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第三話

 朝六時。目覚ましの音と共に僕の一日が始まる。

 目を開けると、カーテンの隙間から光が差し込んでいた。

 気だるい体を起こし、洗面台に向かう。

 蛇口から流れる冷たい水が、僕の意識を覚ましていく。


 台所のトースターに食パンを入れ、タイマーを三分間に設定する。

 その間に僕は制服に着替える。

 トースターから食パンを取り出すと、少し端の方が焦げていたが、これくらいの方が美味しい。

 そして、トーストを食べながらニュースを見る。

 今日の天気は晴れ。傘を持っていく必要はないだろう。


 現在、午前七時を過ぎたくらい。

 僕は丁寧に歯を磨き、身だしなみを整える。

 そうして朝の準備は完了だ。

 家を出て、最寄り駅に向かう。

 学校まで三十分ほどで着くため、遅刻することはまずないだろう。


 そうして何事もなく学校についた。

 教室に入るが、人の姿は見えない。

 自分の席に座り、鞄から本を取り出す。

 HRが始まるまで、校舎の静けさを味わうのが僕の日課だ。

 中学生の頃も毎日朝早くから来ていた。


 人気のない学校の雰囲気が好きなのだ。


 まるで世界に僕一人だけが取り残されたような、そんな感じが僕の心を穏やかにする。

 少し時間が経ったところで、誰かが教室に入ってきた。


 霧崎さんだった。


 何やら大量の紙を抱えている。

 そして、一枚一枚各自の机の上に置いていった。


 黒板に書かれている週番の名前を確認するが、そこに霧崎さんの名前は書いていない。

 彼女はいつの間にか僕の席の前におり、僕の机の上にも紙を置いた。


「おはよう。毎日こんなに早いの?」


 霧崎さんが話しかけてきた。


「…おはようございます。いつもこれくらいです。」


「へぇ。すごいね。よかったらチラシ見てね。」


 そういって彼女はまた紙を配り始めた。

 読んでいた本を閉じ、机に置かれたチラシを手に取る。

 そこにはポップな字体で『君も心霊現象部の部員にならないか!?』と大きく書かれていた。


 どうやら、霧崎さんはまだ諦めていないようだ。


 それにしても、彼女はなぜそこまで心霊現象部にこだわるのだろうか。

 昨日は幽霊が好きだからと言ってはいたが、彼女の様子を見る限り何かしらの事情がありそうだった。

 まあ、それは本人に聞くしかないから僕が知ることは一生ないだろう。


 チラシが全員の席に渡ったところで、霧崎さんは教室から出た。

 まだ大量にチラシを抱えていたため、おそらく他のクラスの人にも渡すつもりなのだろう。


 そして時間は過ぎていき、いつの間にか教室は人でいっぱいになった。

 横目で教室内の様子を見ていたが、チラシを読んでいる人は誰もいなかった。

 人の努力が無駄になるのを見ると、少し心が痛くなる。


 霧崎さんの席を見ると、彼女は机に突っ伏したまま寝ている。


 そうして朝のチャイムが鳴り、HRが始まる。

 このクラスの担任が教室に入ってくる。


「おーし。HR始めるぞー。」


 出席番号順に名前が呼ばれていく。


「一ノ瀬ー。」


「はい。」


 順々に名前が呼ばれて行き、HRが終わる。


「はい、じゃあ各自授業場所に行ってこーい。」


 あらかじめ授業の準備をしていたので、また本を開く。

 早く行っても、おそらくそのクラスには生徒がまだ残っているだろう。

 そうなるととても面倒だ。


「すみません!!」


 前方から声が聞こえた。

 霧崎さんだった。


「どうしたー」


「私からみんなに伝えたいことがあるんですけど、少し時間をもらっていいですか?」


「いいぞー」


 席を立っていた人もいたが、各々が自身の席に戻る。

 そして、全員が元の席に座ったところで霧崎さんは話し始めた。


「あの、昨日部活の紹介があったと思うんですが、もし入りたい部活がまだ決まっていない人がいたら、よかったら心霊現象部はどうでしょうか?とても楽しい部活なので、よかったら一度ご検討ください!」


 まばらな拍手が起こった。


 クラスの皆は机の上に置いてあるチラシを見るが、まるで何もなかったのかのように視線を元に戻す。


「あ、そうだったな。昨日もらった入部申請書だが、今日帰るまでに俺に出せよー。」


「「はーい。」」


 そして、クラスの皆は席を立つ。

 僕もクラスから出ようと席を立つ。

 教室を出るときに横目でゴミ箱を見てみたが、そこには無残な姿のチラシが見えた。

 そして、霧崎さんは立ったまま下を向いていた。



 午前の授業は国語、数学、英語、世界史の四教科だ。


 すべての授業が終わり、昼を告げるチャイムが鳴った。

 そして、いつものように一人でご飯を食べる。幸い、この学校は校内だったらどこでも昼食を食べてもいいので、僕はいつも屋上で食べている。


 意外と穴場なのか、人を見かけることはほとんどない。

 購買で買ってきたメロンパンを口に運ぶ。

 そして食べ終わった後は、本を読んで残りの時間を過ごす。


 すると、ドアが開く音がした。


 僕はドアの反対の位置に座っているため、姿が見られることはないだろう。

 影に隠れて入ってきた人を見てみると、その人物は霧崎さんだった。


 どうやら落ち込んだ様子で屋上に置かれたベンチに座った。

 まあ、何故そうなのかは安易に想像がつく。


「はあ、なんで誰も入ってくれないんだろう…」


 霧崎さんの声が微かに聞こえてくる。

 昨日の夜、心霊現象部に入るとは決めたが、だからと言って霧崎さんと関わりたいというわけではない。

 そのため、彼女に部活に入るということを伝えるつもりはない。


 今の時刻は一時十分。

 あと二十分でお昼の時間が終了する


 そして一つ問題がある。屋上へ行くためのドアは一つしかなく、当然、教室に戻るにはどうしてもそのドアを使わなければならない。


 つまり、戻る時に霧崎さんに必ず姿を見られてしまうということだ。


 また絡まれるのは嫌なので、やはり僕は隠れて霧崎さんが教室に戻るのを待つことにした。

 僕はまた本を開く。

 ちょうど話も山場であり、出来ればこの時間に読み終えたい。


「ねえ。こんなところで何しているの?」


 横から声が聞こえる。

 ゆっくりと顔を振り向くと、いつの間にか霧崎さんが僕の横に立っていた。


「…本を読んでいるだけですよ。」


 冷静を装うが、正直とても驚いた。


「ふーん。」


 昨日も同じような会話をした気がする。

 案の定、彼女は僕の横を動く素振りを全く見せない。


「また何か僕に何か用でもあるんですか?」


 十中八九心霊現象部の勧誘だろう。

 数秒間の沈黙が続く。


 一体彼女は何を考えているのだろう。

 そして、彼女はようやく口を開いた。


「んー。いやー特に何も。じゃあね。」


 そういうと、霧崎さんは屋上から校舎内へと戻っていった。


「彼女も流石に諦めたのか?」


 さすがにHRでの出来事がこたえたのだろうか。

 だがこうして本を読む時間ができた。


 残りの時間、僕は本を読んで過ごした。

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