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体調不良… Ⅰ

 


 古庄の気がかりは、ほどなくはっきりと形を成してきて、佳音は一人でいることが多くなり、クラスの中でも浮いた存在になりつつあった。


 それは、クラス担任でもなく授業も担当していない真琴の目にも明らかだったので、もうとっくに古庄も気が付いて心配しているに違いない…。



 授業の後、真琴は思い切って、気さくな女の子たちに様子を尋ねてみることにした。



「…ちょっと森園さんのこと、訊きたいんだけど…」



 と古庄のクラスの子に声をかけると、一緒にいた真琴のクラスの加藤有紀も教卓の周りにやってきた。


 古庄のクラスの世界史は、真琴のクラスと合同で、地理・日本史と3解体で行われている。

 1年生の時、あれだけ古庄に熱をあげていたにもかかわらず、有紀は2年生に上がる時に、地理ではなく世界史を選択していた。



「佳音ちゃん。この頃一段と暗いよね…」


「まあ…、家族が死んだんだから無理もないけど」


「でも、もともと不思議ちゃんで友達も少ない方だったしね…」



 女の子たちは、そう言って口々に佳音の印象を語る。



「…『不思議ちゃん』…?」



 真琴も首をかしげて、訊きなおした。



「そう、ちょっと変わってるんだよね。価値観が普通じゃないっていうか…」


「それで、その自分の価値観以外は受け入れようとしないから、それを共有できる人とでなきゃ一緒にいられないよね」



 エキセントリックなところがあるということだろうか…。

 確かに、あれだけの美少女なのにモテている風ではないところを見ると、女の子たちの見解も的を射ているのだろう。



「でも、前は少ないけど友達もいたんだよね…?」



 少なくとも、今のように孤立した存在ではなかったはずだ。詳しい事情を、真琴は掘り下げて質問した。



「うん…。だけど、最近の佳音ちゃんは、その親しかった友達も受け容れないっていうか…」



 そう言って、有紀が口を開く。



「…有紀ちゃん。隣のクラスのことなのに、よく知ってるのね?」



 話の本筋とは違うけれど、真琴の中に浮かんだ疑問が、不意に口を衝いて出てくる。



「…それは、溝口くんが言ってたから…」


「溝口くん…?」



 突然出てきた男の子の名前に、真琴がさらなる疑問を口にすると、途端に有紀は顔を真っ赤にして口ごもった。



「先生~。溝口くんって、有紀ちゃんの彼氏だよ~」



 一緒にいた他の女の子がツッコミを入れると、有紀の顔はもっと赤くなる。



「あら!そうなんだ。知らなかったわ~」



 文化祭の準備で急接近したとは聞いていたが、付き合うようになっていたとは。その微笑ましい事実に、真琴の顔も自然とほころんだ。



「…そ、それでね?先生」



 自分のことから話を逸らそうと、有紀が真っ赤な顔をして話を元に戻す。



「佳音ちゃんが悲しんでいるだろうって、友達もいろいろ慰めてたりしてたみたいだけど、無視されてるって言ってた気が…」



 それを聞いて、真琴は状況を呑み込むように頷いた。


 確かに、幼い家族が死んでしまう悲しみは、それを経験していない者には共有できる感覚ではない。もともと心に壁を作っていた佳音が、その壁をもっと強固なものにしてしまったのも頷ける。



 今、佳音が心を許せる相手は、古庄だけなのかもしれない。

 友達と関わることがなくなった分、教室に居場所のなくなった佳音は、1日に幾度となく古庄のもとに姿を見せていた。


 古庄も、不安定な佳音の精神状態に配慮して、よほど忙しい時でない限り佳音のおしゃべりに付き合い、佳音が望んでいるだろう言葉をかけてあげていた。




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