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月夜の誓い  作者: 虎太朗
4/4

策略

ユキノ視点です!

「おはよう、ヒナ」


トコトコと、いつものように慌てた足音と共に教室に駆け込んできたヒナに、私は挨拶をした。

昨日の魔法練習での彼女の成長ぶりを思い出すと、なぜか胸が温かくなる。


「おはようございます、ユキノさん!」


ヒナの明るい笑顔。でも、心なしかどこか元気がないように見える。


(なにかあった…?)


「どうしたの?疲れてる?」


「え?あ、いえ...大丈夫です」


そう言いながらも、ヒナの表情には影が差している。心配になって声をかけようとしたその時——


ひそひそ


教室の後ろから、小さなささやき声が聞こえてきた。


「やっぱり人間って魔法学園にいるべきじゃないんじゃない?」


「レベル8でしょ?危険よね」


「この前の暴走事故、また起きたらどうするの」


ざわざわ…ざわざわ……


教室全体に微かな緊張感が漂う。


(おかしいわ)


昨日まではこんな雰囲気ではなかったのに。


ちらり


ヒナの方を見ると、彼女は教科書を握る手に力を込めていた。聞こえているのね。


「ヒナ、気にしないで」


小さく声をかけると、ヒナは振り返って無理やり笑顔を作った。


「はい...ありがとうございます」


でも、その笑顔はどこかぎこちない。




~~~



昼休みのチャイムが響く。


「ヒナ、一緒に昼食を——」


私が声をかけようとした時、ヒナはすでに席を立っていた。


「すみません、図書館で調べ物があるので」


そう言って、足早に教室を出て行く。


(今は無理に追うのはダメね…)


仕方なく一人で中庭のベンチに向かっていると——


がやがや


廊下で生徒たちが話しているのが聞こえてきた。


「やっぱり人間の子、浮いてるわよね」


「魔法のレベルも低いし、なんで入学できたのか謎」


「噂では、何かの政治的な取引らしいわよ」


「え、そうなの?」


「うちの親が言ってたけど、人間の魔法使いを学園に入れるのは前例がないって」


私は足を止めた。政治的な取引?そんな話、聞いたことがない。


咄嗟に廊下の角に身を隠し、会話を聞き続ける。


「それに、魔法の暴走事故って危険じゃない?」


「そうよね。私たちが巻き込まれたらどうするの」


「学園側も対応を考えるべきよ」


胸の奥がざわついた。昨日まではこんな話は出ていなかったのに、急に皆がヒナのことを問題視し始めている。


さらに中庭に向かう途中、別のグループの会話も聞こえてきた。


「保護者会でも話題になってるらしいわよ」


「そうなの?」


「うちのお母様が言ってたけど、何人かの保護者が学園に問い合わせをしたって」


「人間の生徒に関する安全対策についてよね」


保護者まで?一体何が起きているの?


中庭のベンチに座り、読書をしようとしたが、全く集中できない。


ページをめくる手が止まってしまう。


昨日まではヒナのことを「珍しい転校生」程度に思っていた生徒がほとんどだったのに。


「あの…!」


人が近づいてきたことに気が付かなかった。よっぽど考え込んでいたらしい。


顔を上げると、同級生のリサが立っていた。


「ユキノちゃん、お疲れ様」


「リサ...どうしたの?」


「実は...あの転校生の子のことで相談があるの」


リサの表情が深刻だった。


「相談?」


「うちのお母様から連絡があったの。学園の保護者グループで、人間の生徒の件が議題になってるって」


「保護者グループ?」


「ええ。安全面での懸念があるって話になってるの」


私の心臓が早鐘を打ち始める。


「具体的には?」


「魔法レベルの低い生徒が暴走事故を起こした場合の責任問題とか、他の生徒への影響とか...」


なんで


「でも、ヒナは一生懸命頑張ってるわ。昨日の練習でも——」


「あ、ユキノちゃんが指導してるのね」


リサの目が少し鋭くなった。


「困っている人を放っておけなくて」


「優しいのね。でも...」


リサは少し躊躇った後、続けた。


「あまり深く関わらない方がいいかもしれないわ」


「どういう意味?」


「もし何か問題が起きた時、ユキノちゃんも巻き込まれる可能性があるから」


その言葉に、私は言葉を失った。


(巻き込まれる?私が?ヒナを助けることが、私にとって危険だとでもいうの?)


「……考えておくわ」


そう答えるのが精一杯だった。


~~~


もやもやした気持ちのまま、午後の授業が始まる。


教室に戻ると、ヒナはすでに席に座っていた。でも、その周りの空気がいつもより冷たく感じる。


私が席に座ると、ヒナが小さく会釈した。


「昼休みはどこに?」


「図書館で...魔法の勉強をしていました」


「そう...」


彼女の声が昨日より小さい。きっと、周囲の雰囲気を感じ取っているのね。


こつこつこつ


マリア先生が教壇に向かう。


「皆さん、午後の授業を始めましょう」


先生の表情も、朝より曇って見える。


「今日は実技練習を行います。ペアを組んで基礎魔法の確認をしてください」


ざわざわ


生徒たちがペアを作り始める。


私はヒナと組もうと思ったが——


「あ、ユキノちゃん、一緒にやらない?」


「ユキノさん、こちらで」


複数の生徒が私に声をかけてきた。


ちらり


ヒナの方を見ると、彼女は一人で教科書を見つめていた。誰も彼女に声をかけない。


「ごめんなさい、私はヒナと組むから」


そう言って、ヒナの元に向かった。


「ユキノさん...」


ヒナの目に涙が浮かんでいるのが見えた。


(そうよ、ヒナだって不安なんだもの。私がしっかりしなくては)


