プロローグ 『戦地の機影』
炎路疾走の影ひとつ。
本来であれば蒼天であった。しかし、空は炎や煙で覆われ、本来の色を見せる事はない。行き交う砲弾や爆炎が、戦場である事を示していた。
土煙を巻き上げながら疾走する姿は人のそれだったが、速度が桁違いに早い。必要最低限の動きで、時速百キロ以上の速度を出している。全身に付属した幾つものパルスブースターから時折青い炎を見せながら、炎や風圧に負ける事無く走り続けている。
その人影は少女。全身を鈍色の無骨な複合装甲に包まれながらも、顔だけを外に出している。
銀の髪は眩く輝き、装甲のごつごつとした粗っぽさをものともせず、高潔な印象を与えていた。
まだ十代半ばであろう彼女は、何も持たずに戦地を掛ける。可愛らしい顔ではあるのだろうが、表情が無い。
戦地を掛けているはずなのだが、その表情には恐怖も緊張感も浮かんでいない。
前後から銃弾と爆撃とレーザーが飛び交う戦場で、彼女は全ての攻撃を踊るように避け、受け流し進む。レーザーなどは、彼女に当たる直前で虚空へと消えていく。
「生存者発見。回収開始」
ぽつりと呟くその声にも、感情は乗っていなかった。彼女はパルスブースターの後押しを受け、瞬く間に対象へと接近する。
「神よ、どうかお救いください……」
その祈りは死を覚悟したものか。破棄された前線の塹壕に残っている兵士。彼は両足に銃弾を受け出血していた。目を瞑り、仰向けになり祈る事しかできなかったのだろう。
少女は彼に接近し、声を掛ける。その一瞬だけ、彼女に覚悟のような表情が現れた。
「もう大丈夫。助ける」
その言葉に、兵士が目を開く。
「おぉ、君は――ひぃっ!」
男が声を掛けた途端、甲高い音が鳴り響いた。金属が潰れる音。その音の直後断続して甲高い音は鳴り響き、男にばらばらと降りかかった。
今の常識として、敵が使用してくる弾丸は人体を効率よく破壊するための鉛製。脆いため体内で壊易く、損傷を拡大し易く、毒性で害し易い。かつ低コストだ。
それが、無数に降り注ぐ。
「私なら問題ない。これ」
と言って、彼女が見せたものは、鈍色の粗雑なチョーカーだった。犬の首飾りのようなそれは、ある部隊に所属している証。
「負け犬部隊――」
生命を脅かすアンドロイド――今はモルガザードと名乗っている――達を相手に戦う人類において、人間を捨てて機械の体を手にした者達。通称負け犬部隊。男が気付き漏らした言葉に彼女は、
「……その呼び名は好きじゃない」
不満そうに言いながら、兵士を担いでその場を離脱した。
拙い上に恐縮ながら、ゆっくりとやっていきたいと思います。
感想、評価頂けると凹みながら励んで頑張ります。
※読みにくいと思ったので、少し分散して話数を増やします。