プロローグ
私は、生まれた瞬間に幽霊になった。
その事実を知ったのはずっと後で、私のおばあちゃんが教えてくれた。
私がこの世に命を授かった時、産声はひとつも上がらなかったらしい。
心臓は動かず、皮膚の色も、赤子らしい温もりとはほど遠かった。
医師たちは急いで私を手術室へ運び、あらゆる処置を施したという。
けれど、生まれたばかりの小さな体が、その重さに耐えられるはずもなかった。
——そうして私は、こちら側にやってきたのだ。
幽霊として過ごして、気づけば十八年。
現世なら、高校と呼ばれる場所を卒業する頃だ。
「……お母さんと、お父さんは、今どうしてるかな。」
幽霊が現世に行けるのは、決められた日だけ。
家族に大きな出来事がある時——
結婚式、成人式、あるいは命を迎え入れる瞬間。
私が両親を見ることができたのは、一度だけ。
弟が生まれた日だけだ。
私が三歳のとき、弟は元気な産声をあげた。
その泣き声は部屋を大きく震わせて、私はただ、その光のような存在を静かに見つめていた。
お父さんも、お母さんも、おばあちゃんも泣いていた。
小さな命の温かさが、その場の空気全体を満たしていたのだ。
でも、その喜びは私には届かない。
手を伸ばせば触れられそうな距離にいるのに、私の指先は、誰の体温もすり抜けていく。
そのときからだ。
私が、現世に行くことを夢見るようになったのは。
あの輪の中に、一度だけでいい。
私も――立ってみたかった。




