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月夜の誓い  作者: 虎太朗
3/5

氷のまなざし

今回は、ユキノの妹サクラの一人称です!

「ふぁ〜あ...」


朝の授業中、わたし——サクラは教科書をぱらぱらとめくりながら、大きなあくびをした。魔法理論の授業は退屈で、つい眠くなってしまう。


こつこつこつ


教壇では先生がチョークの音を響かせながら解説を続けているけれど、わたしの頭はまったく別のことを考えていた。


「お姉様...」


(ユキノお姉様は、わたしと歳が1つしか違わないのに、頭もよくて顔もよくて…礼儀作法も完璧だから令嬢の中の令嬢って言われるくらい華があるし、わたしに見せる控えめにニコッてする笑顔がたまらなく愛らしいし、お姉様も忙しいのに魔法の練習見てくれるし、寒い日はふわふわな尻尾をマフラーにして温めてくれたし、とってもいいにおいがするし…あああああああああああ、お姉様すきすきすきすきすきすきs…)


若干、自分の世界にトリップしていると、


ひそひそ


隣の席のクラスメイトが何かささやいているのが聞こえる。


「ねえ、サクラちゃん」


「なあに?」のんびりとした口調で答えながら、わたしは現実世界に戻ってくる。


「2年生に転校生が来たって知ってる?人間の子なんだって」


ぴく


わたしの耳がわずかに動く。


「へ〜、そうなんだ。珍しいね」


表面上は興味なさそうに答えているけれど、心の中では情報を整理している。昨日来たという『転校生』のことね。


「しかも、魔法レベルが8しかないのに、なぜかこの学園に入学できたんだって」


「8?それはまた...低いね~」


ペンでノートに落書きをしながら、わたしは考えを巡らせる。レベル8で名門クリスタル魔法学園に入学なんて、普通は絶対に不可能。


(何か特別なコネクションがある?それともなにかの目的でここに潜入してきた?)


まだまだ情報が足りない。


そうこう考えているうちに、りんりんと授業終了のチャイムが鳴る。


「やっと終わった〜」


わたしは大きく伸びをして、教科書をバッグに放り込む。でも、頭の中では既に計画が動き始めていた。


(その転校生、実際に見てみましょうか)



昼休み、わたしは2年生の校舎に向かって歩いていた。表向きは「お姉様に会いに行く」という理由だけれど、本当の目的は違う。


がやがや


2年生の廊下は賑やかで、あちこちで生徒たちが談笑している。


「あ、サクラちゃんじゃない!」


向こうから知り合いの2年生が手を振ってくる。


「こんにちは〜。お姉様に会いに来たんですけど、どちらにいますか?」


「ユキノちゃんなら中庭にいるんじゃない?いつものベンチで本を読んでたよ」


「ありがとうございま〜す」



のんびりとした足取りで中庭に向かいながら、わたしは周囲を観察していた。


そして——


中庭の入り口で、一人の少女がお姉様の方へ歩いていくのが見えた。


茶色の髪、少し小柄な体格、そして——人間特有の、獣人とは違う雰囲気。


(あの子が転校生のヒナね)


わたしは木陰に身を隠し、二人の様子を観察することにした。


「あの...ユキノさん」


ヒナがお姉様に声をかける。


「改めて昨日は本当にありがとうございました。魔法の暴走を止めていただいて...」


もじもじ


恥ずかしそうに手をもじもじと動かしているヒナの姿を見て、わたしは眉をひそめた。


(なんて...わざとらしい)


「気にしないで。当然のことをしただけよ」


お姉様の声が聞こえる。いつものクールな口調だけれど、なぜかいつもより優しく聞こえる。


「あの...お願いがあるんです」


「お願い?」


ごくり


ヒナが唾を飲み込む音が聞こえる。


「昨日お話していた魔法の制御について教えてください!」


(!)


わたしの目が鋭くなる。


「...分かったわ。放課後、ここで待っていて」


「本当ですか?!ありがとうございます!」


(うそ…お姉様が他人に魔法を教える?そんなこと今まで一度もなかったのに。)



ぱぁっとヒナの表情が明るくなる。そして——


ふり


お姉様の尻尾が小さく揺れているのが見えた。


(え...?)


