1-6「二人で一緒に」
知識試験の会場を出ると、石の廊下にひんやりとした空気が流れ込んできた。緊張で火照っていた頬に、その冷たさが心地よい。控室の扉を開けると、すでに何人かが戻っていて、椅子に座ったり水を飲んだりしながら次の指示を待っていた。
その中で、ひときわ明るい声が響いた。
「マリアさん!」
顔を上げると、エリーが手を振っていた。金糸の髪が光を弾き、いつものように目を輝かせている。マリアが近づくと、彼女は椅子をぽんぽんと叩いて「ここ座って」と示した。
「試験、お疲れさまでした! どうだった?」
エリーは身を乗り出して尋ねてくる。マリアは思わず笑みをこぼした。
「なんとか書けたよ。最後の問題は……ちょっと迷ったけど」
「ね、あれ難しかったよね!」エリーは両手を広げて大げさに嘆く。「“あなたにとっての英雄とは”なんて急に聞かれても、心臓が止まるかと思った!」
マリアはくすっと笑い、そっと声を潜める。
「でも、あれは逆にチャンスだと思った。自分の考えを見てもらえるし」
「ふーん、さすがマリアさん。私なんて“国を守る人です”って書いちゃった」
そう言いながらも、エリーはどこか楽しそうに笑っている。その笑顔に、マリアの胸の奥の緊張がほぐれていくのがわかった。
「剣術試験のときも見たよ、すごかったね。あんなに魔力が光ってた人、初めて見た」
「……あれは、ただ、気持ちが溢れただけ」
「そういうところが、きっと周りを惹きつけるんだよ」
エリーは少し真剣な顔になって、マリアの目を覗き込む。今までおしゃべりで騒がしい印象だった彼女が、不意に大人びた表情を見せる。
「ねえ、マリアさん。もし、二人とも英雄団に入れたら──一緒に行動しない?」
「えっ?」
思わずマリアは瞬きをした。エリーは少し頬を赤らめながら続ける。
「だって、マリアさんのこと、ずっと城の前で見てて……本当にすごい人だと思った。私、そんなに強くないけど、誰かの隣で頑張ることならできる気がするの」
胸の奥で小さな何かが温かく膨らんだ。城の前でひとり祈り続けてきた自分を、誰かが見ていてくれた。その誰かが今、隣に座っている。
「……うん、いいよ」
マリアは静かに頷いた。エリーの顔がぱっと花が咲くように明るくなる。
「ほんと? 約束だよ!」
「約束」
ふたりは小指を絡めるように手を握り合った。控室の中で小さな約束が結ばれ、その瞬間だけ時間がゆっくり流れたように感じられた。
その時、外の鐘が鳴った。試験官の声が廊下から響く。
「これより英雄団候補者の最終発表を行います。全員、広間へ」
エリーが小さく息を呑み、マリアは背筋を伸ばした。これまで積み重ねてきたものが、いよいよ試される時が来るのだ。
「行こうか」
「うん!」
ふたりは立ち上がり、肩を並べて広間へと向かった。廊下の先に、玉座の間へと続く大きな扉が見える。扉の向こうには、彼女たちの未来が待っている