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第十三話

少し短いです。

皆影統吾、29歳。

攻略キャラの中では唯一の結婚歴がある、いわゆるバツイチなキャラだ。

航空機事故で最愛の妻をなくしてしまった彼は、それ以来節操無く女遊びを繰り返す最低クズ男になってしまった。その遊び相手の中に倉橋椋aもいて、椋aは勝手に自分が皆影の一番愛されているとかなんとかイタイ勘違いをしていた。そして精神的にすれてしまった皆影は妻の面影を持つ主人公花咲春香に出会い、椋aの仕打ちから花咲ちゃんを守りながら本当の愛に気づいていく・・・とここまでならかなりまともな話に見えるだろう。

問題なのは彼の性癖である。

彼はどうでもいい他人には単なるゲスで、好きな人にはカニバリズム・・・つまりは「あなたのことが好きなので食べてしまいたいな(文字通りの意味で)」な人なのだ。そして嫌いな人にはどうするのかというと、趣味で作っているという法律違反しまくりな薬物で体を徐々に痛めつけてくる、なんともまあ粘着質な奴なのだ。趣味で薬物なんて作るなよ、高校教師が。

何が言いたいかというと、花咲ちゃんが彼と付き合うと私は薬物中毒者にされていろいろと終ってしまうということだ。

もちろん彼と私には一切そんな関係はないが、どう話が転ぶのかわからないので恐怖対象でしかない。なんせ私は、ゲームではどうやったって死ぬ悪役キャラなのだから。

なのでこの状況は非常にまずい。

「倉橋先生どうかしましたか、手が止まってますけど・・・。」

「い、いえ・・・何でもないです。」

他の所へ行ってくださいとも言えず、そのまま相席することになってしまった。さっきまであんなにおいしかった料理でさえもまるで空気を食べてるみたいに味がしない。なんでこんなに恐怖を感じるんだろう。別に口調を荒げているわけでもないのに、なんか怒ってるように感じる。似たようなしゃべり方でもなんかふわふわしている向井先生とは大違いだ。

こんなに食事がつらいなんて思ったのは初めて。なぜか皆影先生こっちをじーって見てきてるし・・・居心地が悪すぎる。

そんな私の願いが通じたのか、ようやくカルボナーラがなくなってくれた。

「じゃあ私は失礼します!」

これ幸いとばかりに立ち上がる。がたっと音を立ててしまったり早口にしゃべってしまったりと礼儀としては悪すぎるが、今はいち早くこの人の前からいなくなりたかったので気にしてられない。

後ろから「倉橋先生!?」という皆影先生の驚いた声が聞こえたが、私の足は止まらなかった。今日はよく男の人から逃げる日だなぁなんて現実逃避をしながら、私はあてもなくぶらつくために出口のドアを目指した。

「・・・行っちゃったかぁ・・・残念だけど、椋がものを食べている姿が見れたからいいか。ああ、あの唇で俺の指とか食んだり舐めたりしてくれないかな・・・。」

それにしても、なんであんなにおびえてたんだろう。かわいいけど。


畜生、もっといろいろ食べたかった。

逃した魚は大きかったというが、私の逃した料理はきっとおいしかっただろう。

半ば追い出されるようにレストランを出た私は、苛立ちを隠そうともせず眉間にしわを寄せて廊下を歩いていた。私の顔を見た生徒たちがぎょっとした様子で二度見していくが、取り繕おうとしても表情筋が職務怠慢して働いてくれない。

それより私は本当にどこに行けばいいのだろう。私がどこかへ行くたびに攻略キャラに遭遇している気がするのだが。

「・・・自室に引きこもっているしかないのかなぁ・・・。」

私に残されたオアシスは自室だけだというのか、泣いていい?

涙をこらえながらとぼとぼと歩き、ようやく自室のドアを開ける。するとベッドに投げ出されたカバンの上に乗った携帯電話がちかちかと光っているのを見つけた。機種変更するとまた莫大なお金がかかるのでお母さんのものをそのまま引き継いだのだが、年がたっているためかすぐに充電が切れるので充電をしたままだったのだ。

パカリと開いてみると、画面には新着メールを受信しましたの文字。

ボタンを慣れた手つきで操作してメールを開くと、そこにはこう書かれていた。

『宛先 不明:タイトル なし:本文 オマエダケヲミテイル マッテイロ、スグニムカエニイク』

「」

ホラー怖い。

ベッドでがたブルしていると、いつの間にか夜になっていたらしい。どれだけふるえてたんだ、私。

この豪華な船には少し不似合いなチャイムの間抜けな音が流れ、男の人の声で「これよりダンスパーティーを開始いたします。どなた様も正装に着替え大ホールへと集合願います。」という放送がかかった。

思うんだが、なんで島に行って散々踊るのにここでもやるんだろう。以前そんな素直な疑問を夢で薫Xに言ってみたところ、「回数があったほうがいろんなキャラのスチルを見られるじゃない。」と言われた。スチルってなんぞや。

スーツケースを開いてドレスを取り出す。梢に買ってもらったはいいけれど、そのお金はどうやって返せばいいのかと悲しくなってしまう。いやいや、今はそんなことを考えている状況ではない。

5枚あるうちの一枚を選び、体に当てる。白を基調としたシンプルなドレスだ。飾りがジャラジャラと就いたのはあまり好きではないし、余計に金がかかるだけなのでそういうものは買っていない。それを聞いた梢はとても残念そうな顔をした。なんでだ。

手早くドレスを着て、髪を簡単にまとめる。鏡の前に立つと、完璧に自分が服に着られているように感じてしまう。元が悪いとこんなことが起こるからいやだ。

それでも私はいかなくてはならない、花咲ちゃんと攻略キャラの愛が渦巻くダンスパーティー(一回目)へ。

覚悟を決めてドアを開けた私は、果たして無事に戻ってこれるのだろうか。それは神のみぞ知る。

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