心臓が大きく鼓動する。お姉様の尻尾が感情で動くなんて、滅多にないこと。それも、あの人間に対してなんて。


木陰からそっと離れ、校舎の中に戻った。


(あの人間の女...お姉様を狙っている)



1年生の教室に戻る途中、わたしの頭の中では様々な考えが駆け巡っていた。


お姉様はクールで完璧で、誰にでも平等に接する。でも、あんな風に尻尾を揺らすなんて——


(お姉様が取られてしまう)


「サクラちゃん、どうしたの?顔が怖いよ」


クラスメイトの声で、はっと我に返る。


「あ、ごめん。ちょっと考え事してただけ」


いつものにこやかな表情に戻る。でも、心の中では嵐が吹き荒れていた。



午後の授業中、わたしはノートに計画を書き始めた。


『ヒナ・対策・計画』


ペンでノートをこんこんと叩きながら、わたしは考えを整理していく。


(のんびりした妹だと思われているのが、今回は有利ね)


誰もわたしがこんなことを考えているなんて思わない。お姉様でさえ、わたしのことを「のんびりした妹」だと思っているのだから。



やっと放課後のチャイムが鳴った。


「サクラちゃん、一緒に帰らない?」


「ごめ~ん、図書館で調べ物があるの~」


「真面目だね〜」


友達は笑いながら帰っていく。


(さて、情報収集を始めましょうか)


しーん


図書館は静寂に包まれていた。わたしは学園の規則書や入学関連の資料を調べていた。


ぺらぺら


ページをめくりながら、ヒナの入学に関して何か不審な点がないか探る。


「魔法レベル28以上...入学時の審査は...」


かりかり


小さくメモを取りながら読み進める。


とことこ


図書館の奥から足音が聞こえる。振り返ると、マリア先生が本を探している。


(マリア先生...確かヒナのクラスの担任ね)


わたしは立ち上がり、のんびりとした足取りで先生に近づいた。


「あ、マリア先生~!こんにちは~」


「サクラさん。こんなところで勉強熱心ですね」


「ちょっと気になることがあって調べてたんです~。そういえば、2年生に転校生が来たって聞きましたけど」


にこにこ


無邪気な笑顔を浮かべながら質問する。


「ええ、ヒナさんですね。とても頑張り屋の子ですよ」


「そうなんですか〜。でも、人間の方が魔法学園に入学するなんて珍しいですよね」


マリア先生の表情がわずかに曇る。


「...それは、特別な事情があったからです」


(特別な事情?)


わたしの興味が一気に高まる。


「へ〜、どんな事情なんですか?」


「それは...学園の機密事項なので、お話しできません」


そっ


マリア先生は本を手に取って、そそくさと立ち去っていく。


(機密事項...ますます怪しいわね)



図書館を出て、中庭に向かう。きっとお姉様とヒナの魔法練習が行われているはず。


案の定、中庭のベンチの近くで二人の姿が見えた。今度は建物の陰から、より注意深く観察する。


すっ


お姉様が地面に手をつき、氷の結晶を作って見せる。



美しい氷の花がきらきらと地面に咲く。


「わあ...とても綺麗です」


ヒナの感嘆の声。


(お姉様の魔法は確かに美しいけれど...)


わたしは複雑な気持ちでその光景を見つめていた。


「魔法の基本は心の安定よ。感情が乱れると、魔法も乱れる」


お姉様の指導が始まる。


そっ


ヒナが手のひらに意識を集中する。


ぽっ


小さな炎がゆらゆらと現れた。


「良いわね。でも、まだ不安定」


ふら…ふら…


炎が左右に揺れている。確かにレベル8相応の不安定さ。


「深呼吸をして。そして、炎に話しかけるように」


「炎に...話しかける?」


「ええ。『落ち着いて』って優しく」


すー、はー


ヒナが深く息を吸い、ゆっくりと吐く。


「落ち着いて...お願い」


ぽわん


炎が安定した形になった。


「できた!できました!」


「上手ね」


(お姉様...そんな風に他人を褒めるなんて)


わたしの胸の奥で、黒い感情がふくらんでいく。


お姉様はいつもわたしに対してさえ、そんなに感情を表に出さない。なのに、あの人間の少女に対しては——




やっと練習が終わったようだ。


帰り道、夕日が差し込み、二人の影が長く伸びる。


「ユキノさん」


「何?」


「どうしてわたしを手伝ってくれるんですか?」


(いい質問ね)