「大丈夫よ。一緒に頑張りましょう」


私の言葉に、ヒナは小さくうなずいた。


でも、練習中も周囲の視線を感じる。ひそひそ話も続いている。


「やっぱりレベルが違いすぎるのよ」


「ユキノさんが可哀想」


「あんな子と組まされて」


(勝手に私の心を決めつけないで)


無意識に拳を握りしめていた。



~~~



放課後のチャイム。


「ユキノさん...今日の練習は」


ヒナが遠慮がちに声をかけてきた。


「もちろんやるわ。約束よ」


私は微笑んで答えた。


ヒナの表情が少し和らぐ。


中庭に向かう途中、廊下でまた話し声が聞こえた。


「あの子、まだいるのね」


「学園側も何か対策を考えてるんじゃない?」


「そうよね。このままじゃ収まらないでしょう」


不安が胸を過った。


中庭に着くと、いつものベンチに座って待っていた。


ヒナの足音が聞こえる。到着したようだ。


顔をあげると表情が暗いどころが顔色が悪い。


声をかけようとしたらヒナのほうが先に話しかけてきた。


「ユキノさん、私...」


「何?」


「本当に迷惑をかけてませんか?」


その言葉に、胸が痛んだ。


「…どうして?」


「皆さんの会話が聞こえるんです。私がいることで、色々な問題が起きてるって」


ぽろり


ヒナの頬に涙が一筋流れた。


「そんなことない」


私は立ち上がって、彼女を抱きしめ…ないで肩に手を置いた。


「あなたは何も悪くない。一生懸命頑張ってるじゃない」


「でも...」


「でもも何もないわ。魔法の練習、始めましょう」


すっ


地面に手をつき、氷の結晶を作る。


きらり


美しい氷の花が咲いた。


「今日は昨日より安定させることを目標にしましょう」


ヒナは涙を拭いて、うなずいた。


「はい...お願いします」


練習が始まったが、彼女の集中力がいつもより散漫だった。


ふらふら


炎が不安定に揺れる。


「心を落ち着けて」


「すみません...」


やっぱり不安なままだと練習にも身が入らないだろう。


そろそろ休憩しようかと考えていると、


(ん?)


遠くから誰かがこちらを見ているような気配を感じた。振り返ると、建物の陰に人影が見えたような気がしたが、すぐに消えた。


(気のせいかしら...)


再度目を凝らしてみてもやっぱりいない。


今はヒナのことに集中しよう。そう思い、深追いするのはやめることにした。



~~~



練習を終えて家に帰る道すがら、今日一日のことを振り返っていた。


(なぜ急にこんなことに..)


昨日まではこんな雰囲気ではなかった。まるで一夜にして学園全体の空気が変わったような感じ。


がちゃ


「ただいま」


「おかえりなさいませ、ユキノ様」


エリンが出迎えてくれた。


「今日はお疲れのご様子ですね」


「ええ...少し複雑な一日だったわ」


「何かございましたか?」


エリンの優しい声に、思わず今日のことを話してしまった。


「そうですか...急に皆さんの態度が変わったのですね」


「ええ。まるで示し合わせたように」


「不思議ですね」


エリンが首をかしげる。


「サクラはもう帰ってる?」


「はい。お部屋でお勉強なさっています」


「そう...」


少し気になって自分の部屋に向かう途中、サクラの部屋の前を通った。


こんこん


ドアをノックしてみる。


「サクラ?」


「はーい、お姉様!入って〜」


がちゃ


ドアを開けると、サクラが机に向かって勉強していた。


「お疲れ様、サクラ」


「お姉様もお疲れ様!今日はどうでした?」


いつものにこやかな表情。でも、なぜか今日は少し違って見える。


「実は...」


今日のことを話すべきか迷ったが、結局概要だけ話してみた。


「へ〜、大変でしたね」


サクラの反応は思ったより淡白だった。


「学園の雰囲気って、時々急に変わることがありますよね」


「そうかしら?」


「ええ。噂って広まるのが早いですから」


確かにそうね、と思いながらも、何か引っかかるものを感じた。


「でも、お姉様が支えてあげてるから大丈夫ですよ」


「そうね...」


サクラの笑顔を見ていると、今日の重苦しい気分が少し和らいだ。


「ありがとう、サクラ。話を聞いてもらえて気が楽になったわ」


「いえいえ〜。お姉様のためなら何でも」


~~~


ぽふっ


自分の部屋でベッドに横になり、天井を見つめる。


(明日はどうなるのかしら...)


今日の出来事が頭の中をぐるぐると回る。


生徒たちの変化した態度。保護者からの懸念。学園全体に広がる不安の空気。


ちらり


机の上の時計を見ると、まだ夜の9時。


(ヒナは大丈夫かしら...)


彼女の涙を浮かべた顔が思い浮かぶ。


ずきり


つららで刺されたように心が痛む。まるであの子の心の痛みを自分も共有しているようだ。


とんとん


窓を雨粒が叩く音。いつの間にか雨が降り始めていた。


明日は晴れるといいけれど...


天気のことだけでなく、学園の雰囲気についても、そう願わずにはいられなかった。


カーテンを閉めて、今日という日を終える。


でも、心の奥では嫌な予感がしていた。これは始まりに過ぎないのではないか、と。


「おやすみなさい」


部屋の明かりを消す。


外では雨が強くなっていて、窓ガラスを叩く音が激しくなっていた。まるで嵐の前触れのように。

今回も読んでいただきありがとうございます!自分で書いててヒナちゃんがかわいそうになってきた今日この頃…。大丈夫!!きっとハッピーエンドになるよ!!(本当か?)

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