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月の降る夜、あなたとふたり  作者: 小坂あと


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第7話











 夏休みは、それなりに満喫できた。


 親とは毎年恒例の旅行を楽しんだし、友達とはプールに行ったり誰かの家に集まって駄弁るか課題を進めるか。とにかく適度に関わりを持ちながら過ごした。

 部活動では先輩の親から借りた一眼レフカメラを使って夏の思い出写真も撮れて、まさに順風満帆。

 面白みのない、ごくごく一般的な夏休みだったと思う。


「赤ちゃんの写真、撮れなかったな……」


 画像として収めたものはどれもつまらない風景ばかりで、空や草木の姿なんて改めて見て何が良いんだろうと疑問で仕方なかった。

 放置していた間宮からの連絡はついに無く、それに対しても退屈さ感じていた。

 飴と鞭作戦は失敗に終わった。間宮は離れてもおそらく何も感じない。もしくは、寂しくても表に出すことはしない。

 それどころか離れてる間に、彼女はバイトを始めてしまった。

 意外にも社会に溶け込む能力を備えていたらしく、バイト先ではミスを連発しているものの周りが優しくて許されていると話していた。


 まずい。


 爪の先をかじりながら、焦る。

 まさか彼女にそこまでの社交性があったなんて。あたかも社会不適合者という顔をして、そうでなかった事実に驚くよりも苛立ちが沸き立った。

 私がいなくちゃ生きていけない、そのくらいの温度感を持たせないといけないのに。このままじゃ、バイト先で変に知識をつけたり他の男に取られてしまうかもしれない。


「間宮」

「う、うん……なに?」

「間宮は、私の彼女だよね?」

「う……ん、そう、だよ」

「じゃあさ、浮気しないように……入れてほしいアプリがあるんだけど」

「な、なに……?」


 今日も相手の体に跡を残しつつ、そんなんじゃ足りないからとひとつお願いをした。


「……へぇ。バイト先、そこのスーパーなんだ」


 画面の中にある、間宮を示す青い点を目で追って、僅かばかりの満足感を得た声を出す。

 インストールしてもらったGPSアプリの性能は良く、例えば学校にいてもどの教室にいるのか大体分かる。そのくらいには完璧な精度で彼女の居場所を伝えてくれた。

 これで、万が一の時にも対応できる。

 他の人の家に行こうものなら引きずってでも連れ帰るし、私のいないとこで死なせないためにも危ない場所に行ってたら迎えに行ける。

 逃げられなくする手段は手に入れた。次は、いかに依存させるか、だ。


「彩花〜、聞いてよ」

「うん、なに?」

「今日さー……彼氏と喧嘩しちゃって」


 放課後、間宮のことを考えていたら友人のひとりに相談を持ちかけられたから、ふたりでファミレスへ行くことにした。

 話の内容は喧嘩にもならないくだらない小さな揉め事の連続で、どう返そうか反応に困る。


「そんなに彼氏が嫌なら、別れたら?」

「やだ!たかくんがいない人生なんて考えられない」


 あーあ、この手のめんどくさいタイプね。

 いるよね、愚痴は死ぬほど言うくせに彼氏とは別れたくないって言う謎の――


「なんで、そんなにその人がいいの?」


 そこで私は、気が付いてしまった。

 彼女に話を聞けば、間宮のこともそういう頭の悪い女にさせることができるかもしれない。間宮は元から地頭良くなさそうだし、余計に。

 だからその日は熱心に友人の話を根掘り葉掘り聞くだけ聞いて、そうしたら相手もスッキリしたのかお互い気持ちの良い思いで解散した。


 帰ってから、どうしたら女の子が沼るのか簡単にまとめた。


 まず、第一に惚れてないとだめらしい。

 惚れていれば多少、何をしていてもかわいく見えるんだとか。これは盲点だった。

 間宮は多分、私に惚れてない。今のところ惚れる要素がないし、そうなるように仕向けてるわけでもないから、必然的に解は編み出される。


「間宮……おいで」


 普段と変わらず部屋に招いて、ベッドの上に呼び込む。

 いつもならここでキスをして体を触る、いわゆる性的な触れ合いをしてきたけど、今日は違う。

 足の間に挟む形で間宮を後ろ向きに座らせて、脇の下に手を通す。


「なんか、どっか……デートでも行く?」


 小さくて細い、簡単に壊れちゃいそうなか弱い手の甲を撫でながら、相手の反応を窺う。

 間宮は目に見えて動揺していて、「え」を何度も声に出しては落ち着きなく自分の髪を触っていた。

 たかだかデートを提案したくらいでこんなにも照れてくれるとは思ってなくて、予想外の可愛さに胸の奥がキュンと縮こまる。

 同時に、今まで私に足りてなかったのは彼女への恋人としての対応なんだということに気が付いた。


「どこ行きたい?」

「あ……や、で、でも……お金、ないから」

「いいよ。私出すから」

「せ、せめてバイト代出てから……」

「こういう時は甘えて?間宮」


 細い手首を持って顔を覗き込んだら、赤く染まった情けない表情の間宮と目が合った。

 ついキスをしちゃって、そのまま自分の意志とは反してなし崩しに服を脱がせれば、彼女は普段より緊張した面持ちで鼻息を荒げていた。

 ……興奮してるのかな。

 なんでかは分からない。よほどデートのお誘いが嬉しかったのかもしれない。


「間宮……」

「っう、う……あ」

「声、我慢しないで」


 濡らす必要のない行為は楽で、それどころか楽しさまであった。

 私を求めて彷徨う手を捕まえてベッドシーツの上へと落とす。その過程で絡んだ指は汗ばんでいて、少し気持ち悪かった。

 それでも手を繋ぎ続けたのは、そうすれば好感度に繋がるだろうって打算と、繋ぎ止めたいという思いの現れでもある。


「好きだよ、間宮」


 感情のこもってない好意の言葉ひとつ落として、その日は彼女の体に激動が訪れるのを感じていた。







 

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