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事件 Ⅱ

 


「…君も行くのか?夜も遅いし、明日も仕事はある。君は休んでいた方がいい」



 真琴の体を心配して古庄がそう言うと、真琴の形相が変わった。



「何を言ってるんですか。生徒がいなくなったのに、ゆっくり寝てなんかいられません!さあ早く!和彦さんも着替えてください!!」



 真琴に一喝されて、古庄は縮み上がった。

 自分のことを犠牲にしても生徒のことを優先させる…こんなところ、本当に真琴は教師の鑑だと思う。

 担任である古庄よりも真琴の方がより深刻に、佳音のことを心配しているようだった。




「…私が古庄先生の家まで先生を探しに行って、それから二人で森園さんを探索した…ということにしておきましょう」



 二人でいることの不自然さを説明するために、真琴は前もって答えを用意する。

 真琴の車のバンドルを握りながら、古庄は頷いた。真琴のこの周到さと思慮深さは、感服に値する。



「…どこにいるんでしょう?」



 助手席に座る真琴は、居ても立ってもいられないように、言葉を絞り出した。



「彼女はここのところ不安定な感じでしたから…早く見つけてあげないと……」



 佳音の危うい様子を、真琴もちゃんと認識してくれていたようだ。



 だからこそ、心配が大きくなる。焦りで蒼白になった真琴の顔に、古庄はチラリと視線を投げかけた。



「森園は、今週になってずっと欠席が続いていたんだ…」



 それは姿が見えないから、真琴もうすうす気が付いていた。



「それに、弟が亡くなった件以来、家の中もギクシャクしてるらしい…」



 それを聞いて真琴は、昨日でも今日にでも、様子を見に家庭訪問に行くべきだったと思う。けれども、担任である古庄がそうしなかったのは、真琴のことが心配で、真琴のアパートへと通っていたためだ。


 そこまで思いが及ぶと、真琴の中に罪悪感のようなものが込み上げてくる。本当に佳音の身に何かあっては、いくら後悔しても取り返しがつかない。



 2年部や生活指導部の数人の教員たちが、手分けをして佳音を捜索しているはずだが、まだ見つかったという連絡は入ってこない。

 古庄は道々のコンビニの前などで車の速度を落とし、店内を確認しながら、車を歓楽街の方へと走らせた。



 きらびやかなネオンの光の中を、真琴の車がゆっくりと行く。

 古庄は運転をしているので、助手席にいる真琴があちこちに視線を走らせ、目を凝らして佳音の姿を探した。



「……あっ!!停めてください!!」



 真琴の声が響いて、古庄は反射的にブレーキを踏んだ。

 停車するとすぐさま、真琴はドアを開けて飛び出していった。向かったのは、道路の反対側に停車している白いセダン。



「森園さん!?何してるの?乗っちゃダメよ!!」



 突然響いた真琴の声に、佳音も驚いて振り向いた。

 一緒にいた遊び人風の男二人が、焦ったように佳音の腕を掴んで、急いで車に乗り込もうとする。



「あなたたち!森園さんをどうするつもり?離しなさいよ!!」



 真琴は佳音を守るために、恐怖も忘れて大男に歩み寄り、佳音の腕を掴んでいる手を外そうとした。



「うっせーよ。お前はどっか行ってろよ!」



 と、大男が真琴を思いっきり突き飛ばす。すると真琴は、激しく尻もちをついてひっくり返った。


 遅れて駆けつけていた古庄が、この様子を目の当たりにして、逆上する。



「おらぁー!お前ら!!何やってんだぁ――!!」



 古庄の声とは思えない、腹の底から唸りあげるような怒号の迫力に、真琴自身も路上に座り込んだまま震え上がり、腰を抜かした。



「ほら、そこどけ。手を離せよ」



 真琴と同じように、息を呑んで硬直している男の胸を押し、佳音を掴んでいる手を払って、古庄は佳音を確保する。そして、佳音の背中を押しながら、真琴の腕を取って立ち上がらせた。


 その時、古庄の背後に、拳を握って襲いかかって来ようとしている男の姿が、真琴の目に映る。



「…古庄先生!後ろ……!!」



 真琴のとっさの一言に、古庄は振り返り、拳をかわした。真琴も佳音の肩を抱き背を向けて、佳音の身を護る体勢を取る。


 拳が空を切った男は、体を翻して、もう一度古庄に突進して来たので、古庄はそれをもう受け止めるしかなかった。



「………!!」



 真琴が声にならない叫びをあげ、二つの体がぶつかり合う瞬間に、古庄は相手の脚を取りにいった。


 大男は一瞬で仰向けに倒される。それから、脳震盪を起こしたのか、気を失って動かなくなった。



「…あ、やべ…。マジでタックルかましちまった…」



 ノビてしまった男を見下ろして、古庄は肩をすくめた。


 大男がいとも簡単に倒されてしまったのを見て、連れの男は非情にも大男を置き去りにして車に乗り、逃げようとする。




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