その3
「バルネギカってのは吸食結晶生命体のこと。 肉体は結晶で構成されていて硬い肉質持ってるのよ。 補食するのはバルネギカによって異なるけど、大概は同類以外の生物、鉱物、喰らえるものならなんでも体内に取り込むわ。 ……生物だと飛び抜けて人間を好む傾向があるけど。 それが吸食結晶生命体」
人間を好んで食べる生命体ね。
人類が絶滅する運命ってのはバルネギカが深く関係してそうだ。
コイツを何とかしないと復活も叶わないってことか。
こりゃバカでかい任務を押しつけられたものだ。
うーん……バルネギカが好む理由はなんだろう。
手っ取り早く質問しますか。
「バルネギカはなぜ人間を好んで襲うのでしょうか?」
「わからないわ。 人間が美味しいから襲うのかもね」
首を左右に振りお手上げポーズ。
理由がわかれば対策の仕様ができたかもと期待したけどダメだったか。
「はぁ……この土地は食物が育つにはいい環境なんだけどな」
突然ため息を漏らした。
どうしたのだろう。
「なにか問題があるのですか?」
「ほら、サクマが体験した一通廃道があったでしょ? あれ、バルネギカの仕業なのよ。 栄養価のある土を喰らって、さらさらの砂を吐き出して去っていくのよ。 困ったものだわ」
バルネギカを始末しない限り作物は育たず、食料も確保できないってわけね。
宿は確保できたけど、バルネギカを倒さないといずれは飢え死にする。
いくらバカな僕でも分かる。
「大まかに話はこれだけ。 北に五分歩けば村に着くから離れないでね」
「了解。 一つだけ質問いいですか?」
「答えられる範囲ならいいわ」
「一通廃道を作るバルネギカを討伐しようとしたことはありますか?」
肩がピクリと跳ね上がり立ち止まった。
表情は曇っている。 地雷を踏んだ予感が………。
「……あるわよ。 私だけね」
「仲間は?」
「ビビって参加してくれなかったわ。 倒すなんて無理だって口文句に。 実際、傷も負わせず返り討ちにあってばっかで自信もなくしてさ…………」
やはり地雷を踏んでしまった。 遠い眼で夢を見てるかのように。
無神経な己に怒りが芽生える。
自重しろと自分自身に言い聞かせたばかりなのにバカか、僕は。
「アイツの動きさえ封じれたら私だって倒せるわよ」
「――今、なんと?」
「動きを封じれたらだけど……」
落ち込んでいる彼女を元気づけるチャンスだ。
喧嘩経験が人生で二回の僕でもサポートのみなら成し遂げる自信がある。
直接命を奪うのは慣れてないのでNGだからだ。
RPGの主人公みたくザコ敵を斬り殺すやら、殴り殺すなんて経験を積んでのお話である。
いきなり異世界に来て「ヤッホー、無双するぜ!」なんて妄想花畑のみだ。
なにが言いたいかってのは慣れが必要ってことだ。
現実的に考えてバルネギカに遭遇すれば身震いする。
確実に。
だからこそのサポートしかやらない。
「実践はないですけど、動きぐらいなら止めれる自信あります」
「本当! どうやって!」
「バルネギカに遭ってのお楽しみです」
直ぐ様にネタばらしをしては味気がない。
単につまらないもあるが、会って数分の間柄で能力を明かすのは自殺行為だ。
悪人には見えないが、まだ信用をしきれない以上教えることはできない。
「趣味が悪い。 教えてくれてもいいじゃない」
「事情があるのですよ。 いろいろと」
「ふん。 ――意地悪」
「誉め言葉ありがたくいただきます」
「……ねえ、敬語そろそろやめてよね。 会話しムカムカして殴りたくなるの!」
な、ナンダッテー!?
小学校低学年から中学校卒業まで一度も、んなこと教師や同級生に言われたことがない。
いや、言われなかっただけじゃないのか?
……今はそんなことはどうでもいい。 胸を貫く一言でショックだ。
人格を否定された気分です。 はい。
次に口するのは素の僕だけど引いたり、否定しないかな……?
「怒らせてごめん。 以後、敬語は使わない」
「よろしい。 私に免じて帳消しにするね」
ウインクしての振り向き指先――ふぐっ! 怒りからの笑顔なんて反則だろろろろうううううっ!
まったく、可愛いって正義だよね。