第二十話
短い!ここ数話のところとても短い話が続いているのでそのうちくっつけるかもしれません。
花咲ちゃんがだいぶかっこいいです。
興味本位で見ていただけなのに、なんだか話が変な方向になってきた。
ここに来て初めての乙女ゲーム的展開。いやまあ相手はおそらく攻略キャラではないと主けど。
「・・・・・・。」
あまりのことで言葉を失っているのか、腕を組んで立ったまま微動だにしない花咲ちゃん。
その様子をどうとらえたのか、やっぱりおびえたような表情を見せる少年。けれどやっぱりそこは男の子。指をいじいじと回しながら、ぽつぽつと花咲ちゃんを好きになった経緯を言い始めた。
いわく、初めて花咲ちゃんを見かけたのは一年前に行われた澤凪家主催のパーティーでのことだったらしい。
ゲームが始まる以前のことは薫Xといえども知らないのでわからないが、とにかくそのパーティーには花咲ちゃんもいて、その芯の強そうな姿にあこがれたようだ。
その時はまだ名前も知らなかったけれど、自分と同じクラスに編入してきた彼女を見てこれは運命じゃないかと思い、勇気を出して告白したんだ、とジャズ傾げにしゃべる様子は、まるで愛らしい小動物のごとくかわいい。
かなり甘い雰囲気になってしまった木の上で、年甲斐もなく胸をキュンキュンさせながらその様子をうかがっていた私は、見つかったらとんでもない間男(女だけど)に見えるだろう。危ない危ないと彼らから離れるように身を動かす私に、天啓ともいえるある一つの考えが浮かんだ。
―――もし花咲ちゃんが、攻略キャラ以外の人間と付き合ったとしたら。
そうだ、なんで今まで考えていなかったのだろう。
花咲ちゃんが攻略キャラの誰と付き合っても死んでしまう悪役キャラ、倉橋椋。それなら、花咲ちゃんが誰とも付き合わなかったら?
少なくとも死んだりはしないんじゃないか?
思わぬところに救済の手が転がっていたものだ。再び、今度はものすごく前のめりになりながら下をのぞき込む。
がんばれ、名も知らない少年!!君の手で私の命を救ってくれ!!!
長い長い沈黙を破って、花咲ちゃんが口を開く。その形の良いプルプルした唇からこぼれる言葉を今か今かと待ち望む少年と私。
しかし、その言葉は私たちを絶望へと叩き落した。
「嫌よ。」
「「えっ!!?」」
あまりに衝撃的なセリフに思わず声が漏れてしまって、慌てて口を押さえながら少しでも見つかりにくくするためにうずくまる。幸い花咲ちゃんも少年もいぶかしげに上を見ただけで、気にせずにお互いを向き合ってくれたので見つかってはいないだろう。ほっと胸をなでおろす。
「ど、どうしてですか!?」
少年は自分が降られたのが納得いかないようで、少し眉を吊り上げながら花咲ちゃんを問い詰めた。あ、でも目が涙目だ。
「僕が嫌いだからですか、だから・・・っひっく。」
涙目になっていると思ったら今度は本当に泣き出してしまった。目からぽろぽろと涙を落とす様子は言っては悪いがさっきよりもさらにかわいらしい。なんだろう、幼い子供を見てる感じ?
そんな少年を見た花咲ちゃんはいらだったように頭を乱暴に掻いて、泣きじゃくる少年の手を取った。そして―――。
「泣くんじゃない!!!」
普段の彼女の数倍はあろうかという大声で少年を怒鳴った。
少年は茫然とした様子でピクリとも動かずに、潤んだ薄茶色の目をこれでもかと見開いて、真剣な表情で自分を見る花咲ちゃんを見つめ返している。
花咲ちゃんはもう一度少年の手を握りなおして、「男でしょう。」と声を漏らす。それはまるで、聞き分けのない子供を諭す母親のようだった。
「全く、振られる覚悟もなく私に告白したの?とんだ間抜けね、あんたって。」
握っていた手を離して突き放すようにそんなことを言う。それを受けた少年はまた泣き声を上げそうになったけれど、それを防ぐようにまた花咲ちゃんが口を開く。
「言っておくけど、私が断ったのはあんたが嫌いだとか嫌いじゃないとか、そういう理由じゃないわ。私にはすべきことがあるの。それが終わるまで、恋愛ごとに難敵をかけてられないもの、お断りよ。」
「そんなぁ・・・。」
自分のことを嫌ってはいないと分かって一瞬明るくなりかけた少年の顔だったが、その後の花咲ちゃんのはっきりとした拒絶に再び雨が降りそうなほどの曇天になる。
用が済んだとばかりに花咲ちゃんは元来たほうへと歩き出した。けれど、ふと何を思ったのか、ぴたりと足を止める。
「けど、まあ。」
今にも泣きそうな少年に向けて、いつも吊り上がり気味の眉を少し下げて、名前の通り春のように暖かく笑った。
「それが終わった後なら、考えやらなくもないわね。」