わたしも知りたい。なぜお姉様があの子にそこまで親切にするのか。


「...困っている人を見ると、放っておけないの」


(嘘)


わたしには分かる。お姉様のその言葉は、本心じゃない。


「優しいんですね」


ヒナの言葉に、お姉様の頬がわずかに赤くなる。


(まさか...お姉様が)


わたしの心臓が激しく鼓動する。まさか、お姉様があの人間の女に——


ふわり


風が吹いて、ヒナの髪が舞った。その瞬間、お姉様の表情が一瞬変わったのを見逃さなかった。


(そんな...だめよ、お姉様)




家に帰る道すがら、わたしの頭の中では様々な計画が練られていた。


あの人間の女がお姉様に近づく理由。それがただの恋愛感情なのか、それとも何か別の目的があるのか。


がちゃ


家に着いて玄関を開ける。


「ただいま〜」


「おかえりなさいませ、サクラ様」


エリンが出迎えてくれる。


「お姉様は?」


「まだお戻りになっていません。お友達と勉強していらっしゃるとか」


(友達...ね)


わたしは自分の部屋に上がり、机に向かった。


かりかり


ノートに詳細な計画を書き始める。


『ヒナ排除計画』


排除するためにもっともらしい理由をつけるための情報収集

他の人への根回し


とんとん


ペンで机を叩きながら、計画を見直す。


(わたしにこんな黒い感情があったなんて…誰も思わないね…)


誰もわたしがこんな計画を立てられるなんて思わない。特にお姉様は…。



(それにしても、お姉様まだこないな…部屋にいるのかな?)


念のため、お姉様の様子を見に部屋に行くことにした。


こんこん


「お姉様?サクラです。起きていらっしゃいますか?」


「サクラ?入って」という声が聞こえたので部屋に入ってみる。


(お姉様……いつもと違う…)


頬がほんのり赤く、いつもより柔らかい表情。そして——


(あの子のことを考えてる)


そう思うと、腹の中にどろりとした黒い何かがうごき始めた。


だめだ。お姉様にこんな感情バレるわけにはいかない。


(いつものわたしでいなきゃ…)


「こんばんは~お姉様。夜遅くにごめんなさい」


「いいのよ。ところで私の部屋に来るなんて珍しいわね?どうしたの?」


「実はお姉様のクラスにきた転校生の子のこと、気になっちゃって…。私のクラスでも話題になってますよ」


「あ、あの子のこと知ってるの?」


いつもなら冷静なお姉様の声がうわずっている。


(あの人間がわたしのお姉様を変えたのか…)


新たなお姉様の一面を見れて嬉しい反面、人間の女のことは憎たらしい。



複雑な感情を隠すことに必死になっていると、


「あ、そうそう、サクラ」


「なあに?お姉様!」


「明日、少し遅くなるかもしれないわ。魔法の指導があるから」


(やっぱり)


わたしの予想通り。お姉様は明日もあの子と一緒にいるつもり。


お姉様は悪くないのに、心がひんやりしてくる。


「へ〜、転校生の子に魔法を教えてあげるの?お姉様って優しいのね」


「そんなこと...ないわよ」


照れたような仕草。こんなお姉様、見たことがない。かわいい。


(絶対に阻止してみせる)


「じゃあ、わたしも応援してる。頑張って」


にこにこと笑顔を浮かべながら、心の中では決意を固める。


「ありがとう、サクラ」



お姉様に「おやすみ」と告げて部屋を出て行く。


ぱたん


ドアが閉まった瞬間、わたしの表情が変わる。


(あの転校生...ヒナとかいう女。覚悟しなさい)




明日から、本格的に行動を開始しよう。お姉様を守るために。そして——


(わたしだけのお姉様を取り戻すために)


かちかち


時計の針が夜中を指すまで、わたしは綿密な計画を練り続けた。


表向きはのんびりした妹。でも本当は——


(誰よりもお姉様を愛している妹なの)

今回も読んでいただきありがとうございます!評価やコメントをもらえると励みになります!

自分もこんな愛の重い妹欲しかったなぁ(白い目)

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