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転生したら同期んちの猫だった話、する?

作者: 朝日エール
掲載日:2026/06/18

(…………あったかい……)


 すぐ耳元で妙に大きく聞こえる、規則的な寝息に、茉白(ましろ)は寝ぼけ眼を開く。

 まだ寝てたいな……と閉じかけた視界いっぱいに見慣れない壁のようなもの。

 何気なく顔を上げた、次の瞬間——


 ギン……! と覚醒した。


(——顔)


 ふぎゃ——!!! と叫びながら、背後へ大きく跳び上がった。


 すると、もぞもぞと動く、目の前の巨体。


「……はぁ……?」


 目の前で寝ぼけた顔を上げるのは、もーいーわってくらい見飽きた会社の同期、結城(ゆうき)

 しかも、なにこれ。妙にでかい。

 

 その顔が、ゆっくりとこっちを向いた。


「……どしたの? シロ」

「怖い!!!」

「喋った!!!!」


 土曜日のよく晴れた爽やかな朝。

 不釣り合いな、ぎゃ——!!! という二人の絶叫が、ご近所一帯にこだましたのだった。




「な、な、な……?」


 こちらを向いて文字通り固まっている結城を見ながら、茉白の口からは、言葉にならない声しか漏れない。


「なん……なん、で」

「……喋ってる……まじか……」

「なんで……結城……?」

「…………シロ……おまえ、俺のこと『結城』って呼んでたの?」

「シロって言わないできもい!!!」

「なんでだよ!? 拾った時からシロだろおまえは!?」

「……拾った?」


 茉白の視線が揺らぐ。

 その目が、白いもふもふとしたものを捉えた。


(もふもふ……あれ)


 もふもふに触れようと持ち上げた手。

 それが、既にもふもふ。


「…………なにこれ、もふもふ……もふもふパジャマ……?」

「そりゃ猫だしな」

「……そりゃねこだしな……?」

「そう」

「ねこ……」

「猫」


 ぱっと両手を掲げる。

 鋭い爪。

 ピンクの肉球。

 もふもふ。


「私、猫!?」

「知らなかったの!?」


 なんで——!? という二人の絶叫が再びご近所一帯にこだました。



「なんで……? なんで猫になってるの……? しかも結城の猫ってこと……? 最悪じゃん……」

「いきなり喋り出したと思ったらすげー悪態()いてくるじゃん、シロ」

「だからシロって言わないでって」

「なんかユーレイでも憑依した? おまえ誰?」

「……東堂(とうどう)

「…………は?」

「東堂茉白。同期の」

「…………」


 結城は一度俯くと、目頭を押さえる。

 勢いよく宙を仰ぐと、ははは! と声を上げた。


「んなあほな」

「私もそう思いたい」

「なわけねーだろ。何で東堂が……俺ん家に」


 はっ!? と茉白は目を見開いた。


「そういえば……昨日の夜……——」

「……昨日?」

「酔っぱらって机の下に落としたポップコーン拾った後、机に頭強打してからの記憶がない」

「おまえ、絶対東堂だろ」

「そこで納得すんの、すごい腹立つ」


 ぷんぷんと憤慨しながら、肉球をベッドへ押し付ける茉白であった。



 ベッドの上で頭を抱える二人(一人と一匹)。


「……まじか……シロが東堂……」

「シロ呼びやめて。ぞわぞわするから」

「茉白っつーのか、おまえ。茉白ちゃん」

「きもいわ」

「何シロに寄せてきてんの?」

「寄せてきてるのはシロだから。私のが先に名を授かってるから」

「寄せてねーし」

「何で猫に犬みたいな名前つけてんの?」

「うっせーな。白いから」


 そう言いながら結城は、茉白の脇に手を入れ、ひょいと持ち上げる。


「とりあえずおまえ、大人しく——」


 きゃ————!!! と叫ぶ茉白。


「だだ、抱っこしないで!!!」

「……だっこ……」


 手からすり抜けると、にゃん……と顔を隠して丸くなった。

 結城はつられて顔を手で覆う。


「やりづれぇな……」

「いつもこんなことしてるの……?」

「当たり前だろ……猫なんだから」


 茉白はちらっと顔を覗かせる。


「……結城、猫好きなの?」

「すげー好き」

「抱っことかするんだ」

「するだろ普通。顔埋めたり吸ったり……——!?」


 きゃ……と顔を覆う茉白。


「猫にな!? おまえじゃなくて——」

「へんたい……」

「変態って何だ!!!」



 (↓一回落ち着いた)


