第四話
二日続けて投稿!
でも再来週まで定期考査があるのでしばらく休みます・・・ううう・・・
※編集完了です。新しいキャラが増えました。
その後聞いたところによると、花咲ちゃんはどうやら1年A組へと転入したようだ。あのクラスは確か顔のいい男子が多いことで有名なクラスだと女子生徒が言っていた気がするから、まだ薫Xが言っていないキャラたちがそこにいるのだろう。このゲームの攻略キャラはたしか十何人くらいと薫Xが言っていたので、まだまだ何人も私を殺す(かもしれない)攻略キャラはいるわけか・・・。
とりあえず今後の目標は、私の安全のためにも花咲ちゃんの今後の行動を知ることだろう。
私はゲームをやっていないし、頼りは薫Xの情報だが最近は他の攻略キャラのことしか言わず、肝心の花咲ちゃん情報は話してくれない。もし花咲ちゃんの行動で誰のルートに入っているのかわかるなら、誰に気をつければいいのかもわかるだろうし。
まあ、恐らくまだゲームの序盤の序盤のキャラとの初絡みのあたりだろうし、一応心構えだけはしておこうか。
さて。
私は今学園のある廼三木町を離れ、母さんの待つ家のある地元・上代町へと帰ってきていた。
ここ最近はどたばたとしてまともに帰れていなかったことを思い出し、休日を利用し帰省したのだ。
ゆっくりと指を伸ばしてチャイムを押す。最後に聞いた時と変わらないピンポーンという間の抜けた音がして、すぐに中からパタパタと走ってくる音が聞こえる。誰かというのは、言うまでもなく。
ガチャリとドアが開かれる。そこから出てきた人を、私は思い切り抱きしめた。
「母さん、ただいま!」
「お帰り、椋。」
にこりと笑う母さん。この瞬間、私は生きていてよかったと実感し、母さんより早く死ぬなんてことをするものかと決意を固めるのだ。
私の母さんはそれなりに大きな会社の長女として生まれた。
優しい両親と明るい弟に囲まれ、幸せに暮らしていた母さん。だがその暮らしはある日、一人の男・・・後に私の(認めたくはないが)父さんとなる男によって崩された。
父さん(父さんなんて呼びたくないので次から奴とする。)と母さんは働いている会社が同じということで知り合い、意気投合して交際をスタートさせた。最初はとても優しい人だったそうだ。それを思い出す母さんに私はとても悲しくなると同時に、奴に対しての憎しみがドロリと溢れ出す。『優しかった奴』とやらなら、母さんにすべてを押し付けて逃げないだろう。
結論から言えば、母さんは裏切られたのだ。
その片鱗が見えたのは、交際して4年がたち、母さんが結婚を考えだした時だ。
母さんが有給を取っていたある日、当時住んでいた家に借金取りが押しかけてきたのだ。
借金取りは奴を出せと母さんに迫った。怯えながらもまだ仕事から帰ってきていないと母さんが答えると、じゃあお前が金を払えと言ってきたそうだ。母さんは一瞬迷ったが、どうせもうすぐ夫婦になるのだからと借金を全額払った。貯金を崩し、足りなければ両親に頭を下げてお金を借りた。きっと両親・・・私の祖父母も、娘の未来の夫のためならと金を貸したんだろう。
その日の夜、母さんは帰ってきた父さんを問い詰めた。なぜ借金などをしたのかと、どうしてそれを話してくれなかったのかと。すると、奴はこういったそうだ。「お前に心配をかけたくなかったからだ」とかなんとか。それを聞いて感動した母は、翌日婚姻届を役所に提出した。その時の母さんに言いたい。アンタ信じやすすぎじゃないか、と。
その数週間後、母さんのお腹の中に私が宿った。
そのことを奴に報告した次の日、奴は五枚程度のなぜか連帯保証人の所に母さんの名前が入った借用書と、置手紙と離婚届を残して消えた。
その手紙には口に出すのもおぞましい母さんへの侮辱の言葉が書かれていた。以前見せてもらった時、破り捨ててしまいたくなった私を誰が責められるというのか。思い出したくもないが、それに書いてあったことを要約すると「お前の家が金持ちだから付き合ってやってただけだ、勘違いしてんじゃねーよ、ついでにこの借金払っておけ、あと子どもは産むなよ、めんどくさいから」といった感じか。・・・あーまじ腹立つ。
