修学旅行 Ⅲ
辛うじて集団と同じ行動はしているけれども、佳音はいつも集団から外れて一人でいることが多かった。かつて友達だった女の子たちも、もう佳音とは関わろうとはしていないらしい。
こんな状態で、佳音を修学旅行へ連れてくるのは酷だったかもしれないが、古庄は一人ぼっちの佳音を見かけても、二人きりになりそうな時には声をかけなかった。
自分を見つめる佳音のあの目を見ると、古庄自身感じたことのない感覚に苛まれ、いたたまれなくなる。
これから佳音がどうなっていくのだろう…と考えると、全く予測がつかず怖さにも似た不安感が募った。
修学旅行の日程自体は順調に過ぎていき、スキー研修も今日で終わり、明日からは近隣の観光地を少し回り、最後はお約束のテーマパークで締めくくられる。
雪の降らない地域にある桜野丘高校の生徒たちは、個人的にスキー場通いをしていた少数の生徒以外は、ほとんどがスキー初体験だ。
山も平地も覆い尽くす、こんなにたくさんの雪を見ることなどほとんどなく、そう言った意味では、生徒たちにとって、貴重な経験ともいえる。
生徒たちがスキー研修をしている間、引率の教員たちは思い思いにスキーやスノーボードを楽しめるのだが、一番楽しんでいたのは学年主任…。
バブル時代に学生だった学年主任は、何度もスキー場に通いその青春を謳歌したらしい。昔取った杵柄とばかりに、その華麗なシュプールを披露してくれていた。
……修学旅行を強引に「スキー」に決定したのは、多分自分が行きたかったからだと、同行した誰もが勘ぐった。
しかしゲレンデで、学年主任より誰よりも皆の目を引き付けたのは、やはり古庄だった。
古庄も例にもれず、他の教員たちと共にスキーを楽しみ、いい汗を流した。スポーツは何でも無難にこなす古庄は、みっともなく転んでしまうこともなく、白銀の世界の中を見事なターンを見せながら滑り降りてくる。
「古庄せんせ――い!」
「キャ―――――っ!!」
その姿を見かけた女子生徒達から、名前を呼ばれたり、黄色い歓声を上げられたり。
ゴーグルで顔は半分隠されているというのに、ここでも古庄の存在は際立っていた。
そんな古庄を〝落としたい〟と息巻いている平沢は、修学旅行に同行できたのは好機とばかりに、きっかけさえあれば手を変え品を変え猛烈にアタックしていた。
けれども、古庄はいつもの〝無関心〟でそれをほとんど無意識にかわし、平沢の虚しさは、周りの失笑を買うほどだった。
一方の真琴は、ゲレンデ中の視線を釘付けにするスキーをする古庄の姿を見ることもなく、皆がスキーをしている間はゆっくりホテルで過ごした。
生徒の監督などの仕事も、周りが妊娠していることを気遣ってくれたこともあって、ずいぶん負担が軽く、順調に修学旅行の日程をこなしていった。
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《 お知らせ 》
この物語のほかに、ただいまエブリスタさん限定で、短編の新作を掲載しています。
タイトルは「彼がメガネを外したら…。」です。
美女が、ダサくて冴えない研究者に恋をするお話です。この「恋はしょうがない。」と同じようなタッチの作品になっているかと思います。
この物語を読んだついでに、読んでくださると嬉しいです(*^^*)
「 彼がメガネを外したら 皆実景葉 」
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