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婚約指輪 Ⅳ

 



「そうだ、君には婚約者がいる。アイツにもそう思わせとかないと…!」



「…アイツ…?」



 古庄が憮然として言った言葉に、真琴は首を傾げた。



「…高原の野郎だ」


「……!!」



 古庄がそれを知っていることに驚いて、真琴は目を見張って古庄を見つめた。



「君が告白されているのを、偶然聞いてしまったんだ…」


「そうだったんですか…」



 真相を知って、真琴の言葉が途切れた。

 先週の古庄の様子が少し変だったことに、これで納得がいく。その途端、そのことを古庄に言わなかったことが申し訳なくなり、真琴の中の罪悪感が大きくなってきた。



「…秘密にしようと、思っていたわけじゃないんです。高原先生には、あの次の日にちゃんと断ったし…」



「なんだ。そうか…」



 ホッとしたような表情を見せて、古庄は肩の力を抜いた。

 けれども、それでもなお、時折真琴に向けられる高原の切ない目を思い出して、胸の底の方にモヤモヤとしたものが溜まっていくのは、どうしようもなかった。



「だけど、アイツはまだ諦めきれないみたいだから、この指輪はとにかく君の薬指に…」



 と言いながら、古庄は真琴の手を取って、外しかけていた指輪をきちんとはめ直す。


 そんな余裕のない古庄の態度に、真琴は戸惑った。

 ヤキモチなんて、超然として完璧な存在の古庄には縁のないものだと思っていたから。



「…でも、告白されることなんて、私は滅多にないことですけど、和彦さんにとっては珍しくないことでしょう?最近も、1組の佐野さんと7組の久永さんに告白されたって聞きました」



「えっ…!」



 今度は古庄が目を丸くして、真琴を見つめ返す。



「女の子たちの噂くらい、私の耳にも入ってきます」


「…お、俺の場合は、相手は生徒だから。恋愛ごっこの相手をさせられてるみたいなもんだ」


「『ごっこ』だなんて…。高校生でも想いは真剣なんですよ。勇気を振り絞って、告白してるんです」


「……分ってるよ。だから俺だって、ちゃんと真剣に答えてる」


「ちゃんと真剣に?」


「うん。心の底から愛している人がいて、その人以外は好きになれないから、君のことを女性として好きにはなれないし、付き合ったりもできない…ってね」



 その「愛している人」というのは自分のことなのだろうが、その言葉を古庄から突きつけられた女の子の心情を察して、真琴は心が陰った。



「……そんな風に言うと、ちょっと可哀想ですね」


「じゃあ、他にどう言えばいい?変に気を持たせると後が厄介だ。……それとも君は、そうやって言い寄ってくる人に俺が優しくして、親密になってもいいのかい?」



「親密に……」



 そう言われて、真琴は言葉を逸した。


 古庄が言うように、そうなってしまったところを想像するだけで、真琴の体が震えてくる。その震えを抑えるために唇を噛むと、古庄を見つめる目には涙が浮かんだ。



「すまない…!君をそんな気持ちにさせるつもりじゃ…」



 古庄は焦ってそう言いながら、再び真琴を抱きしめた。



「だけど、解ってほしい。高原のことを知った時、俺も同じ気持ちだったことを…」



「…私は、親密なんかになっていません…」



 古庄の胸に顔を押し付けながら、真琴が絞り出す。



「解ってるよ。だけど、この指輪はずっと君の薬指に着けていてほしい。これは君を守ってくれるし、何よりも俺が君だけを愛している証拠だから」



 そんな古庄の言葉は真琴の胸に響いて、悲しくはないのに、その瞳にはもっと涙が溢れてくる。


 微かに頷いて、古庄の腕の中で左手の甲を見下ろす。

 そのまん中で光っている石の輝きは、古庄がくれる想いのように純粋で澄み切っていた。





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