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愛しています… Ⅰ

 

 それから、どのくらい時間が経ったのだろう。

 そっと肩に触れる暖かい手に気が付いて、真琴はうっすらと目を開けた。居間から漏れてくる明かりに照らされて、古庄の顔が視界に浮かぶ。



「うどんなら、食べられるかと思って作ってみたんだ。昼飯だってろくに食べてなかっただろ?何か食べなきゃ…」



 自分の方が辛そうな表情の古庄を見て、真琴の胸がキュンと震えた。これ以上心配をかけたくないし、駄々もこねたくない。


 真琴が黙ったまま、むっくりと体を起こすと、古庄はその肩にカーディガンをかけてくれた。


 居間のテーブルには、作りたての温かいうどんが2杯置かれている。


 意地を張っているわけではなく、真琴が何も食べたくないのは本当のことだった。それでもこれは、料理はあまり得意ではない古庄が、心を込めて作ってくれたものだ。真琴は乏しい食欲を奮い起こして手を合わせ、箸を取った。


 真琴がうどんをすすり始めると、古庄も安心したように箸を取り、一緒に食べ始める。


 心配してくれて、こうやって世話をしてくれる古庄には、どんなに感謝しても足りないくらいだ。


 その気持ちを言葉にして伝えたいと思っていたけど、真琴の中の感情はまだ整理されておらず、何も語りかけることが出来なかった。


 さらに、食べ進めるうちに、やはりどんどん気分が悪くなり……、真琴はとうとううどんを半分ほど食べた頃、トイレへと駆け込んだ。


 たった今食べたばかりの物を、一気に吐き出してしまう。

 衝撃の余韻で大きな息を繰り返す真琴は、トイレにうずくまった。もう出す物などないはずなのに、再び強烈な吐き気に襲われる。


 驚いて様子を見に来た古庄が、そんな真琴の背中をそっとさすった。



「すまない……。ほしくないって言ってたのに…無理に食べさせた俺が悪かった…」



 古庄の言葉に、真琴は首を横に振って答えたが、古庄はますます悲痛な表情を見せた。



「つわりって、こんなに辛いもんなんだな。ろくに食べられないから、痩せてしまって……出来ることなら、俺が代わってあげたいよ」



 古庄がこんな風にいたわってくれると、真琴は心が震えて、先ほどつまらないヤキモチから邪険にしてしまったことが、本当に申し訳なく思えてくる。


 真琴の目にジワリと再び涙が滲んでくると、古庄はそれを、つわりの辛さに耐えかねていると思ったらしく、



「ああ…。真琴…可哀想に……」



 と、そっと優しく真琴を抱きしめた。



 それからも古庄は、真琴の手足になるように世話を焼いてくれた。それが却って真琴にとっては、つわりよりも苦しかった。


 優しくいたわってもらうと、先ほどの自分の愚かな言動が際立ってくる。


 後悔していて謝りたいのに、うまくそれを表現できず、気分の悪いのを口実に、ずるずると古庄に甘えてしまう…。そんな自分を省みると、本当に苦しくなってくる。



 そんな重苦しい気持ちを抱えたまま、真琴は再び体を横たえた。


 いつの間に眠っていたのか…。

 ふと夜中に真琴が目を覚ますと、古庄はベッドの隣に布団を敷いて寝ていた。既に熟睡しているらしく、掛布団が呼吸に合わせて上下に動いている。



 さんざん吐いてしまったので、喉が渇いている。

 真琴はベッドから起き上がり、古庄を起こさないようにそっと布団の脇を抜けて、台所へと向かった。


 シンクの前に立つと、いつも真琴がしている通りに、調理器具も食器類もきちんと片づけられていた。


 グラスに水を注ぎ、吐き気を催さないように少しずつ口に運ぶ。






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