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月の降る夜、あなたとふたり  作者: 小坂あと


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第14話







 白石さんの兄だという男の人……颯人さんのおかげで、なんとか家に帰れた。

 拘束を外してくれて、体を触らないようにと気を使いながらも着替えまで手伝ってくれた彼は、「寒かっただろう」と最後に自分の着ていたコートを羽織らせてくれた。

 その後で色々と事情を聞かれて、誤魔化すための上手な嘘も思いつかなかった私は素直に白石さんとの交際と、怒らせてしまったことを話した。

 話を聞いた颯人さんは、苦虫を噛んだみたいな辛い表情をしていた。

 とりあえず親が心配するだろうから、と私を思っての理由で送り届けてくれた帰路の途中、冷えきった体を温めるためか通りかかった自販機で熱いお茶も買ってくれて、両手で包むように持たされた。

 こんな寒い中歩いたからだろう、彼の手も冷え切っていた。

 それなのに私のことばかりで……白石さんと同じで優しい人なんだなって、片隅には常に彼女がいる。


 彼の目元が白石さんそっくりだったのも、理由の一つかもしれない。


「彩花が、ごめん。……帰ったら、俺の方からあんなこともうやめるように言っておくよ」

「あ……は、はい…」

「そうだ。俺の連絡先、念のため伝えておくから。何かあったら連絡して」


 到着した家の前で、罪悪感で埋め尽くされた顔の颯人さんと連絡先を交換した。

 彼は男の人だけど、家族だから怒られないかな?って思ったのと、なんだか断るのも申し訳なかったから。

 別れを告げて家の中に入ると、母の姿もなかったから、疲れ果てた体を布団へと運んでそのまま深い深い眠りに落ちた。白石さんに連絡するのも忘れて。

 次に私が目を覚ましたのは、インターホンの音が何度も部屋に響いたからだ。


「ん……誰…?」


 起き上がって、目を擦りながら玄関へ向かう。

 不用心にも確認すらせず扉を開けたら、そこには白石さんが立っていた。


 あ……怒られる。


 連絡もなしに帰ってきちゃったことを怒りに来たんだ、本能的に察して全身から血の気が引いた私の予想とは反して、伸びてきた彼女の手は縋るように弱々しく体を抱いた。


「よかった、間宮」


 確かめるように撫でられた感触に戸惑いつつ彼女を招き入れたら、どうやら私の身を案じてくれてたみたいで少し照れた。

 さっきまで怖さが嘘のように優しい白石さんは、縛られた跡の残る私の手首を何度もさすって、「さっきはごめん」と謝ってくれた。


「間宮が他のやつに取られたらどうしようって……不安になっちゃったの」

「と、とられないよ」

「……かわいいから。間宮は」


 何度言われても未だに信じられない褒め言葉を口にしながら頬に手を当てて、唇を奪ってきた白石さんの行動を受け入れる。


「小さくて、かよわくて……壊れちゃいそうで、かわいい」


 腰やお腹のラインをなぞるように指先が滑って、彼女の言うようにあまり丈夫ではない体を望まれるがまま差し出した。

 壊さないようにか、打って変わって丁寧にされる愛撫はもどかしいくらいにくすぐったくて、ちょっと乱暴にされるくらいの方が好きかもって事に気付く。

 もしかしたらこれまで……白石さんは頭がいいから、自分でも知らなかった私の性質に合わせて、わざと強くやってたのかもしれない。

 そうやって都合よく、彼女の行動全てを肯定していく。

 でなければ、これまでされてきた事が単に辛いことだったと脳が認識してしまいそうで、心が持ちそうになかった。


「帰らなくて、いいの?」


 終わってからも私の体にひっついたまま、なかなか帰りそうにない白石さんは、答えもせず胸元に隠れてしまった。

 こんなにも甘えたで、子供らしい一面を見たのは初めてで、庇護欲が心をくすぐる。


「帰りたくないの?」

「……うん」


 頷いた白石さんの手が服を握って、引っ張られた弱い感触にどんどん胸に抱える愛らしさは増していった。


「か、かわいい……彩花ちゃん…」


 気に食わないって、怒られちゃったらどうしようって思いながらも、勇気を出していつもしてもらってるみたいに頭を撫でて抱き寄せたら、相手も黙ったまま抱きついてくれた。

 腕の中にいる白石さんは思っていたよりも小さくて、女の子なんだって実感するたび、心に残っていた恐怖心も薄れていく。


「……お兄ちゃんのこと、嫌いなんだよね」


 しばらく無言で過ごしていたけど、ふと白石さんがぽつりと呟いた。


「お兄ちゃん……颯人さん?」

「……名前呼ばないで」

「あ、ご、ごめん」


 私に名前を呼ばれることすら嫌いだという颯人さんの話を、誰かに言いたかったのか拗ねた顔で話し始めた。

 内容は、「比べられるのが嫌だ」とか「お母さんはいつもお兄ちゃんばっかり」っていう、兄弟のいない私には共感しにくいことばかりで、気の利いた返事はできなかった。

 悩む白石さんは年相応の女の子にしか見えなくて、普段の激しい行いが信じられないくらい幼かった。

 新たな一面を知ることができて嬉しい反面、私の中で初めて「誰にも見せないでほしい」という独占欲のようなものが湧いた。


 腕の中にいつまでも、閉じ込めたいと思った。


「今日、泊まる?」


 下心を持って聞けば、彼女もまた同じ気分だったのか小さく頷いてくれて、ますます手放したくなった思いで私の方から唇を重ねた。

 いつも触られるばかりで、そういえば白石さんのことは触ったことがないな……って不安に思いながらも、服の中に手を忍ばせる。

 顔色を伺いつつ体勢を変えようと動いたら、諦めたように彼女はごろんと仰向けになった。


「白石さ…」

「いいよ、別に。……初めてじゃないから」


 そこで知らなかった事実を耳にして、手が止まった。


「あ……え。し、したこと、あるの?」

「……中三の時。暇だったから」


 なんでもないように言われたけど、衝撃的すぎて頭を白くする。

 同時に、白石さんが「他の人に取られたくない」って理由であんなに怒った気持ちが、分かった気がした。

 私だけのものだと思ってたのに。

 落胆と、腸が煮えくり返るような静かな憤りは心をいとも簡単に黒く染めて、深く濃く自分の存在を刻みつけたくなる激情で溢れる。

 今触れている肌も、普段とは違った声色も、赤く染まった顔も、何もかも。

 過去、私じゃない誰かも触れたんだ、見たんだ、聞いたんだと思ったら、絶叫したくなるくらい絶望した。


「彩花ちゃん……彩花ちゃんも、私だけだよ」


 言い聞かせるように、何度も伝えた。 


「うん。……間宮だけのものだよ」


 欲しい言葉を次々くれるから、私の執着はより増していってしまった。


 それが、自分の首を締めているとも知らずに。


 


 



 

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