それでだいぶ心に傷を負ったのだろう。私を産むかどうか悩みに悩んで、結局産むことにした。それは何故かと聞いたことがある。すると母さんは笑ってこう言った。
「あの人は酷い人だったけれど、だからってその事を理由に命を無駄にしていいわけがないじゃない。私はね椋、貴女に会えて幸せなのよ。」
それを聞いた私は、ただひたすらにうれしかった。それと同時に、確信した。
母さんは・・・きっと人生を失敗するほどにお人よしなのだ。
自分がその事でどんな目に遭おうとも、裏切った奴のことを恨まないように。
これ以上迷惑をかけられないからと、今度は自分だけで借金を返したように。
それが原因で貧血になって倒れようとも、離婚届を提出しないように。
この世界で生きるには、母さんは優しすぎる。
だから私は決めたのだ。せめて母さんに幸せな生活を返したいと。
私に幸せをくれた母さんに、必ず。
前世の私と同じような思いをさせてたまるものか、と。
「―――で、おじいちゃんたちと食事してみてどうだった?ちゃんと仲直りしたのよね。」
「もう、椋は心配性ね。大丈夫よ、とても楽しかったわ。父さんったら勢い余って泣いちゃって、大変だったんだから。」
くすくすと笑う母さん。もう40代後半とは思えないほど、母さんはいつまでも若々しい。20代後半と言われても信じてしまいそうだ。だから、買い物に行った時や少し遠出をしたときにちゃらちゃらした男にナンパされたりもする。もちろん私が追い払いましたがなにか。私はちゃらちゃらした世の中をなめきっている奴が大っ嫌いである。前世でも、今世でも変わりなく。
「あ、そうだ。」
たわいもない話をしていると、母さんが思い出したように声を上げた。
「な、なに?」
「椋、先生になったのよね?ちゃんとやってるの?」
・・・思い出した。
私はまだ死亡フラグを折ったわけではないのだ。まさか「うん!そのせいで私近々死んじゃうかも!」なんていうわけにも言わず、適当な話をしてやり過ごす。
「う、うん!もちろんちゃんとやってるよ!生徒のみんなもいい子ばっかりで―――」
ああ、早く未来が安全な生活がほしい。
それは、墓場には不似合いな格好をした一人の男だった。
派手な雰囲気の男だ。肩まで伸ばした髪をキツイ色合いのピンク色に染め、耳には骸骨をアレンジしたピアスをジャラジャラとつけている。自分を過度に飾り立てるような恰好をしている男だが、彼の首にかかる指輪だけは飾り気のないシンプルな物で、まるで石ころの中に混ざったダイヤモンドのように浮き立っていた。
「なあ、なんでお前は俺の前から消えたんだ?」
色気をまとったかすれた声。すっと指輪がいくつもはまった手を伸ばし、まるで壊れ物を触るように墓石をなでた。
そこに書かれた名前は、彼の愛しい恋人の名。
「俺はお前しかいらねーのに、お前はそうじゃねーんだもんな・・・。イラついて嫉妬してもらいたくもなるだろ?なのにお前は勝手に別れるとか言うし、おまけに死んじまうし、お前のオトウトとかいう奴は毎日毎日キャンキャンうるさいし・・・。お前のせいで、俺の生活はめちゃくちゃだ。」
まるで自分が被害者だというように男は言う。全ては、自分が起こしたことであるというのに。
「だから―――責任とって来世で俺を愛せよ?」
瞬間。
男は持っていたナイフで自分の首を躊躇なく切り裂いた。
傷口から血が噴き出し、墓石に降りかかる。それはまるで、何かを捕えようとするかのように墓石を包み込む。
そしてそこには、狂った男の自殺死体だけが残った。不思議なことに、その後警察が死体を調べると男が肌身離さず持っていたという恋人とのペアリングが、どこを探しても見つからなかったという。
男の名前は來瀬昼間。つい先日恋人を交通事故で亡くした、一人の男だった。
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