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帰ってきて…! Ⅱ

 


 重苦しい空気を抱え、皆が頭を寄せ合う中、学年主任のもとに連絡が入った。



「森園のスキー板が見つかった!ロッジの裏手に立てかけてあったそうだ」


「見つかったのは、板だけ?本人は?」


「本人は、まだ見つからないらしい…」



 学年主任は携帯電話を握りしめて、ため息を吐く。


「…とにかくそれだったら、山の上には登ってない…ってことかな?」


「確かに、板を履かずにリフトに乗ってたら目につくからね」


「それじゃ、そのことを今探している先生たちにも伝えないと……」



 と、教員たちはそれぞれに手分けをして電話をかけたのだが…、



「……古庄先生……、呼び出しはしてるけど、電話に出ない……」



 一人の教員が電話を耳に当てたまま、そうつぶやいた。



 嫌な推測が、真琴の中に過る。同じことを学年主任も勘ぐったらしく、顔をしかめた。



「また、古庄くんは…!携帯電話を留守番させてるんだろう!!」



 そんな風に舌打ちされて、真琴は自分の身まですくむ思いだった。



 きっと引率教員の中には、佳音を無理に連れて来たからこんなことになった…と、心の中で古庄を責めている者もいるだろう。


 真琴も佳音を敢えて修学旅行に参加させることには疑問があったが、古庄の意志を尊重したかった。

 きっとこの旅行で、古庄は佳音の中の何かを良い方向に変えたかったのだ…と、真琴はひたすら愛しい人を信じていた。



「…とにかく、他の生徒たちは日程通りに動かさないといけません」



 その場にいてやり取りを聞いていた石井が、つぶやくように言って唇を噛んだ。


「今は…?着替えと荷物整理だな。ウェアをきちんと揃えて戻すように、声掛けして…。30分後には夕食だ」



 真琴も頷いて、石井と平沢と共に一旦その場を離れ、女子の部屋を手分けして回った。



 廊下の窓の外を見ると、徐々に暗くなっていく夕暮れの中、先ほどよりも雪がいっそう激しく降りはじめ、風も出てきている。

 真琴の心の中にも、不安という黒い霧が立ち込めて、前も後ろも見えなくなりそうだった。


 引率の教員たちも心配のあまり、ゆっくりすることもできず、申合せるでもなく誰もがロビーにいる学年主任のもとへと集まって来る。


 夕暮れとともに、捜索にあたっていた教員たちも、一人二人と戻ってきていた。依然、状況が好転する情報は入って来ていないようで、重苦しい空気が漂う。



 もうすぐ夕食の時間になる。……そして、警察にも届けを出さなければいけない時間も迫っている。

 でも、届けを出しても、日が落ちてしまったとあっては、捜索をしてくれるかどうか難しいところだろう。


 息の詰まるような緊迫した空間の中でも、誰もその場から離れられず、うな垂れて椅子に座り込み、時が流れるのを待つしかない。



 その時、ホテルの正面玄関から、見慣れたウェアを着た女の子が入ってきた。


 不意に頭をもたげていた教員の一人が、目を凝らして叫ぶ。



「…も、森園っ!!」



 その声に反応して、ロビーにいた教員たちの視線も一斉にそちらに向いた。


 名前を呼ばれ、視線を受けて、佳音は思わず立ち止まった。そこに、教員たちが駆け寄ってくる。



「スキー研修を途中で放り出して、どこに行ってたんだ?先生たち皆で、探し回ってたんだぞ!!」



 そう言って、佳音を怒鳴りあげたのは、学年主任ではなく日頃温厚な戸部だった。戸部は古庄に続いて佳音を捜索しに行き、つい先ほど戻ってきたばかりだった。


 いきなり恫喝されて、佳音は言葉もなく、おびえた目に涙をためて、自分を取り囲む教員たちを見回した。



「それよりも、怪我はない?ずっと外にいたんなら、体が冷えてるんじゃない?」



 石井は佳音から事の顛末の説明を聞くよりも、彼女の体を心配した。

 佳音はうつむいて、首を横に振ることしかできない。



「……詳しいことは、後で私たちが訊きます。今はとりあえず、見つかったということで。……平沢先生、森園さんを私たちの部屋へ連れて行って、ついててあげて」


 さすがにベテランの域に達しつつある石井は、その場でそわそわと事の成り行きを見守るだけだった平沢に振り向いて、誰もが適切だと思う指示をした。


 平沢に肩を抱かれて佳音の後姿が見えなくなると、教員一同は緊迫から解き放たれて椅子に座り込んだ。



「あぁ~…。良かった……。無事に見つかって……」



 学年主任が椅子の背もたれにのけ反って、目を閉じてため息を吐く。



「ホント、一時は最悪のことも考えちゃいました」



 佳音の捜索にあたっていた担任の一人も、そう言いながら軽く笑った。その笑いに伴い、和やかな空気が辺りに満ちた。





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