TSカリスマ美少女ぴゅあぴゅあアイドル、イケメン先輩(女)に美味しくい食べられる
前作を読んでからお読みください。
アタシの名前は瀬名キララ。アイドルグループのメンバーの一人で、前世病弱の少年だった記憶をもつ、転生者でもある。
アタシのグループはちょっと変わっている。メンバーが四人いるのだが、そのキャラクターが清楚系、イケメン系、可愛い系、そしてギャル系――これ、アタシね――と、とびきりバラバラなのだ。おかげで最初はそれはもう大変だった。ゲームで知っていたとはいえ、現実は想像の何倍も大変だった。……本当に、大変だった。
けれどカチリとかみ合った歯車は、びっくりするくらいのエネルギーを生み出した。一つのユニットとしてだけじゃない。それぞれの特徴を活かし、みんなでスターになり。そして一人一人がスターにも成る。
こんな型破りなことを成し遂げたプロデューサーは、すごいヤツだと心から思う。……みんなの悩みや困りごとには、全く気づかないポンコツでもあるけど。
それがあたしたち、トップアイドルに駆け上がったユニット、「Colors」なのだ。
@@@
「それで、アオイと何があったんだい?」
「ごふぅっ!?」
町中とは思えないほど穏やかな雰囲気の喫茶店。人の入りも少なめで、さらにここは個室。そんな静かな空間に、私の口からジュースが宙を舞う。ゴホッゴホッと、気管に入って辛い。
いやしかし、いきなりこんなこと言われたら、誰だってこうなるでしょ!?
「にゃ、にゃんのことでせうか……」
「あの態度で、ばれないとでも思っていたのかい……?」
あきれたような顔すらイケメンなこの人は、高柳スミレ。アタシと同じColorsのメンバーだ。
れっきとした女性だが、173cmの高身長と凜としたたたずまい。整った顔立ちに切れ長の目。さらさらのショートカット。そしてなにより、キザなセリフと甘いマスクがまるで王子様のようで、周囲にイケメンと呼ばれるゆえんである。
「稽古でもなるべく距離を取る。話をしているとき、ものすごくぎこちない。アオイを見ると逃げ出す。あんなに仲が良かったのに急にこんな風になって、これで何もないという方がおかしいだろう。……ああ、うちのプロデューサーなら気がつかないかもしれないけどね」
逆にいればあのポンコツプロデューサー以外なら気づくと言外に言われて、ショックを受ける。え、そんなに?
唖然とするアタシに、スミレセンパイは困った笑顔を向ける。
「キミにはとても感謝しているんだ。私が困っていたときに助けてくれた。キミにとってはたいしたことはなかったのかもしれないが、私にとってはそうじゃなかった。すごく……本当に、すごく感謝しているんだよ。だから、その恩返しがしたいんだ」
スミレセンパイは、アイドルになる前からその王子様然とした立ち振る舞いで、多くの女子たちを虜にしていた。ただ望んでそうなったのではなく、望まれてそうなってしまったことで、自分が本当はどうしたいのか。どうありたいのかを見失ってしまっていた。
それをゲーム知識で知っていたアタシは、それとなく――――いや、結構ドストレートにプロデューサーに伝えたが、全く効果なし。時間が経過するにつれ、どんどんしおれていくスミレセンパイに業を煮やし。
『かっこいい女の子だって、いたっていいじゃん!』
「あの言葉に、私は本当に救われたんだよ。服屋に連れて行かれて、散々着せ替え人形にされたのは大変だったけど、それ以上にうれしい体験だったんだ。
『それに、カッコイイから可愛くなれないなんて、そんなわけないじゃん!』
「キミは、その言葉をちゃんと証明して見せてくれた。自分の姿に、そのかわいらしさに、本当に私は驚いたんだ」
『こんな可愛い人が、女の子じゃなくて何だと思うの?』
「そう言い切るキミを見て初めて、女性をカッコイイという人たちの気持ちがわかったよ」
ええ。やってしまいました。全力でやってしまいましたとも。
だってしょうがない。アタシがまだ、ボクだったころ。何度も言うが、キララが最推しだっただけで、他のメンバーだって大好きだったのだ。ファンだったのだ。
憧れの人たちが落ち込んでいて放っておけるファンなんて、いるはずがないじゃないか!
