その7
「お、鉄屑発見。 運がいい」
幸先が良さそうなスタート。 滅多に金属類は落ちていないためレアアース並みに希少だ。
さらに奥底に進行していく。 月の光が徐々に薄れ周りが暗くなってくると後方から淡い優しい光が包み込んだ。
「エヘヘ、驚いたでしょ? 松明代わりにもできるのよ」
「役立つ拳だな」
暗闇を照らす光の拳だが破壊に行使すれば大地をも砕きえる鉄槌のハンマーとなる。
人間の頭部など一瞬で吹き飛ぶゆえに彼女を激怒させばデュランハンみたくなりそうだ。
能天気な性格で頭に血が上ることはあまりないと思うが気を付けなければいけない。
「ここら辺にするか」
数分前に拾った鉄に木のブロックを合わせ創造する。
造ったのは刃こぼれのない日本刀。
素材が大したことない為、強度はないけど切れ味はなかなかものだ。
野球バッド程度ならスパンと両断できる。
試し切りや物を造る練習を日々欠かさずやっている。
その成果もあってか初期段階より細かい構造も想像できるように。
人気のない邪魔が入らない場所で腕を磨いている。
「東北の剣と似ているね。 まさか東北から?」
「東北でもなんでもないからな。 機会があれば話よ」
事実、東北ではないし異世界から来ましたと言ったとこで理解はしないだろう。
しかし、似たような剣がレクシリアにあるとは不思議なものだ。
元の世界でも日本特有の武器なのに驚きだ。
世界が異なるとはいえ、武器の種類に構造は似ているかもしれない。
「また教えてくんない」
「んな怒るな。 近いうちに話すからさ」
しつこく訊かれるから暇な時に話してやるよ。
睡眠もまともに取らせてくれないですから。
「ならいいわ。 で、材料の調達は終わったの?」
「目標の二割しか回収してないな。 本格的に集めるとしますか。 手伝ってくれよな」
「分かったわ」
「助かるよ。 ――拠点を剣を突き刺したここに岩石、大木、金属とか集めてくれ。 他に珍しい鉱物でもいいぞ」
「了解しました。 隊長さん」
肘を曲げて敬礼。 微笑みが素晴らしく心が和む。
敬礼なんてどこで覚えたのやら。
二人いればいつもより半分の時間で作業が済む。
灯火があるトルカはより探しやすいだろうし、ざっと見積り三十分で終えそうだ。
どうせなら普段行かない森林の最奥に行ってみるか。
レクシリアでも喉が出るほどの高級品があるかもしれないのを期待して暗黒に入る。
淀んだ空気が漂い足元も暗くて先が見えない。 ……亡霊が出そうだな。
「うっ! あそこの茂みから音が……」
微かにガサガサと音がしたのは間違いない。
内心で言ったそばから亡霊が出てくるなんて洒落にならないぞ。
「もしも~し」
まだ亡霊と決まったわけじゃない。 山菜を狩りにきたお爺さんかもしれない。
返事は来るか?
「返ってこない。 日本刀で様子見るか」
暗夜の中、揺れた茂みに忍び足で這いよる。
目を凝らし距離を詰めていき奇襲に備えておく。
茂みに隠れているのはバルネギカってのも否めない。
慎重に越したことはない。
いざ、葉で覆われた先に何が存在するか鋭い刃でつついてみる。
「うわぃ! ……っぅ………ネズミかよ」
自分が情けなくなってきました。
手にあまるサイズの小動物にビビりまくるなんてバカらしい。
改めて臆病だと知った。
気持ちを切り替えて探索を開始。
めぼしい材料はそうそう見つからない。
地道にコツコツと拾い集めブロックにしポケットに突っ込んでると爆音と共に地震が発生した。
体勢を崩し尻餅をついたが揺れはほんの三秒で収まる。
ズボンに付着した乾いた土を払い直立した途端にまたもや地震が発生。
転け方が悪く背中にガッツリ打ち付けた。
「くぅ……二回連続の地震ってなんだよ? 今までこんなことなかったぞ」
異世界へやって来て三日と半日だけど不運に恵まれているのかも……。
あらかた素材となる土台は集めた。 合流地点に戻るとする。
トルカの方はどうだろうか?
僕みたく小さいブロックに出来ない彼女はさぞ運ぶのが大変だろう。
これで材料調達の苦労が理解し次は着いてこないと予測する。
――また爆音!?
揺れはない。 近いが遠くはない中間距離だ。
地震頻繁地帯なのかなここ……本当なら未来が真っ白だ。
「お帰りサクマ。 適当に集めたけどどうかな?」
一足早かったよう…………ええっ! なんじゃこりゃ!
バベルの塔を連想させる巨大な岩の固まり。
今にも倒れて来そうで倒れない。
そしてピラミッド状に積み上げられたネズミ色の石。 鉄の原石だ。
……トルカの成果と自分の成果を比べる間もなく負けた。
集めるに関しては自身があったのに敗北感が精神をぐりぐり抉る。