「——つーか、転生した的な? 死んだの? おまえ」

「異世界でもなく同期の猫に転生って何? しかも机に頭強打して死ぬ人生とか絶対嫌。あれくらいで死なないから私は」

「でも何で俺の猫? 俺の事でも考えてた?」


 茉白は、もやあ……、と何ともつかない顔を向けた。


「……それ、どういう感情?」

「すごい嫌……」

「シロでその顔やめて」

「帰りたい……」

「じゃあ、もっかい頭ぶつければ戻るんじゃね? さっさと戻れ」

「雑! でも可能性はある」


 ぽいっと茉白を宙へ放る結城。

 ふぎゃ——!! と叫ぶ茉白。


 くるっ。

 しゅた。


「…………」

「…………」


 もう一度茉白を抱えると、ぽいっと放る結城。

 ふぎゃ——!! と叫ぶ茉白。


 くるっ。

 しゅた。


 はわわわ……! と茉白は瞳を輝かせて結城を見た。


「なにこれ……! 身体が勝手にくるっしゅたっ! てなる……!」

「……そうかよ……」

「私、運動神経ないから、超うれしい……!」

「……よかったな……」


 結城は再び頭を抱えた。



 一人できゃっきゃと跳びはねている茉白を、呆れたような目で眺めている結城。

 床に落ちていた、棒の先に羽根のついたおもちゃを拾い上げた。


 目の前で揺れる羽根。

 なぜか視線が吸い寄せられる。


 パシ!


 思わず手で止めたそこは、結城の膝の上。

 顔を上げると、にや、と嬉しそうに見下ろしている結城と目が合った。


 シャッ!


「うざい」

「おまえが乗って来たんだろ……!!!」


 ギリギリ躱した結城の口から、猫パンチやめろ……! と焦りの声が漏れた。



 不機嫌そうに顔を顰める結城の大きな手が、茉白の頭に乗った。


「……勝手に触らないで」

「いいだろ、俺のペットなんだから」

「あんたのシロは遠いところへ旅立ちました」

「勝手にどっかやんな」

「……なんで撫でるの」

「好きだから。猫が。触らせてください、東堂さん」

「…………猫だからね」

「はいはい」


 さらさらと妙に優しく撫でる手つきに、ぽわぽわと身体が温かくなる。気がする。


「……え…………なにこれ……超きもちいい……」


 結城はふっと笑みを漏らす。


「さすが猫」

「……ねむ……」

「シロ?」

「シロじゃない……」

「……東堂?」

「…………」


 とろんと瞼が落ちていく茉白の視界に、結城の顔が近づく。


「…………茉白」


 シャッ。


 秒で振り下ろした爪が、結城の鼻を掠めた。


「きもい」

「かわいくねえ……!!!」



 茉白はベッドの上でネズミのぬいぐるみと戯れながら、我が物顔でごろごろと転がった。

 

「……このまま戻んなかったら、どうしよ……猫ってビール飲める?」

「飲めるわけねーだろ」

「猫のまま家帰ればいいのかな?」

「ちょ、おい! ずっとここいてくんないと困る……から……」

「…………」

「…………シロな、シロ」

「猫の方ね、猫の方」


 あああ……と赤い顔で崩れ落ちる二人であった。




 結局次の日になったら戻ったんだけど、

 その後も酔っぱらって頭打つたびに、結城の猫に転生するようになった話、する?




もだもだラブコメ? を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

一応ラブコメと言い張ります!


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