第十七話
短い!単発で申し訳ない・・・。
いい機会なので、この場にいる女性という女性から(私以外)うっとりとした視線や声を投げかけられる彼らについて紹介しておこうと思う。
彼らの先頭を不機嫌そうに歩く生徒会長、澤凪麗羅。薫Xの情報によれば彼は完ぺきな好青年というか王子様的な人だと思ったが、私的にはちょっと無理しすぎなただの子供だ。まあ、完璧な人間なんてこの世にいないというのは、ゲームの世界であっても同じことなんだろう。図書館で会った・・・というか発見した時の顔の青さは見る影もなく健康そうだが、若干眉間にしわが寄っている。なんだろう、これだけの人に熱視線を当てられて恥ずかしいんだろうか。でもそんなシャイなタイプには見えないし、そもそも恥ずかしがりだったら生徒会長なんて目立つ役職にならないと思うけれど・・・うーん、謎だ。
その後を付き従うように歩くのは、副会長、襖陽。彼の家、襖家は澤凪家の分家にあたり、彼と澤凪君は時には社長と社長秘書、時には気の合う友人としてとても仲がいいのだという。一見誰にでも笑顔を振りまく王子様のような澤凪君と、鋭い冷ややかな氷を思わせる美貌の襖君とは相性が悪そうだけど、彼らの中で何か家柄とかを超えた通じ合うものがあるんだろう。そういう男の友情的なものは私としても好ましい。どうかこれからもその関係を続けていってほしいものだ。
・・・ちなみに、彼が花咲ちゃんと結ばれると、花咲ちゃんは全身の感覚を奪われて徹底的に襖君に世話をされる。それはもう、食事や風呂、移動などなどありとあらゆるものを。
そして倉橋椋aは手足を拘束された後じわじわと精神をいたぶられるらしい。怖い。
まばゆいほどの笑顔で向けられる視線や声にこたえるまるで鏡写しのようにそっくりな彼らは、会計職と書記職、棚吊潮芽か、棚吊風芽か、棚吊凍のうちの二人である。こんなあいまいな説明を言うのはなぜかというと、薫Xの情報があやふやだったとかそんなわけではなく、彼らが絶賛入れ替わり中な以上、私にはまったく見分けがつかないのだ。
彼らは家族でさえも見分けがつかなくなるほどにそっくりで、小さいころは良く家族や使用人を脅かしたりして遊ぶ、仲のいい兄弟だった。けれど、小学生になった時に、凍のみが家からの外出を一切禁じられた。凍が当主の愛人が産んだ子供だということが、その妻にばれてしまったためだ。その愛人と当主は愛し合っていたのだが、愛人は棚吊凍を生んだ時に体調を崩して死んでしまった。それから棚吊凍は当主の息子として迎え入れられ、その後健康に育った。と、ここまでならばただの美談で終われるのだが、ある日最悪な出来事が起きた。それまで寝たきりだった妻が体調が良いからと部屋から出て向かった先に、仲よく遊ぶ自分の息子たちとうり二つな姿をした子供を見つけてしまったのだ。
その後妻は当主を鬼気迫る勢いで問い詰め、真実を知った。自分の夫が自分以外の女に子供を身ごもらせて、とどのつまりは愛し合っていたという信じたくもない真実を。
妻の怒りは死んだ愛人とその子供、凍に向かった。そして凍を殺してしまいたいという思考にかられたが、彼女のほんのわずかな理性がささやいた。
名家の棚吊家の妻として、子供を殺したなんてことが万が一周りに知れては家と子供の名誉に傷が付く。どうしたらいい、あの忌まわしい子供を、この家から出さないようにして、この世に存在していないことにしてしまえば。
それは理性というにはあまりにも歪んでいた。
彼女はその恐ろしい考えを実行してしまった。幸いというか不幸にというか、彼らはまだ小さかったので社交界にデビューしていない、つまりはその存在をもみ消すのも簡単だということ。あまりにあっけなく、棚吊凍はいないものになった。
当主は暴走する妻を止めることはできなかった。元は自分が愛人である彼女を愛してしまったのが悪いという罪悪感が、彼の手を、体を動かなくさせた。
訳も分からずに狭い部屋に押し込められて、まるで家畜のように飼い殺される日々に、幼い棚吊凍は泣き叫び、願った。
「外に出たい」、と。
それを叶えたのは、棚吊潮芽と棚吊風芽だった。
彼らはその小さな体躯を生かして、毎日のように窓から鍵のかかったその部屋に忍び込み、そして潮芽か風芽のどちらかが凍と入れ替わった。彼らのそっくりなその姿が功をそうし、小さな彼らの作戦はだれにもばれることがなかった。
時がたち体が大きくなっても彼らはそっくりなままだった。窓から入れなくなった代わりに、ピッキングの技術を学んでカギを開けることを覚えた。誰もが寝静まった夜中には、こっそり家を抜け出して三人で外を歩いたりもしていたらしい。
そしてこの峰來祭にも、彼らは三人そろって来ているのだという。
彼らは攻略対象のキャラクターの中で唯一、ルートがこの峰來祭から始まる。
峰來祭二日目に、花咲ちゃんはホテルの中で迷子になってしまい、生徒会役員が使うフロアまで来てしまう。誰かに自分の部屋までの道を聞こうとドアをたたいた部屋が、彼らの使う部屋だった。出てきたのは棚吊凍。花咲ちゃんの様子から迷ってこの部屋のドアをたたいたのだろうと推測した彼は、潮芽のふりをして対応することにした。
「あなた、潮芽先輩じゃありませんよね?」
今まで誰にもばれなかった演技、だからこそ彼は驚いた。そして、とても興味を持った。目の前で不思議そうに首をかしげる、この少女に。
そうして彼らとの恋は始まっていく。
最終的には、花咲ちゃんは目を見えなくさせられて、一生を棚吊家のある一室で過ごすことになる。そう、凍が昔閉じ込められた、あの狭苦しい部屋で、三人のうちだれかがそばにいる状態で、残りの人生を薄暗く過ごす。ちなみに倉橋椋aは凍を閉じ込めていないものにした本妻とともにまとめて窒息死させられることになるらしい。邪魔者はまとめて排除ってか。ハハハ、笑えない。




