その11
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意識が現実に戻ると、飛び込んで来たのは、木の香りと誰かが呼んでいる声。
眠りから覚め重たい目を開くと、吸血鬼のように純血した瞳で銀髪の彼女ことカルラが写り込んだ。
夢……いや、彼女の世界に潜り込んだ僕はカルラの包み隠している目的を知っている。
――再び彼女を復活させること。
何か隠している違和感の正体が分かると、スッキリする。
店主が警告を出していたのも納得がいく。
確かに普通の霊闢ではないな。
危険視している僕は警戒してしまう。
見る目が変わってしまうのは仕方ないか。
「ほら、さっさと起きなよサクマ。 作戦開始するよ」
「もうそんな時間か。 じゃあ向かおう」
だらけた身体を背伸びして叩き起こす。 血流が全身に行き渡り心地よい。
シャドーボクシングをしているトルカも準備万端のようだ。
……いつ魔法を貰おうかな……決心しなくては。
「皆体調も万全だね。 それとサクマには、彼が残したブロックを渡しておくね。 私には使えない代物だから」
「黒と紫のブロック一個ずつか。 能力はなんだ?」
「さあ? 彼が死に際に渡した物だから分からない。 開いてからのお楽しみってとこかな」
困ったな。 これじゃ使いどころのタイミングも戦闘で役立つかも分からない。
彼女のことだ。 きっと俺の助けとなる能力だと信じるしかないな。
「君たちには不可視の建物のようだから私に着いてきてね」
「了解」
「言わずとも、カルラちゃんにはべったりとくっ付くよ」
引っ付き虫かよトルカは。
よく茂みのとこに三角の形をした植物のことだ。
引っ付くと採るのには苦労する。
現在進行中だ。
諦めたカルラはそのまま一階に降りていき、俺は部屋の鍵を掛けたのち店主に返した。
丁寧にお辞儀をされ無事を祈っているようにも感じ取れた。
外へ出ると壁掛けランプが街中を照らしている。 首を夜空に傾けるとポツポツと不吉な紅の星が輝いている。
なにかの前兆かと不吉な星。
夜空を見上げながら歩いて五分も満たないとこで、カルラの足が止まる。
「ここだよ。 準備はいいかい?」
「いつでも来い」
「私も」
すでに刻鉄の蒼を拳に込めて待機中のトルカ。
見えない壁に向かい蹴りを入れるカルラ。
勢いよく扉は開き敵が二人視界に入る。
座って談笑していたのか、突然のことに対応しきれない看守は立ち上がりが遅い。
先手必勝をさせてもらうと足を蹴るが時すでに遅し。
カルラとトルカの看守達をコテンパンにやっつけていたからだ。
トルカに至ってはワンパンで看守沈め、カルラは前蹴りで腹をクリンヒットさせ顎に蹴りを入れた。
当然看守は気絶している。
数の暴力なんていらなかったのではないだろうか?
僕が不在でも二人で対応出来るなら宿屋で泊まっておけばと後悔する。
「弱いわねコイツ」
「同感だね」
「出る幕がなかったぞ」
「あはは。 この後サクマの力が必要になるからさ」
あー、良かった。
これで仲間を救出後帰還すると、だけ報告されたら虚しさしか残らないぞ。
出る機会があるだけで幸せを感じるよ、うん。
「ここの扉を潜って左に延びる螺旋階段を昇った先の部屋に、私の仲間がいるよ」
「案外楽なミッションだな」
「難所は看守だけだったからね」
難所ではなかったような……。
疑問に思いつつも、白目を向いている看守を通り抜け灰色のドアを開く。
カルラの情報通り左手に螺旋階段が続いている。
作った奴の趣味なのか、明るい黄色でコーティングされた階段は色的に目が痛い。
数歩昇って気づいたが、この階段の材質は音を吸収する。
足音はせず忍び足で歩いている感覚だ。
音が響かないのは好都合だ。
看守は沈めたが、敵はまだ眠っている。
起きられては面倒になるので、とっとと仲間を助けて退散しよう。
「目立つ部屋だな」
ピンクの配色の怪しいスライドドア。
なんだか変人が飛び出して来そうである。
首を縦に振り合図を確認し、僕はそろっと左へと開けると見ては行けない大人の光景が瞳に飛び交う。
「もっと! もっとくださあああい!」
「こーの豚野郎がああああああああ!!!」
すぐ閉めた。 閉めるに決まっている。
いやいやいや、部屋絶対に違うって。
日本でもあるちょっと過激なお店でやってるのと同じだ。
断じてこの部屋ではない。
「おいカルラ。 部屋間違えるなよ」
「え、そんな筈は………私に部屋の状況見せて」
自らおぞましい世界に踏みいるとは恐れ入る。 戸を少し開けたカルラは………すぐに閉めた。
ほら見ろ。 部屋間違っているだろ?
「非常に言いにくいけど………………ここで合ってる」
「はぁ、どれが仲間だ?」
「……男を叩いている方」
苦虫を食べたみたいに顔が強張っている。
どうして仲間が敵の男を叩いているか把握できないようだ。
理解もしたくないが念のため二、三回カルラに問わせてもらう。
仲間じゃないと信じてドアを開く。
「たまりませんんんんほおほほ!」
「まだ食い足らないかああああ!」
即閉める。
「な、やっぱり隣の部屋だろ?」
「ここだってば」
少し開いて目視。
「女王様さいこおおおおふふふうううう!」
「尻を叩いて喜ぶ変態があああ!!」
やはり即閉める。
「どう見ても下の階だろ?」
「だからここだってば!」
「ぐっ、信じたくなかったよ!」




