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第十一話

なんか花咲ちゃんがいつもよりいい子に見えます。というか花咲ちゃんは(男が絡まなければ)普通の根がいい子、という感じです。

唐沢君と別れた後、さて、と私は腕組みをした。あの時唐沢君に助けてもらったのは紛れもない救済ではあったのだけれども、助かったと同時に私はやることを失ってしまったわけであった。

今もう一度甲板に出るという愚行を犯せば、おそらくあの二人にまたつかまってしまうだろう。彼らはきっと日差しに充てられてあんな感じのことを言ってしまっただけだろうから、もう一度私が姿を見せれば今度は鬼気迫る表情でさっきのことは忘れろと脅しにかかってくるだろうからあまり会いたくない。痛いのは苦手なのだ、精神的にも肉体的にも。

はてさて、いったいこれから私は何をすればいいのか。

助けを求めるように壁に掛けられた高そうに絵画を見てみるも、そこに描かれた彼女はただ静かにほほ笑むだけだ。

仕方がない。

廊下にいつまでも立ち尽くすこともできないし、まずはこの船の探検でもしてみよう。歩くだけならタダだし、昼食までの時間つぶしにもなるだろう。ちなみに現在午前10時である。

思い立ったらすぐ行動。さっそくふかふかとした絨毯へ第一歩を踏み出そうと、したのだが。

「倉橋!」

まるでこの廊下全体に響いたのではないかと思えるほど大きな声で、背後から声をかけられた。それに反応して私の体がぴしりと固まる。なぜならこの声の主は本来ならば今頃、私なんかの相手なぞせず主人公としての仕事をはたしているべき人だからだ。

恐る恐るとこわごわと、いやな予感がしながらも振り返る。すると案の定、そこに彼女は凛として立っていた。

清潔そうな白の薄手のワンピースに、首元できらきらと光る青い石のペンダント。肩にはトートバックを下げていて、一見すればまるでどこぞの病弱なか弱いお嬢様というような出で立ちだが、生まれつきなのか少し釣り目勝ちの目から放たれる目力によりその幻想は打ち砕かれる。

まあ、彼女がお嬢様であるということは当たっているけれど。

「は、なさきちゃん。」

「全く、倉橋の分際で私の手を煩わせるだなんてどういう了見なのかしら。この埋め合わせは後できっちりいただくわよ、倉橋!」

いろいろ言いたいことはあるが、とりあえず。

「花咲ちゃん、先生をつけようか。」


ついてきなさい、とだけいうと自分の来た道を歩き出した花咲ちゃん。理由も何の説明も告げられることがなかったため私は少し面喰ってしまったが、ついていかないと怒られる気がしたので慌てて後を追う。年齢的には私のほうが上なのになぁ。

こうしてみてみると、私の目の前を悠然と歩いている花咲ちゃんは、ゲームとはだいぶ違うように思う。

ゲームでの主人公、花咲春香という人はまさしく大和撫子っというような感じの少女だった。

家が特別貴族的なわけでもない、しいて言えば中間的な会社の社長令嬢に生まれたゲームでの花咲ちゃん、長いので花咲Lちゃん。

ある日父親の会社が倒産の危機に瀕し、以前から親交のあった澤凪家さわなぎの跡取り澤凪麗羅さわなぎれいらと婚約することで資金援助をしてもらうことに。

それにより彼女は転校を余儀なくされ、峰來学園へとやって来るというのがざっくりとしたプロローグだったと思う。

キスをされれば真っ赤になって後ずさりをする、手を握られれば真っ赤になって目をそらす、でも芯の強いところがあって・・・。

なんかそんな少女漫画の主人公みたいな美少女だった気がする。

しかしここにいる花咲ちゃんは、そういったタイプではない気がする。むしろ、なんていうか、に、肉食系女子?

「なにぼーっとしてるのよ倉橋。」

考え事をしていると、前方にいた彼女からまるで頭が弱い子供を見るような目で見られていることに気が付いた。ちょっ、しつれいだな。

どうやら目的地に着いたようで、私たちはドアの前に立っていた。ドアの上のほうにあるプレートを見てみれば、黒い筆文字?のようなもので『図書館』と刻まれている。

図書館とは、また花咲ちゃんに縁のなさそうな(失礼)。なんでここに私を連れてきたのだろう。

「その顔だと、なんで私がここに連れてきたか分かってないようね。せっかくあんたが渡してきたあれが終わったから、見直しさせようと思って連れてきてやったのに。」

その言葉でようやく私は気が付いた。私が以前花咲ちゃんに渡した問題集、締め切りを今日にしていたな、と。

やっぱり花咲ちゃんは別に不真面目というわけでもないんだ。別に授業を寝て過ごしたり、勉強をする気がないわけではなく、ただただまじめにやっているだけなんだ。

だとしたら、それはどんなに辛いことだっただろう。

「?なにしてるの、さっさとすますわよ!」

改めて、花咲ちゃんマトモ化計画への決心が強くなった瞬間だった。


この船の図書館は、もうさすがとしか言いようがないほどに広い。エリア別に案内板が置いてあって、見ると普通の小説から歴史書、伝記や専門書など幅広く取り揃えてあるようだ。

今私は一人で置いてあった椅子に座り、花咲ちゃんから渡された問題集を見ている。

これを見る限りでは、花咲ちゃんは最初に比べてだいぶん正しい知識が付いてきたように思う。まだ完全正答とまではいかないまでも、7~8割はあってきている。あの「因数分解って何?」と聞いてきた彼女がもう懐かしい。

次からはもう少し難しくしてみようかな、と考えているとどこからか物音が聞こえてきた。

・・・それも、何か物がなだれ落ちるような、それなりに大きな音が。

気になった私は問題集を閉じて立ち上がり、その音のもとへ行ってみることにした。すると、そこにいたのは―――。

10冊ぐらいの分厚い本の下敷きになった、峰來学園の生徒会長澤凪麗羅君の姿だった。

なかなか島につきません。まだ船内の話は続きます。

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