転生したら同期んちの猫だった話、する?
(…………あったかい……)
すぐ耳元で妙に大きく聞こえる、規則的な寝息に、茉白は寝ぼけ眼を開く。
まだ寝てたいな……と閉じかけた視界いっぱいに見慣れない壁のようなもの。
何気なく顔を上げた、次の瞬間——
ギン……! と覚醒した。
(——顔)
ふぎゃ——!!! と叫びながら、背後へ大きく跳び上がった。
すると、もぞもぞと動く、目の前の巨体。
「……はぁ……?」
目の前で寝ぼけた顔を上げるのは、もーいーわってくらい見飽きた会社の同期、結城。
しかも、なにこれ。妙にでかい。
その顔が、ゆっくりとこっちを向いた。
「……どしたの? シロ」
「怖い!!!」
「喋った!!!!」
土曜日のよく晴れた爽やかな朝。
不釣り合いな、ぎゃ——!!! という二人の絶叫が、ご近所一帯にこだましたのだった。
「な、な、な……?」
こちらを向いて文字通り固まっている結城を見ながら、茉白の口からは、言葉にならない声しか漏れない。
「なん……なん、で」
「……喋ってる……まじか……」
「なんで……結城……?」
「…………シロ……おまえ、俺のこと『結城』って呼んでたの?」
「シロって言わないできもい!!!」
「なんでだよ!? 拾った時からシロだろおまえは!?」
「……拾った?」
茉白の視線が揺らぐ。
その目が、白いもふもふとしたものを捉えた。
(もふもふ……あれ)
もふもふに触れようと持ち上げた手。
それが、既にもふもふ。
「…………なにこれ、もふもふ……もふもふパジャマ……?」
「そりゃ猫だしな」
「……そりゃねこだしな……?」
「そう」
「ねこ……」
「猫」
ぱっと両手を掲げる。
鋭い爪。
ピンクの肉球。
もふもふ。
「私、猫!?」
「知らなかったの!?」
なんで——!? という二人の絶叫が再びご近所一帯にこだました。
「なんで……? なんで猫になってるの……? しかも結城の猫ってこと……? 最悪じゃん……」
「いきなり喋り出したと思ったらすげー悪態吐いてくるじゃん、シロ」
「だからシロって言わないでって」
「なんかユーレイでも憑依した? おまえ誰?」
「……東堂」
「…………は?」
「東堂茉白。同期の」
「…………」
結城は一度俯くと、目頭を押さえる。
勢いよく宙を仰ぐと、ははは! と声を上げた。
「んなあほな」
「私もそう思いたい」
「なわけねーだろ。何で東堂が……俺ん家に」
はっ!? と茉白は目を見開いた。
「そういえば……昨日の夜……——」
「……昨日?」
「酔っぱらって机の下に落としたポップコーン拾った後、机に頭強打してからの記憶がない」
「おまえ、絶対東堂だろ」
「そこで納得すんの、すごい腹立つ」
ぷんぷんと憤慨しながら、肉球をベッドへ押し付ける茉白であった。
ベッドの上で頭を抱える二人(一人と一匹)。
「……まじか……シロが東堂……」
「シロ呼びやめて。ぞわぞわするから」
「茉白っつーのか、おまえ。茉白ちゃん」
「きもいわ」
「何シロに寄せてきてんの?」
「寄せてきてるのはシロだから。私のが先に名を授かってるから」
「寄せてねーし」
「何で猫に犬みたいな名前つけてんの?」
「うっせーな。白いから」
そう言いながら結城は、茉白の脇に手を入れ、ひょいと持ち上げる。
「とりあえずおまえ、大人しく——」
きゃ————!!! と叫ぶ茉白。
「だだ、抱っこしないで!!!」
「……だっこ……」
手からすり抜けると、にゃん……と顔を隠して丸くなった。
結城はつられて顔を手で覆う。
「やりづれぇな……」
「いつもこんなことしてるの……?」
「当たり前だろ……猫なんだから」
茉白はちらっと顔を覗かせる。
「……結城、猫好きなの?」
「すげー好き」
「抱っことかするんだ」
「するだろ普通。顔埋めたり吸ったり……——!?」
きゃ……と顔を覆う茉白。
「猫にな!? おまえじゃなくて——」
「へんたい……」
「変態って何だ!!!」
(↓一回落ち着いた)
「——つーか、転生した的な? 死んだの? おまえ」
「異世界でもなく同期の猫に転生って何? しかも机に頭強打して死ぬ人生とか絶対嫌。あれくらいで死なないから私は」
「でも何で俺の猫? 俺の事でも考えてた?」
茉白は、もやあ……、と何ともつかない顔を向けた。
「……それ、どういう感情?」
「すごい嫌……」
「シロでその顔やめて」
「帰りたい……」
「じゃあ、もっかい頭ぶつければ戻るんじゃね? さっさと戻れ」
「雑! でも可能性はある」
ぽいっと茉白を宙へ放る結城。
ふぎゃ——!! と叫ぶ茉白。
くるっ。
しゅた。
「…………」
「…………」
もう一度茉白を抱えると、ぽいっと放る結城。
ふぎゃ——!! と叫ぶ茉白。
くるっ。
しゅた。
はわわわ……! と茉白は瞳を輝かせて結城を見た。
「なにこれ……! 身体が勝手にくるっしゅたっ! てなる……!」
「……そうかよ……」
「私、運動神経ないから、超うれしい……!」
「……よかったな……」
結城は再び頭を抱えた。
一人できゃっきゃと跳びはねている茉白を、呆れたような目で眺めている結城。
床に落ちていた、棒の先に羽根のついたおもちゃを拾い上げた。
目の前で揺れる羽根。
なぜか視線が吸い寄せられる。
パシ!
思わず手で止めたそこは、結城の膝の上。
顔を上げると、にや、と嬉しそうに見下ろしている結城と目が合った。
シャッ!
「うざい」
「おまえが乗って来たんだろ……!!!」
ギリギリ躱した結城の口から、猫パンチやめろ……! と焦りの声が漏れた。
不機嫌そうに顔を顰める結城の大きな手が、茉白の頭に乗った。
「……勝手に触らないで」
「いいだろ、俺のペットなんだから」
「あんたのシロは遠いところへ旅立ちました」
「勝手にどっかやんな」
「……なんで撫でるの」
「好きだから。猫が。触らせてください、東堂さん」
「…………猫だからね」
「はいはい」
さらさらと妙に優しく撫でる手つきに、ぽわぽわと身体が温かくなる。気がする。
「……え…………なにこれ……超きもちいい……」
結城はふっと笑みを漏らす。
「さすが猫」
「……ねむ……」
「シロ?」
「シロじゃない……」
「……東堂?」
「…………」
とろんと瞼が落ちていく茉白の視界に、結城の顔が近づく。
「…………茉白」
シャッ。
秒で振り下ろした爪が、結城の鼻を掠めた。
「きもい」
「かわいくねえ……!!!」
茉白はベッドの上でネズミのぬいぐるみと戯れながら、我が物顔でごろごろと転がった。
「……このまま戻んなかったら、どうしよ……猫ってビール飲める?」
「飲めるわけねーだろ」
「猫のまま家帰ればいいのかな?」
「ちょ、おい! ずっとここいてくんないと困る……から……」
「…………」
「…………シロな、シロ」
「猫の方ね、猫の方」
あああ……と赤い顔で崩れ落ちる二人であった。
結局次の日になったら戻ったんだけど、
その後も酔っぱらって頭打つたびに、結城の猫に転生するようになった話、する?
もだもだラブコメ? を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
一応ラブコメと言い張ります!
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