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月の降る夜、あなたとふたり  作者: 小坂あと


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第9話




 みーちゃんを飼いだしたのは、私が拾ってきたからだ。


 公園で遊んでる時に、ふと草の影から現れた子猫と目が合って、お互い小首を傾げたのが初の対面だった。

 気になって幼い手を伸ばせば、彼女は警戒した様子でのそりのそりと歩み寄って、ザラザラの舌先で指の端を撫で上げた。

 その愛らしさとは如何に、説明できない電撃が脳にかけ巡って、仔猫を抱きかかえ母の元に走った。

 

 汚くて、醜くて、弱々しくて、かわいい。


『おかあさん、わたし、この子と一緒に生きたい!』


 母ははじめ渋ったが、「ちゃんと面倒を見るなら」という条件付きで許してくれた。

 だけどそれも、拾いたての子猫を洗って綺麗になった姿を見たのと同時に、興味が消え失せてしまった。小汚いのが良かったのに。

 だから早々に飼育をやめた私の代わりに、ぶつくさと文句を垂れながらも母が面倒を見るようになった。


 どうして今になって、死んだみーちゃんとの出会いを思い出したかというと、


「あ……み、見ないで…」


 前回のデートから数日。話があるからと珍しく間宮の方から言ってくれて、部屋に招いたらなんとなくそういう気分になっちゃって、話なんかそっちの気で服を脱がした時。


「なに?この痣…」


 彼女の全身に痛々しく残った痣や、やせ細った肢体が子犬だったみすぼらしいみーちゃんの姿とかぶったからだ。

 さすがにえっちは中断して、話したかったであろうことを聞いてみれば、どうやら親に怒られたらしく今度からは今までのように遊びにいけなくなると心苦しそうに言われた。

 正直、遊びに行けなくなるのはどうだっていい。こうして会って抱けば彼女も満足してくれるだろうし。いや……一度遊びの楽しさを知ってるから微妙か。

 とにかく問題は、間宮の母親による暴力だ。

 私以外の誰かが傷付けたという事実が、自分で思っているよりも深く心を刺してきた。傷だらけの彼女は好ましいけど、その原因が私じゃないのは嫌だ。

 

「これからは、バイト代ほとんど親に渡さなきゃいけなくて……ごめんなさい。ごめん、白石さん」

「……大丈夫だよ、間宮」


 お金が無くても、私がいるからね。

 そう伝えて抱き締めれば、すっかり懐いた子猫のような寝顔で間宮は私の腕の中、穏やかに眠った。

 眠る間宮の髪を撫でながら、ひとりスマホを片手にぼんやりと頭の中で計画を立てる。


 とりあえず、間宮の母親をどうにかしないと。


 また間宮を傷付けられたら困る。

 話を聞く感じ、金を渡せば満足するタイプだろうから、バイト代は全部渡してもらって……そうなると、今度は間宮が自由に使えるお金が無くなる。その不自由さが不満の種になって別れるなんてごめんだ。

 だけど遊びに行くたびふたり分を払えるほど、私のお小遣いもそこまで多くない。親にねだって貰える額にも限界がある。


「良いお金稼ぎの方法……ないかな」


 困った時は、SNSに頼るのが吉。あそこは情報の宝庫だから、取捨選択さえ間違えなければ有益なものが手に入る。

 暇つぶしがてら、さっそくよく使うSNSを漁ってみた。

 検索をかけるのもアリだけど、どの単語を使って調べたらいいか分からないからなんとなく、適当に。


「パパ活……いや、だめだよね」


 見ているうちに、いわゆる“裏垢”と呼ばれる界隈のツイートに辿り着いた。

 絵文字なんかで隠されているが、「ホテル代別何万」と分かる人が見ればすぐ分かる文字列の数々を見て一瞬悩んだものの、すぐに否定した。

 知らない男に間宮を預けて、その間に何かあっては元も子もない。私自身の体を売るつもりもないし、そもそもリスクが大きすぎるから却下。あくまでも、自分達の身は守りつつ小金を稼ぐ方法を模索しなければならない。


「んー……なんか、いいのないかなぁ」

「…ん、う……白石さん…」


 気が付けば一時間ちょっと。

 画面とにらめっこしながら悩んでいたら、眠りが浅くなっているのか間宮がもぞもぞと動き出した。

 そういえば、服を着せるのを忘れてた。

 少し視線を下げれば見える彼女の肌は白く、痛々しい痣さえ無ければ綺麗なもので、胸も大きくはないけど女の子らしい体つきをしてる。……女の子なんだから、当たり前か。


 この体を、うまく使えないかな。


 また深い眠りへといざなうように背中をさすって寝かしつけながら、またスマホへと視線を戻す。

 パパ活は論外。なるべく危険度が少なく、身バレの心配もない……そんなお金稼ぎの方法があれば。


「あ」


 そこで、私は見つけてしまった。


 露出度の高い画像でフォロワーを集め、えっちな配信をすることを生業としている女性達を。

 見つけてからは、より詳しい情報を集めようと、その人達のアカウントをいくつか覗いてみたり、顔出しの有無なんかも確認していった。

 配信……いいと思ったけどリスクが高いか。声や何やらで身バレする可能性も捨てきれない。悶々と悩む。

 

 そしてようやく、ひとつの案が浮かんだ。


「……今はまだ、できないかな」


 青紫色の痣を触って、治るまでは思い浮かんだこの方法をさらに現実的なものにしようと心に決めた。

 その日のうちにアカウントも作った。

 フォロワーは多ければ、多い方が良い。今のうちにできることを探して、タグをつけて拡散してみたりもした。


「白石さん…」

「……うん。おはよ、間宮」


 やってる内に間宮が目覚めて、今度は寝そうになかったからスマホを閉じて抱き包んだ。


「間宮はあったかいね」

「そう……かな?」

「うん。生きてるって感じ」


 心地いい気がするこの体温を、手放す日が楽しみ。

 目覚めた間宮とふたり。うとうと過ごしていたら、いつの間にか日も暮れ。


「月、見えないね。空が暗いよ、白石さん」

「……今日は新月なのかも」


 私の本心を覆うように月を隠した雲空の下、彼女を家まで送り届けた。






 


 

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