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第十六話

この週末はあまりパソコンがつつけなかったので短いです。

―――大好きですよ、椋せんせー。

「うわぁあああああああああああああああああ!!!?」

ばね仕掛けの人形のように飛び起きる。ただ寝ていただけだというのに、私の全身はびっしょりと汗をかきぜぃぜぃと肩で息をする。

心臓の鼓動がどくどくとうるさい。

とりあえず落ち着かせるために、目を閉じて大きく息を吸い込む。数度それを繰り替えしてもう一度目を開けると、差し込む朝日に照らされたそこは私に与えられた船の一室だった。

ちらりと自分の服装を見てみると、寝間着代わりにと家から持ってきていた黒いジャージ。軽く腕を前後に回してみたり、床に足をつけて屈伸運動をしたり、そのほかいろいろとやってみたけど体が痛いとかそんなことはなかった。

額に手を当ててみてもいたって平熱。一通りの身体検査を終えて、私の中に一つの疑問が浮かんだ。

「病気でもケガから来た幻覚でもないんだったら、どうしてあんな夢を見たんだろう・・・。」

あんな夢、といったところで夢の内容を思い出してしまい、顔のほうへ血が一気に集まった。

いい年して、しかも教師のくせして、自分の教え子に告白されてキスされる夢を見たなんて、恥ずかしくて死んでも言えない

実のところを言うと、向井先生が私の腕を何を血迷ったのか抱きしめて首元にすり寄って来るなんてことをした後ぐらいから、記憶がすっぱり消えている。いくら記憶をあさっても、まるで濃霧の中に記憶をまるっと落とされたかのように、薄ぼんやりとしか浮かんでこない。

気が付いたら私はドレスのまま自分の部屋の前で馬鹿みたいに突っ立っていた。その時はとにかく眠たくて、いつの間にここにいたのかとかそんなことは考えずにおざなりにドレスを脱いで着替えて眠ってしまった。夜更かしなんてしたことがない私には、深夜まで起きているというのは苦行に等しかったからだ。

そして現在に至る。

久那城君の熱い眼が、体に回された腕が、頭から離れない。

口を引きつらせながら、自分への嘲笑をこぼす。

「夢に照れるだなんて、まったく、生娘じゃないんだから。」

自分の年を考えて、今度は嫌な汗が汗が止まらなくなった。


ようやく、ようやくだ。

長い長い船旅はいったん終幕を告げて、私たちは目的の島へと到着した。とはいっても船旅は一日だけだったのだけど、私としては1週間に割って薄めたいくらいに濃い一日だった。

一種の感慨にも似たような思いに心をはせながら、軽い足取りで船のタラップを降りる。あんな目覚めでも眠気はきれいさっぱり消え去ってくれていたので、何ならいつもより調子がいいくらいだった。

このリゾート島は山がそこまでないなだらかな地形で、森林にビーチ、そして草原とまさしく観光地として使うのにはうってつけな島だった。

もともとはどこぞの富豪が所有していたらしいが、やむなく手放すことになった際に理事長が買い取った。詳しい理由は聞いていないが、まあゲームだからと自分を納得させている。藪から蛇が出るのは勘弁だ。

都会ではなかなか見ることのできない森林の生き生きとした緑を楽しみながら、ホテルまで整備された石畳の上を歩く。

周りの生徒たちも教師もみなあからさまではないものの、どことなく気分が高揚しているように見える。そりゃあそうだ、私だったら学校行事でこんなところに来れたらそれだけで一か月前からワクワクしてしまう。

楽しい散歩を終えると、見上げたら首が痛くなるほどに高いビルについた。日の光を受けてキラキラと輝くそれはとてもこれまで歩いた島の風景と会っておらず、一瞬ここはどこだろうと錯覚してしまいそうだ。

周りの人が皆当然のように中へ入っていくので、どうやら目的地はここであっているらしい。

あんな非日常じみた場所で勤務しているというのに、まだこういういかにも一般庶民が入れそうにないところに対しては自然と体が臆してしまう。

立ち止まったりしては変に注目されるだけだと言い聞かせて、何とかそこへ足を踏み入れた。

自動ドアがかすかに音を立てながら開き、タイミングを見計らったかのように「いらっしゃいませ」という声が四方から一斉にかかった。

ロビーには十数名のスタッフの人がこちらに向けてきれいにそろったお辞儀をしていた。さすが峰來学園の理事長が運営するホテル。

ここは峰來祭以外の時は世の中のセレブがこぞって利用する一流ホテルだということなので、きっとスタッフの人のお給料もお高いのだろうななんて俗っぽいことを考えてしまう。普通ならこの場にいられないだろうから、さっきよりもテンションが上がっているらしい。

そんなことを考えていると、あれよあれよという間に荷物を預かられてしまう。荷物を取り戻そうかと口を開いた私に、若い女性のスタッフは荷物ではなく一枚のカードを手渡した。

思わず受け取ってしまったそれは、とても上質な紙でできていた。二つ折りにされたそれを恐る恐る開けば、ツタで縁取られた枠の中央に金の21の文字が輝いていた。

「あの・・・これはいったい?」

なぜカードを渡されたのかもこの数字の意味も全く分からない私は戸惑いながらそう聞くけれど、スタッフの人はにっこりと笑って「これから説明がありますから。」としか返してくれない、というか荷物も返してくれない。

一年生の生徒は私と同じように困惑しているようで、皆一様にざわざわしているが、二、三年生と教師は全く驚かずに自分の番号を確認して一喜一憂している。番号で一喜一憂するとは一体どういうことなのだろう。

さらに混乱が増した私を置いて時間は流れる。

突然生徒たちの黄色い歓声が上がった。何があったのかと女子生徒たちの視線の先をたどってみると、そこにはまぶしさで目を覆いたくなるようなメンツがそろっていた。

生徒会の皆様のご登場だ。

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