表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若き王女のために  作者: 音成 九夢
あらすじ
1/11

プロローグ

中学三年生の思い浮かべた、一人の少女が王になるまでの物語です。

 ──我々の国には王がいない。

 「英雄」と呼ばれる者だけが王になる資格を持つと言われ、年々「勇者」と呼ばれる者や「大賢者」と讃えられる者が現れては消えたが、誰ひとりとして王となる者はいなかった。


「私が必ず、この国の王に……」


 玉座の前にひとり、年端もいかぬ少女が膝をつき、忠誠を誓うようにして祈っていた。


「私が英雄となり、この国を勝利に導いてみせます」


 まだ十にも満たない年齢。英雄と呼ぶにはあまりにも幼く、か細い身体。だが、国民がたったひとりの人間を「英雄」と認めなければ玉座に座ることは許されず、王となる者は国民をまとめ、勝利へと導かねばならない。


 少女はゆっくりと立ち上がり、胸に手を当てて一礼すると玉座を後にした。

 城門を出た瞬間、張りつめていた緊張がほどけ、大きなため息がこぼれる。


「はぁ……わたし、本当に王になれるのかな」


 愚痴のような独り言。けれども少女は、英雄になるための鍛錬を一日たりとも欠かさなかった。

 彼女の目標はふたつ。ひとつは王になること。そしてもうひとつは、そのための登竜門──「英雄団」に入ること。王に選ばれるためには、まず英雄団の候補にならなければならない。


「おや、エリーゼさんとこの娘じゃないか。こんな城の前で何をしてたんだ?」


 声をかけてきたのは、家の宝石店の常連客だった。母の話ではヘカナという名の男だ。


「少し、お祈りをしてまして」


「ああ、確か王になりたいんだっけか。がんばれよ」


 それだけ言い残し、男はそそくさと去っていった。マリアは軽く会釈し、夕暮れの街を家へと急いだ。


「母さん、ただいまー」


「あら、今日は早いわね。お祈りはしてきたの?」


 母の問いかけに少女──マリアはこくりと頷いた。


「王になるなら鍛錬だけじゃなく、知識もしっかり身につけなさいよ」


 母はマリアの夢を笑わず、むしろ背中を押してくれる数少ない味方だった。街でうっかり口にすれば「お前みたいなやつは器じゃない」と罵られることもある。

 過去に読んだ本には、王を目指して暗殺された者の話もあった。野心を抱く者ほど孤独だ。


 それでも物心ついた頃から王を望み、ひたすら知識と鍛錬を積んできた。英雄と呼ばれるために、そして玉座に座るために。

 マリアは拳を胸の前で固く握りしめる。母はそんな娘を見て、ふっと優しく微笑んだ。


 風呂に入り、夕食を済ませると、マリアは寝床に身を投げた。

 その夜、不思議な夢を見た。目の前には、どこかで見たような人々が立っている。必死に思い出そうとして、はっと気づく──彼らは歴代の王たちだった。

 なぜ夢に現れたのかはわからない。再び目を閉じると、深い眠りが訪れた。


 ──翌朝。ぐっすり眠っていると、体を揺らされて目が覚めた。大きなあくびをひとつ。母親が枕元に立っている。


「あなたに用がある子が外で待ってるわよ」


 マリアは一瞬、頭の中がこんがらがった。友達どころか、人と深く関わることがほとんどなかったからだ。急いで着替え、玄関へ向かう。

 扉の向こうに見えた影は、自分と同じくらいの年頃に見えた。


「はーい。どちら様ですか?」


 ガチャリ、と扉を開ける。そこにいたのは、目を輝かせた少女だった。彼女はマリアの手をいきなりつかみ、早口で名乗る。


「私はエリーっていいます! あなたはマリアさんですよね!? よく城の前でお見かけします!」


 本当に知らない相手で一瞬身構えたが、マリアはとりあえず部屋に入れることにした。


「でも、ただ見ていただけなのにどうして?」


 マリアが尋ねると、エリーは頬を赤らめて言った。


「私もお祈りをしようと思っていたら、たまたまあなたを見かけて……ここまで王になろうと熱心な人、初めて見たんです」


 言葉は拙いが、言いたいことは伝わってきた。つまり彼女は、城の前に立ち続けるマリアに興味を持ち、今日訪ねてきたのだ。


「それにしても、大きなお家ですね!」


「親の努力のおかげだよ」


 エリーは不思議そうに、そして真剣な目で問いかけてきた。


「あなたは本当に、自分が王になれると思いますか?」


「うん、なれると思う」


マリアはきっぱりと言い切った。


「誰にだって平等に権利はある。これは神様が唯一、私にくれた生きがいだから」


「ふーん、そうなんですね……」


 エリーはどこか納得のいかない顔をした。無理もない。まだ十にも満たない少女が、国の頂点を目指すと言っているのだから。


「あっ」


 エリーは急に立ち上がった。マリアの顔をまじまじと見たあと、慌てて鞄に荷物を詰める。


「またいつか!」


それだけ言い残して、家を飛び出していった。


 とても不思議な女の子だった。突如訪ねてきて、すぐ帰ってしまう。疑問は残るが、マリアの日常は変わらない。

 王になるために鍛錬を積み、知識を植えつけ、国民を導ける人間になる──それが、彼女の決意だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
情景や出来事が事細かに書かれていて話がよく入ってきたので、読みやすかったですよ!
2025/09/09 22:27 トルコボール
面白かったです☺️
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