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98.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 「ユリアの器」について調べるべく、アリス、皓然、アダンの三人は一緒に図書館へ来ていた。そこで出会ったのは、メアリーの一人娘であるリジー。彼女と別れた後、アリスは王家について調べていたのだが、だんだん話が脱線してきて……。

 話しが脱線してきて、意識を切り替えようとアリスがうんと体を伸ばした時。別行動していた男子二人がやってきた。


「——やっぱり、アリスにはこっちをお願いしてて正解でしたね」


 アリスのメモと積み上げられた本を見て、どこか疲れ切った様子の皓然は力なく笑った。


「いいお勉強になったでしょう?」


「なったけどさ……。これ、見てよ。『神の力を宿し子供』だって。胡散臭くない?」


「アリスの近くにいるじゃないですか」


「何が?」


「だから、『神の力を宿した子供』だよ」


 アダンは肩をすくめた。


「牡丹がそうさ。あの子は正義の神アストライア様の天秤を体に宿してるんだ。アゴーナスでも使ってたよ? ほら、パウラたちを回復させたっていう、アレ」


「え、アレ!?」


 言われてみれば、「アストライア様が~」とか何とか言っていたような……。


 正義の神の天秤ということは、あの時パウラたちが乗せられていたのが例の天秤なのだろう。


「姉さんのは、罪人に重い罰、罪を犯していない人は完全回復してくれるんです。回復魔術はまだ解明されていないから、そういう意味でも姉さんは国にとっての重要人物なんです」


「でも、そのアゴーナスで、一年生たちはエキシビションの傷を治してもらったよ」


「あれは白夜の特性です。それですら珍しいんですから。単発で二羽のハト(ギリシャ語で『一石二鳥』の意)とは、まさにこのことですよ。国にとっては、ですけど」


「ごめん、どういう意味? 単発で……?」


「えーっと、一つのことで利益が二つになった、みたいな?」


「あ、『一つの石で二つの仕事をする(フランス語で『一石二鳥』の意)』ってことね!」


「ややこしくしないでよ、アリス」


 アダンが顔を思い切りしかめ所に、リジーが本を返しにやってきた。今度は、あの千夜族の女の子も一緒だ。


「あ」


「あ、あ、あ、あのっ、……久しぶり、皓然兄さん」


「久しぶり、(まい)


 リジーの後ろから顔を出し、もじもじするその子の頭を撫でて、皓然はアリスたちには滅多に見せなくなった優しい笑顔を浮かべた。


 アリスとアダンは顔を見合わせてから、リジーから本を受け取った。


「皓然、その子と知り合い? というか、どの位置の親戚?」


「血のつながりはほとんどないくらい、遠い親戚」


 背筋を伸ばした皓然は、女の子に「ね」と笑顔を見せた。だが、その子は皓然の後ろに隠れてしまい、彼越しにアリスたちを見つめている。


「まーい。ご挨拶は? できます?」


「は、は、はじめ、まして……っ」


 皓然の服を握る小さな手に、きゅっと力が入った。


胡蝶(こちょう)(まい)、です……。よ、よろしく、おねがい……ます」


「よくできました」


 皓然がそう言って舞という女の子の頭を撫でると、舞は皓然に黙って腕を伸ばして抱っこをせがむ。その様子は兄妹か、遠くても従兄妹同士のようだった。


「舞はね、知らない人とお喋りするのが苦手なの」


 リジーはそう言って、皓然に抱っこされる舞の背中をそっとなでた。


「だから、今日はすごいんだよ! 自己紹介、自分でできたもん!」


「そうなんだ。えっと、アリス・ランフォードだよ。よろしくね、舞」


「ぼくもぼくも! アダン・トゥータン! 初めまして! 最近だよね、フォティアから来たの」


 アダンの問いに、舞は小さな手を向けた。二本だけ指が挙がっている。


「二週間前に、来たばっかりなんですよね」


「ん……」


 となると、丁度夏休み前でみんながバタバタしていた時だ。舞の紹介が夏休み明けにまわされてしまったのもうなずける。最も、この性格では人前に出られないだろうけれど。


「というか、『胡蝶』って……」


「フォティアの上級家系、胡蝶公爵家の末娘さんです。(ひらり)先輩の妹さんですね」


「……が、どうしてアエラスに?」


「……色々とあるんですよね」


 舞の頭を優しくなでてから、皓然はリジーが持ってきた本の表紙を覗き込んだ。


「『図解王家』か、懐かしいですね。魔法使いが一度は通る本です」


「へえ、じゃあ皓然も通ったんだ!」


 アエラスで魔法使い時代を過ごしていたはずのアダンの言葉はさておき、皓然は「この本はお勧めですよ」とアリスに笑顔を見せた。


「とても分かりやすく、かつ丁寧に解説されているので。ぼくも昔、パウラたちと取り合うようにして読んでましたから……」


「最終的に喧嘩になって、ダリア先生に怒られたけどな」


 飛んできた思いがけなかった声に、アリスたちは一斉に声の主を見つめた。


「なんだよ、魔物でもみるような目で見るなよ」


 居心地悪そうに顔をしかめたのは、パウラ。まだ一週間は実家から戻らないはずだ。それなのに、そのリーダーは明らかに外行きの格好で目の前にいる。ということは、王宮に戻って来たばかりなのだろう。部屋に戻らず、直接この図書館に来たのに違いなかった。


