94.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
パウラが隠されたエルンストの遺書を見つけた時。アリスは別世界で引っ越し作業にいそしんでいた……。
「あ……」
「久しぶり」
段ボールを玄関まで運んでいたアリスは、廊下でフェリクスと鉢合わせた。
フェリクスは、銀髪をバッサリと切ってさっぱりしていた。相変わらず美しい琥珀色の瞳は、アリスを見て優しく細められた。薄い唇からは犬歯がのぞく。
その姿を見ただけで、アリスの心臓は急に働きだすのだ。フェリクスに心臓の音が聞こえてしまうのではないかと、思えるほどに。
「ひ、久しぶり……!」アリスも笑顔を見せた。「お買い物に行ってたんだっけ。暑い中、お疲れ様」
「ありがとう。重いだろ、持つよ」
そう言うが早いか、フェリクスはひょいとアリスの段ボールを持つと、「玄関口?」と首をかしげて見せた。玄関口には、すでに山のように段ボールが積み重ねられているから。
それに頷いたアリスは、髪を撫でつけながらフェリクスの後を追った。できれば、もっと綺麗な格好をしている時に会いたかった。こんな、埃まみれの服で、ボサボサの頭をしていない時に。
その後も、フェリクスはいくつもアリスの部屋から段ボールを持ち運んでくれて、アリスの部屋からは段ボールがすぐに無くなってしまった。
「ありがとう、フェリクス。結局、ほとんど持って行ってくれて」
「どういたしまして。魔力が薄いこの場所じゃ、満足に魔術も使えないだろ」
アリスはそれに頷いたが、嘘だった。
段ボールを浮かせれば良い、と気付いたのはフェリクスが手伝ってくれてから。それに、アリスは別世界でも問題なく魔術が使える。
それなのに魔術を使わなかったのは、単純に彼と一緒にいたかったからだ。
「そう言えば、アゴーナス見たよ」
「ほ、本当?」
「ああ。中継が切れるまでだけど。どのチームに入りたいか考えながら、見ていなさいってダリア先生に言われてさ。……君のチームは、とても仲が良いみたいだね」
「それはもう!」
アリスはフェリクスに笑顔を見せ、「あのね」と話し始めた。
「リーダーのパウラは、どこか抜けているように見えるんだけど、すごく頼りになるんだよ。どんな時でも冷静だし、物知りだよ。皓然はリーダー補佐で、私のガイド役とお父さんの付き人もしてて、しかもすごく強いの。あと、教え方が丁寧で分かりやすい。料理もおいしいし。お兄ちゃんは、あんな感じだけど良い魔術師なんだろうなっていうのは分かる。分かってはいたけど、やっぱり銃器の扱いが上手だし、魔術もすごく強いやつがかけられるんだよ。あと、アダンは変な子だけど面白いの。弓が上手で、魔術系に関する授業はすごく成績が良くてね、精霊たちとも仲良しなんだよ!」
一気にチームメイトたちのことを話したアリスに、フェリクスはしばらく驚きの目を向けていたが、やがてクスクス笑いだした。
「アリスは、仲間たちが大好きなんだ」
「うん!」
「道理で、ローズが君たちと居たがるわけだよ」
ということは……。
アリスがパッと顔を輝かせたのを見て、フェリクスは困ったような顔になった。
「期待させちゃって悪いけど、まだ決まったわけじゃないんだ。あくまでも、これは俺たちの希望であって、そのチームに配属させるかどうかは国が判断するらしいから」
「そ、そっか……」
「うん。でも、喜んでくれてありがとな」
フェリクスに笑いかけられ、アリスは慌ててはにかんだ笑顔を返した。心臓が動き回っているせいなのか、体中が熱くて、汗をかいてしまいそうだ。家の中は冷房が効いているというのに。
その日の夕飯時、ルイスはいなかった。
「急遽、仕事が入ったんですって」
アリスたちにそう説明して、アンは肩をすくめた。
「そっか……。久しぶりに、家族みんな揃ったのにね」
アリスは肩を落とした。
家族みんなで魔術界に住めるようになって嬉しいし、心強くもあるのだが、その代わりに家族全員が揃う機会が少なくなってきているような気がするのだ。
特に、ルイスとラファエルの二人が、ほとんどいない。ルイスは王宮のどこかにはいるが、ラファエルは依頼で外出していることがほとんどだ。
「あなた方もそのうち、忙しくなりますよ」
フォークでフライドポテトを取り、ダリアは肩をすくめた。
「『あまりもの組』なんて呼ばれていますが、あなた方が上級魔術師たちの子供であることに、変わりありません。いつか、私たち以上の魔術師になるかもしれませんね。今の内に、家族で過ごしておいても良いかもしれません」
「後悔先に立たず、なんて言葉もありますものね」
アンはラファエルにそっと視線を向けた。
アリスのデビュタントの後から、ルイスと気まずい空気を醸し出しているのは、分かっている。それに、アリスからも「喧嘩してたみたい」と話を聞いている。
喧嘩の内容は、聞かなくても分かる。ラファエルが錬金術師になった理由を知り、ルイスはその気持ちを否定するようなことを言ったのだろう。
「ラファエル。研究は順調なの?」
「まあ、ぼちぼち」
もそもそポテトを食べながら、ラファエルは顔をあげずにアンに答えた。
「でも、三年くらい前から進展はないよ。まあ、この二千年もの間、どんなに優秀な錬金術師でもたどり着けなかったんだから。俺なら、少しは賢者の石たどり着けるかも、なんて思っていたんだけど……。やっぱり、俺じゃダメなのかもしれない」
「ラファお兄ちゃんにダメなことなんてないよ」
アリスはそう言って励ましたのだが、ラファエルは静かに首を左右に振った。
「サビーナがお前を狙っていたように、賢者の石に必要なのはただの王族の血じゃないんだと思う。金髪も青い瞳も、特性もない俺じゃ、ユリアの子孫って認めてもらえないのかもしれないな」
「そんなことないよ」口の周りにケチャップを付けたレオが兄を見つめた。「兄ちゃんは、父さんの息子じゃん。特徴がなくても、ちゃんとユリアの血は流れてるよ」
「血筋はな。でも、それだけだ」
シンとしたリビングで、ラファエルは一気に皿の上を片付けると、「ごちそーさん」とだけ残して出て行ってしまった。
「——よほど、堪えているようですね」
「ええ。本当、親子そろって変なところが似てしまいました」
アンはため息をつき、ダリアに答えた。
「最近は、思ったような成果が挙げられていないみたいです。卒業も近くなって来て、他のことも考えないといけないし……」
「そればっかりは、あの子が自分で解決しなければなりませんからね」
ローズのテーブルマナーを直しながら、ダリアは呟いた。
「錬金術師として賢者の石について研究するか、上級魔術師として国に仕えるか。あの子にとっては、大きな選択でしょう。というか、ルイスのせいでその選択を迫られてしまったのでしょうね」
「ええ、私もそう思います。一度、話し合ってみたらいいと思うのですが……」
ルイスとラファエルのことだから、誰が何と言おうと、腹を割って話そうとはしないだろう。
そのことは分かっているから、アンは困り切っているのだ。
「お母さん……」
「ああ、ごめんね。みんなの前で話すことじゃなかったわね」
アンはアリスにいつもの優しい笑顔を向けた。
「そう言えば、アリーに今年のお誕生日プレゼントを渡せてなかったわ。何か欲しいものはある?」
「そのことなんだけどさ——」
お読みいただきありがとうございました!




