その2
◆
「ぜぇ……はぁ……ほぅ……んぅ……」
全身から汗が噴きだし、水溜まりができそうな量は発汗している。
ゴールが見えない砂漠を歩いて歩いても、黄土色の景色が永遠と続く。
どれくらいの時間が経っただろうか?
時計もなければ一日の時間軸も知るよしもない。
レクシリアを復活させる意志があるのにスタート地点にも立てず、死にそうになっている。
自分が情けない。
目的を達成せずに朽ち果てるのか……?
体は風化し、骨になる末路になってしまうのか…………。
「もう…………だめ……だ」
脱力した僕は砂地にダイブした。
指先一つも動かない。
だんだんと感覚はマヒしていき、視界も遠退き霞んでゆく。
喉もカラカラで生きる術は――ない。
「……ぅぅ……ぁぁ……」
ごめんなさい。 神様。
レクシリア復活は無理でした。
許して――
「ごふっ!?」
後頭部からふくらはぎにかけて、バットで打ち付けるような痛みが突如に襲う。
脳が覚醒した僕は上体を起こして現状の確認をする。
草原が茂り、所々に木々が生えており自然に満ちていた。
驚いた。 だが、砂漠地帯にいたはずの僕はなぜこんなところにいるのか?
――さっぱり分からない。
「ごめんなさい。 痛かった?」
と、神様ではない初めて聞く女性の声。
頭を上げると、そこには僕と同じ年ぐらいの若い女の人。
爽やかなオレンジの髪色、肩まで伸びるロングヘアー。
まだ幼さが残る顔立ち、瞳は桃色と。
元いた世界では考えられない美人さんだ。
「名前は分かる?」
「村崎沙久間です」
「ム、ムラ? なんて言ったの?」
なんと一発でフルネームを聞き取れなかったみたいだ。
よし、一言を区切ってしっかりと喋ってやる。
「む・ら・ざ・き、さ・く・ま、です」
「ふんふん。 ムラザキサクマね。 ……かなり変わった名前ね」
異世界では珍しい名前のようだ。
それより自然に溢れた場所にいる理由を彼女に訊かなくては。
さっきまで砂漠にいて、忽然と景色が変わった理由を。
「あなたに訊きたいのですが、砂漠ではないここはどこですか?」
「砂漠? ……ああ、一通廃道のことね」
彼女が指で示した先には熱気で歪み、砂地が広がっていた。
メレドアとはあの砂漠のことだろうか?
異世界にやって来て数時間も経ってないのに謎の言葉が……。
「さては放浪者ね、あなた?」
「まあ、似たような者です」
「やっぱり。 よく放浪者は一通廃道に足を踏み入れて倒れてるのよ。 一通廃道に侵入すれば果てしなく続く砂漠があると幻覚を見る。 で、そんな迷子がいたら、私が放り投げて安全地帯に移動させてるわけ」
なるほど。 進む方角を変えてさえいれば抜け出せてた。
だが、意識が朦朧とした極限の心理状態では歩くことしか頭にない。
メレドアの術中に填まっていたわけだ。
死にかけていた僕を救ってくれた彼女には感謝をしなくてはいけない。
背中が未だに痛みますが……。
「助けてくださり、ありがとうございます」
「いいわよ。 そんなに畏まらなくても」
「できましたら何かお礼をさせてください!」
「お礼はいらないけど……ちょうど人手が足りないの。 良かったら村に住んでくれない? 住むだけでいいから」
「お安いご用です」
おお、運が付いているぞ! しばらくは野宿すると思いきや幸先が良い。
飯も宿も確保できるのは大きい。
しかし、村に住むだけでいいとは都合が良すぎる…………気もするが、一先ず考えないでおこう。
「決まりね。 ここらの土地を根城にするバルネギカの生態も知らないだろうから、歩いて話すわ」
「バ、ル、ネギカ?」
「サクマ…………バルネギカも知らないの?」
「うむ」
眉をひそめて引きつっている。
下の名を呼ばれてドキッとしたのは内緒だ。
「ホント何処からやって来たわけよ」
「遠ーい、遠ーい島国からです」
「よっっっぽど平和な国なのね」
呆れて額を手で覆い隠している。
平和ボケしてるのは否定しない。
「はぁ、私の為にも一から教えとくわ」
「ありがたき幸せ」
おう………美人相手だからか、言動がはっちゃけているぞ。
相手にとったら「なんだコイツ」と嫌悪されてるだろう。
高まる気持ちを自重しなくては。
変な奴だと思われ、嫌われてしまうかもしれない。