 アリスたちが尋ねるよりも早く、パウラは肩をすくめ、ここに来た目的を教えてくれた。


「ちょっと、調べものにね」


「調べもの?」


 そう言って首を傾げたアリスたちを見つめてから、パウラはアリスをジッと見つめた。


「ちょっと、アリスに質問」


「え、なに?」


「レクイエムって知ってるか?」


「もちろん」


 アリスが頷くと、パウラはパッと顔を輝かせてアリスとの距離を一気につめた。


「どんなの? 歌える? あ、音源とかは?」


「う、歌うのは、無理……。聞いたこともないし……」


「そうか……。ああ、悪かったね」


「ううん。こっちも、聴いたことがあるみたいな返事をして、ごめんね」


「いいや、いいよ。それにしても、別世界にもあるのか……。こりゃ、骨が折れるぞ……。やっぱり、ルカ兄さんの所に行くべきか?」


 パウラが一人で思考の沼にはまろうとしたところで、皓然がみんなを代表して「ちょっと」と声をかけてくれた。


「さっきから一人で、何なんですか。自由研究か何か?」


「違うよ。……まあ、君らには言っててもいいか。実は、パパの隠された遺書が見つかって」


「はい!?」


「それが意味わかんなくて、謎解き中ってところ。いやあ、我が父ながら凄いことを考えるよね」


「そんなこと言っている場合じゃないでしょう!? 遺書なんですよね!?」


「遺書だけど、君が期待しているようなものじゃないよ。まだ、ローガンに一泡吹かせるには材料が足りないままだ。恐らく、ボクが生まれる……、というか、妊娠がわかる前に書かれたものだろうしね」


「……それでも、重要なことでしょう。なんて書いてあったんです?」


 皓然がどこか寂しそうに尋ねたが、パウラは首を横に振るだけだった。


「悪いんだけど、これは恐らくツヴィングリの人間にしか解けない。アリスには、情報収集と思って聞いてみたけど……。ごめんな、皓然」


「……いえ。何かあったら、いつでも力になりますから」


 その言葉をかけられたパウラは、しばらく皓然をジッと見つめていた。


 本当は、見つけた時に積極的になぞ解きをする気が起こらなかった。


 だが、その日の晩に母から、ヘレナたちのことを聞かせてもらった。恐らく、母も色々と考えて教えてくれたのだろう。


 それを聞いたら、パウラも動かずにはいられなかった。


「——リジー、舞。少しだけ、席を外してもらえないか」


 静かなパウラのこの言葉に、頷かない人などいないだろう。


 四人だけになると、パウラは飴玉を口に放り込んでから目をつむった。細い指は胸の前で組まれる。


「『沈黙の空間』」


 その瞬間、アリスたちを一瞬だけ、黒い幕が覆った。


「これで大丈夫。盗み聞き、盗み見防止の魔術をかけたから」


 目を開けたパウラはそう言いながら、鞄からクリアファイルに入った一枚の紙を取り出した。


 お世辞にも綺麗と言えない走り書きの文字が書かれたメモ。その裏には、短い楽譜。


「これが、例の遺書。皓然のおかげで思い出したよ。ボク一人で考えて無理な時は、知恵を出し合うべきだった」


「そうでしょう?」


 どこか誇らしげに胸を張った皓然は、改めてメモの文字を見つめた。


「これ、本当にエルンスト先生の直筆ですか?」


「それは間違いないよ。うちにある楽譜と同じだった」


 皓然に答えてから、パウラは「うちの家は、代々音楽家なんだよ」とアリスに教えてくれた。


「まあ、宮廷音楽家ってやつ。音を操る家系特性は強力で、それゆえに数が多くないからね。パパは確かに上級魔術師だったけど、音楽家としても天才だった。死ぬまでの間に、何百もの曲を世に送り出してる。デビュタントの時、アリスがディスマス王子と踊った曲だって、パパが作った曲なんだ」


「そうなの?」


「ああ。ディスマス王子のお気に入りらしい。それにしても、よくわかったね」


「何が?」


「あの曲。あれは両片想いしている男女の曲なんだよ。恋の曲。君、途中でそのことに気付いただろ?」


「ああ……」


 そう言えば、自分なりに色々と想像しながら踊ったような……。何せあの時は緊張していたから、あまりよく覚えていないのだ。


 パウラに手招きされたアリスが近づくと、「実は」と楽しそうに耳打ちされた。


「あれ、皓然の両親のことを見てて作った曲らしいよ。うちの家族以外、誰も知らないことだけどね」


 そう言ったパウラの視線は、アダンと一緒にメモとにらめっこしている皓然に向けられた。


 皓然の両親は、かなりの大恋愛だったらしい。そのことは息子である皓然本人から聞いている。天才音楽家だったなら、確かにそれすらも曲に落とし込めそうだ。


「パウラのお父さん、本当に凄い人だったんだね」


「そりゃあ、日記感覚で曲創るような人だったらしいからね」


 肩をすくめてそう言ったパウラと一緒に、アリスも再びメモに目を落とした。


 メモには、確かにエルンスト・ツヴィングリの子供たちに渡して欲しい、と書いてある。だが、その娘であるパウラが分からないのであれば、確かにこれはルーカス、できればだが、ローガンに聞いた方が良さそうだ。

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