琴の涙に困惑の色が混ざる。
「…何を、言ってるんですか?」
戸惑う真琴をしっかりと見つめ、古庄は断言した。
「たとえそうなっても、君は俺の側にいてくれる。好きでいてくれるはずだ」
潤んだ目で、真琴が古庄を見つめ返す。
「……もちろんです。でも、絶対にそんなことしないで下さい。あなたが苦しむのなら、私が代わりにそうなります」
そう返答すると共に、止めどもない涙をどうすることも出来ず、真琴は手の甲でそれを拭った。
古庄は真琴を抱きしめ直して、真琴の涙を唇で拭い、耳元で囁いた。
「君は俺のものだ…」
それから、真琴の頬を両手で包み、震える瞳をじっと捉えながら語りかける。
「そして、俺は君のものだ。この心も体も君のものなんだから、追いかける必要なんてない」
真琴の瞳に、拭ったばかりの涙がまた溢れてくる。
それでも、真琴は両腕を伸ばし、古庄の首に巻きつけて、自分から古庄を引き寄せた。
それから、古庄の耳に唇を付け、宣言する。
「…あなたは、私のものです…!」
また、深く長いキスが交わされる。
愛し合う行為は繰り返され……二人は夜が更けるまで、眠気や空腹さえも感じず、お互いの存在を確かめるように抱き合った。