「だからどうか、キミの悩みを話してはくれないだろうか」
その真摯な瞳に。その奥にある心配。不安。そして、少しの寂しさに。ごまかそうとする自分の気持ちに、罪悪感が募る。申し訳ない思いが募る。それでも――――
「……センパイだからとか、そういうことじゃなくて。ただちょっと……」
内容が、人に言えるようなことじゃないだけなんです。
幼馴染みに襲われて。ひん剥かれて。そして、あんな、あられもなく、はしたない――――
――――ボッと、顔が熱くなる。
いけない思いだすんじゃない、アタシ。忘れろ。消去しろ。デリートしろ。なかった。あんなこと、なかったんだ。
「……すまない。困らせてしまったね……。じゃあ、せっかくだ。少し私に付き合ってくれるかな? 気分転換もかねて――――ね?」
パチリとキレイなウインクを一つ。
頬の熱が、さっき思い出してしまったことによるモノなのか、センパイのウインクによるものかわからないまま、アタシはこくりとうなずいた。
「プリクラちょー久しぶり!」
「私は初めてだよ。ふむふむ、ここで写真をとるんだね。せっかくだから……」
「ひゃぁあ!? く、くっつきすぎっしょ!?」
「まあまあ。あ、もう撮るみたいだよ。はいチーズ。……おや? ずいぶんキミの顔が赤いよ?」
「だ、誰のせいだしっ!!」
「……結構ひとが多いね」
「ふわぁあ!? な、なんで手、手、手をつないでっ?」
「まあまあ。はぐれないように、ね」
「それはわかるけど……って、指まで絡めるなしっ!!?」
「キミのクレープ、美味しそうだね。一口もらうよ?」
「ちょ、ちょっと! 勝手に食べるなし!!」
「まあまあ。うん、とっても美味しいね! キミの味がするよ」
「ななななっ、なに言っちゃってるの!?(うわぁ、間接キス……)」
「……結構遊んだね。すこし、疲れてきたかな……」
「おや~、センパイ、鍛え方が足りないんじゃない? どこかで休もっか?」
「ははは、精進するよ。じゃあ、こっちで休もうか」
「……あれ? カラオケかネカフェじゃないの?」
「まあまあ。大丈夫だよ。私に任せてくれ。……いいところがあるんだ。とっても……ね」
@@@
たくさんドキドキさせられてしまったものの。それでもこんなにのびのびと遊んだのはいつぶりだっただろうか。
すっかり肩の力が抜けたアタシは、自分がどれだけ異常な状態だったのかということに、ようやく気がついた。アオイにお、おそ、襲われ……こほん。……アレの影響で、ずいぶんと自分を見失っていたらしい。そりゃあ、周りが心配するのも当然だ。
人一倍、気遣いのできるスミレセンパイが、放っておくはずもない。ただ――――
「ねえ、やっぱりここ、なんか変じゃない? まあ部屋はきれいだし、ソファーやベッドが大きくてフカフカなのは、結構いいけど」
大きなソファーにだらしなくぐでぇーっと座りながら、疑問を投げかける。
連れてきてもらったのは、ホテルだった。一泊することもできるが、短時間だけ休むこともできるらしい。値段も手頃で、内装もそこそこキレイで、なんだか大きいお風呂までついていた。
ただ何というか、フロントがなくて勝手に入れたり。薄暗い雰囲気だったり。言葉にしにくいが、ちょっと普通じゃない感じがする。
「そうかな? キミは、こういうところに来たのは初めてかい?」
「ん-、たぶん? ホテルは何度も泊まったことあるけど、窓のないホテルは初めてかな?」
「そうかそうか。もしやと思ってはいたけれど、どうやらキミは私の想像より――――ふふふ、なんだかうれしい誤算だよ」
「え? どういうこと?」
「いや、気にしないでくれ。ところで――」
アタシの横に座ったセンパイは、少しいたずらっぽく口元に笑みを浮かべ。
「キミは、アオイくんとしたのかい?」
「……え? なにを?」
「――――えっちなことをさ」
えっち?
H? えっち? ――――エッチッ!!??
「――――――――――――――っっ!!??!??」
途端に脳内を駆け巡る、あんなことや、こんなこと。
言われるがままに。なされるがままに。まるでおもちゃのようにやりたいほうだいされて。脳みそが焼き切れるのではないかというほどの激情と。甘い甘い、とろけるようなほどの甘い感触と――――
「そ、そそそそそんなこと、ししししししてなんか――――」
「……ああ、もう大丈夫。とても残念なことになっていることはわかったよ」
「にゃ、にゃにを言って……」
「ところで、アオイくんとは恋人同士になったのかい?」
――――こいびと? コイビト? こい人? ――――恋人!!??
「そ、そそそそそんなわけないし!? あああああたしたち、友達だし!? というかそんな恐れ多いしっ!?」
「……なにが恐れ多いのかはわからないが……これはウソじゃなさそうだね。それなのに、ふたちはエッチなことをしたのかい?」
「しょ、しょれは……だって、アオイが……」
「……無理矢理……というほどでないにせよ、ながされてしまったのかな? じゃあキミは。キララくんは、アオイくんのことが好きなのかい?」
――――その好きが、友達の好きではないことは。さすがにわかった。
アオイは言ってくれた。アタシのことが好きと。友達としてではなく。
でもアタシは? アタシはどう思っているの?
