サヨナラのともしび
image song your heaven オルゴールver
天使、っていう単語で思い浮かぶものって??
と、尋ねればたぶんほとんどの人が「優しい」だの「儚い」だのって答えるよね。
あたしもそう思ってた。
けど目の前に立つこいつはまったくそんなんじゃなかった。
「うるせーな!!聴こえてるんだよこの野郎!!」
「天使」はあたしの髪をいっぱって大声で怒鳴る。
その声の大きさは女にもかかわらずあの有名なネコ型ロボットの飼い主の大きなお友達さえ連想させる。
天使とやらはヒトの心の声が余りにも大きいと聞こえるらしい。
「あぁん?今何か言ったか?ごちゃごちゃ言うと蹴りいれるぞ!」
「はいはいはいごめんねー。」
「むっきぃぃぃぃ適当な!!心がこもってない!!30点!!」
「点数いらないし。」
「暗いな~。ったくしょーがねー。」
綺麗なショートヘアーの髪の毛をぼりぼり乱雑に掻きむしりあたしの方に向き直り言った。
「…。
まだ間に合うかもだぞ?本当に行くのか?」
神妙な顔で「天使」はあたしに尋ねかけるが、あたしの決心は揺るがない。
まっすぐ、「天使」の瞳の奥の自分自身を見つめて口を開く。
まるであたしに語りかけるように。
「行くよ、後悔なんかない。連れてって」
「…しょーがねー。のれよ。」
そしてあたしは、真っ白の船に乗り、天使とともに真っ白の河を渡り始めた。
…もう気づいてるかな?
あたしは、昨日死にかけた、現世では今私は危篤の状態らしい。
「天使」によれば今なら超超超頑張れば生き帰れるらしいけど、そんな事する気さらさらない。
むしろこうなれたことはラッキーだ。
だって…
「おい」
「天使」の声ではっと我に帰る。
「暗い、やめろ。聞いてるこっちが死にたくなるからやめろ。」
「あんたたちって死ねるの?」
「シラネ。考えたこともねーよ。でもホントに止めてくれよ。ヌガ―入りキャンディみたいだよお前。」
「あたしあれ好きだけど。」
「…お前とは気が合わないな。」
「天使」は端正な顔をくしゃっとさせてふてくされた。
そうしておよそ15分くらいたったころだろうか。
真っ白だった河の向こうにぼんやり明かりが見えた。
「今居るのがぁ、お前らの言葉で言うと三途の川な。んであの明かりが走馬灯。」
細い指がさした向こうには色とりどりのちょうちんや、キャンドル、
はたまたスタンドライトまでありとても奇妙な光景だった。
「あのさ、なんか思ってたのと違うんだけど?かっこわる。」
「勝手にイメージを作り上げたお前らが悪いよ。
あとあれはお前の人生の象徴なんだぞ?そんなこと言っていいの?」
「天使」はにこっと意地悪そうに笑い、どうだといわんばかりの目で私を見てきた。
…こいつ本当に天使なの?
ふと横を見ると、いろんな船が集結していた。
横の小さな白人のおばあさんに英語で話しかける天使はとても美しく優しそうだし、
うしろのインド人らしき男の子に話しかける天使はイケメンで聡明そうだ。
…なのにコイツは。。
「おわぁ、おまえの走馬灯古いなー洗練されてないッつーの??珍しくていいと思うぜ!!」
などさっきからずっと私に話しかけてくる。
ため息をつき、私は彼女に話しかけた。
「んで?何するの?ここを突き抜けたら記憶が次々思い出せるとか?」
できれば、かなりそういうの遠慮したいのだが。
ろくな記憶なんてないし、振り返るものなんて特にない。見たくない。
しかし、天使はひひひっと笑い囁いた。
「…そんなしょぼいもんじゃないよ? 」
八重歯をのぞかせてひひひっと笑ってまた「天使」はカラフルの光の中へ舟を漕ぎだした。
胸騒ぎがした。