片恋コンクリート
鏡のように。
陰の自分と足裏を合わせては離し。
ヒトの感覚に相槌を合わせては話し。
世の中の常識へ意見を合わせては放し。
無難にやり過ごしていたと自分では思うのだけど。
「ねえ。あやねちゃんはどうして女の子のことが好きなの」
どうしてコイツにはバレているのだろう。
「そう言うあんたは、どうして自分のことが好きなのよ」
「教えてあげようか」
は。と呆けた声を上げてしまった。もっと言いよどむものと思っていたのに。もっと言えば「一本とったぜ」くらいに思っていたのに。
「なに、もしかしてヒトに話せるような理由があるの」
「あるさ。僕は理由が無いことはしない主義だからね」
「へえ、そうなの」
「嘘だけどね」
理由というか、意味なき会話だった。
コンクリートとブロック塀に型どられた帰路は、徐々に私たちの陰を伸ばしてゆく。そろそろ街灯に羽虫がまとわりだす時間だ。
「あっそ。で結局理由はあるの。ないの」
「あるよ」
彼とは次の交差点までの関係。
幼なじみでもないし、学校でも話さない。
帰り道も帰る時間もだいたいいつも同じクラスメイト。知ってる人間を無視し続けるのも気持ちが悪いから、話をしているだけ。
「あやねちゃん。僕はね、片思いが好きなんだ」
彼は言う。
「先のことになんてあまり興味はなくてね。絶対に、僕を好きになって両思いになったりしない相手を探してた」
「なにそれ。じゃあきみは何のために恋愛なんてするの」
正直それは、自分にしてもよく分からない。
「ナンセンスな質問だねえ」
大股に二歩。前に出て振り返った。
交差点。
「理由がないからいいんじゃないか」
挨拶もせずそのまま右へ消えた。
私はまっすぐ進む。
「はあ」
今日も、顔を知ってるだけの他人との会話は、平和なくらい無意味的に過ぎていった。
彼はあんな風に言ったけど。きっと私が誰かを好きになったとき。そこには理由がある。
ただ。
理由なしに抱いた想いなら。それはとても純粋だと言えるのかもしれない。
だって、それなら私は、同性愛者だからと、誰に嘲笑されても、バカにされても、理解されなくても、辛い思いをしても。
好きなヒトを、好きでなくなる理由がないのだから。
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そう言えば、もうテーマ短編で長い話は書かないと言ったはずなのに、先月は……と思いまして。今回は今までで最も短い掌編小説にしました。
他に三つくらい、ミステリーの原案があって、少し書いてみたんですけどね。
「これは絶対長くなる!!」
と、確信した時点で捨てちゃいました。
しかし、今回僕が(百合とは別に)取り上げたテーマは、いつかもう一度、長いストーリーで書いてみたくもあります。まあ、隠すようなことではないのでいってしまうと、そのテーマというのは『片思い』なんですけど。そちらは御縁があればまたいつかという事で。では。
読了。ありがとうございました。