だってアオイは、確かにアタシの幼馴染みだけど。でも、アイドルで。ゲームの中とは言えずっと応援していた、憧れの人たちの一人で。恋なんてそんな。恐れ多くて……
「……よくわかんないよ……アタシ。だって、その、そりゃあ、アオイのことは好きだし。ずっと友達だったし。すごいし。頑張り屋だし。憧れだけど。でも、急に好きとか言われても……よくわからなくて」
うまく説明が出来ない。自分の心がわからない。支離滅裂な言葉に、けれどセンパイは何度も首肯した。
「なるほど。……キミは優しな。この期に及んで、アオイくんのことを一番に考えているんだね。それでもまだキミの中の「好き」に答えがでていないと。……先は超されたけど、まだチャンスはあるってことかな」
「……え、なんて?」
最後の方が、うまく聞き取れなかった。
「いや、気にしないでほしい。それより、話してくれてありがとう。少し強引だったことは謝るよ。すまなかったね」
ふるふると首を振る。心配をかけたアタシが悪いのだ。むしろ、申し訳ないとすら思う。
センパイは優しく笑って。
「キミの好きが恋か、そうじゃないのか。私はひとつだけ、確かめる方法を知っているよ」
「ホントにッ!?」
そんな方法が、あるの!? 調べてみても、マンガを見ても、小説を読んでも全然わからなかったのに。
「ああ。ちょっと刺激が強いけど……試してみるかい?」
刺激が強い。
その言葉に、イヤな予感がする。それでも胸の中のモヤモヤを晴らすことができるのなら――――。
こくん。
小さくうなずいた。
そしたら、センパイは「わかった」といい……にやりと。口元をゆがめた。自分の中の危機感が、突如警鐘を鳴らそうとしたが。
――――ドンっ!!
「ぴきゃぁうわ!?」
突然の出来事に。強い衝撃と音に。座っているソファーと心臓が飛び跳ねる。
アタシの顔の横に突き刺さった腕。そして目の前に迫るセンパイのご尊顔。これはまさか――――壁ドン!!??
「なななななななな」
「私がいまからすることにキミがイヤだと思うなら、きっとそれは恋なのだろう。そうじゃないなら、まだ恋ではないってことさ。胸に手を当てて自分の気持ちを確かめてごらん」
「そそそそんなこと、している余裕あるわけないっしょ――――――!????」
だんだん近づいてくるセンパイ。ソファーとセンパイに挟まれて、身動きがとれない。慌ててセンパイの肩を押し返そうとするが。
「ははははは。そんな弱い力じゃ、このまま大変なことになってしまうよ?」
しょ、諸悪の根源がなにを言っておるか!?
く、くそう。こっちは前世もあわせたら、センパイより十歳以上年上なんだぞ!! それなのになに? なんでこんなに色気があるの!? やばいんだけど!?
「はわわわわ、だ、だめぇえええ……」
アタシはぎゅっと目をつぶり。
「イ、イヤとかじゃ……ないけど、こう言うのは、ちゃんとお付き合いしてから。ちゃんと好きな人同士じゃないと、だめだと思うから……。それに、お試しでこんなことしたら、センパイが穢れちゃう……」
ぴたりと。センパイの動きが止まった。
恐る恐る目を開くと、瞳を丸々とさせたセンパイが、呆けた顔でこちらを見ていた。
「……すごいな、キミは。こんなときまでまさか、私のことを考えるなんて……本当に私は、キミのことをまだまだ理解できていなかったんだね。ますます……」
ちゅっ。
「――――――え?」
いま。いったい。なにが……?
「ますます……愛してしまいそうだよ」
両手をつかまれ、強くソファーに縫い付けられる。
「えっ!? いったい、なに――――――――――っぅんん!!???」
口内に侵入する何かに、体中に熱が駆け巡る。息が、できない。クラクラする。
あれ? アタシいったい、どうなって? そういえば最近、これと似たようなことが……?
どれほどの時間、そうされていたかわからない。ただ解放されたときには、意識が朦朧としていて。頭がまわらなくなっていて……
「実は私も、キミのことを愛しているんだ」
衝撃で、飛んでた意識が帰ってきた。
「は、はいいぃぃいいいいいっっ!!!!!???
ななななんでどうしてこんなじょうきょうにいみがわからない……
「ボ、ボクは……ボクは……」
「おや? キミは自分のことを「ボク」と呼ぶのか。うれしいなあ。今日は私の知らないキミをたくさん知れて……」
「あ、う、まって……」
なんとか言葉を紡ぐも、ボクの身体はすっかりと腰砕けになっており、まともに動かない。子鹿のように震えて立つことすら出来ないボクの身体は、センパイのしなやかな腕に絡め取られ、軽々と持ち上げられる。それもお姫様抱っこで。
まずいと。そう思った頃にはベッドの上。
ボクの両手を片手で縫い止め、恍惚とした表情で見下ろすセンパイに。
「助けてくれたときのキラキラ輝くキミが、こんなにもウブでかわいらしくて。そして――――」
ペロンと。ボクの肌があらわになる。
「ああ――――こんなにもキレイだなんて。想像以上だよ」
「ま、まっへ。まっへしぇんぱい……まっへまっへまっへまっへ――――――――――――――――――――ひょぇえええええええええええええッッッッッッッ…………………ぅにゃぁっ」