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89.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 無事に代表者ダンスとdビューダンスを踊り切ったアリス。しかし、ホッとしたのも束の間。何と、アリスの元に「フレース」を名乗る女性が現れて……。

 よく考えたら、パウラもダンスを教えてくれていた。それに、彼女の言う通りだ。絶対に男女ペアで踊る、なんて決まりはないはずだ。


 アリスとパウラが手を取り合って踊りに行ってすぐ、ルイスがやってきた。姫が出席しないアエラスの代表者として出席しているルイスは、各人に挨拶をしてきた帰りだった。


「マルセル・ド・フレースが見えたから」


 もっと言うと、アリスがパウラに涙を拭ってもらっているのも。


 ルイスが思っていることなどお見通しの皓然は、「先生のご想像の通りです」とだけ答えた。ルイスもまた、何が起こっていたのかは理解しているから。


「パウラは、良くも悪くも自分の立場をよく理解しているからね」


 ルイスにそう言いながら、レオは近くのテーブルからぶどうジュースが入ったグラスを取った。


「今だけは、アリスの単純さに助けられたよ。ほら、もう笑ってる」


 レオが指さす先で、アリスは楽しそうにパウラと踊っている。さっきまで、マルセルに対して激怒していたのに。


 それを見て、ルイスは肩をすくめた。


「切り替えの早さは、一級品だな。皓然、面倒をかけたな」


「すみません、何の件でしょう?」


「アリスのパートナーだよ。足、何度も踏まれただろ」


「ああ、全然ですよ。アリスが楽しめたようで、何よりです」


「そう言ってくれると、助かるよ。ありがとう」


 ルイスはやっと表情を緩めた。何だかんだで、アリスのことは気になっていたらしい。


「じゃあ、俺はまだ仕事があるから。お前らも楽しめよ」


 レオたちにそう言い残し、ルイスは去って行った。早速、ガイアの貴族に捕まっている。


 その様子を見て、今度はレオが肩をすくめた。別世界にいた時よりだいぶ顔色は良いが、ルイスは相変わらず仕事で忙しいらしい。


 そこに、シオンとニコの二人がやってきた。ニコは相変わらず、あちこちにカメラを向けていたが、シオンはレオと皓然の周りをキョロキョロしていた。まるで、誰かを探しているかのように。


「どうかしました?」


「あ、いや……。その、随分と人数が少ない気がしてだね……」


「ディルなら、オリヴィア姫の所ですよ」


「皓然ってば、違うってー」


 カメラから顔を離し、ニコはニヤニヤ笑いながらシオンを見つめた。


「シオンが探してんのは、アリスだよ」


「ちがっ!」


「綺麗なお嬢様と踊りたくて、うずうずしてんの」


「もういいから黙りたまえ!」


 真っ赤な顔のシオンを見て、レオは顔をしかめた。


「アイツと踊ったら、腫れるくらい足を踏まれるぞ」


「一度もアリスと踊ったこと、ないクセに」


 皓然はため息をついた。だが、腫れるまではいかなくとも、何度も足を踏まれるのは事実だ。だから、そこには触れないで置いた。


「アリスなら、あそこですよ。今はパウラと踊ってます」


 皓然がアリスを示すと、シオンの顔がまた赤く染まった。


 言われずとも、シオンの気持ちは分かる。だが、皓然はニコのようにニヤニヤ笑うのを何とか耐えた。ここで皓然まで笑ってしまうと、さすがにシオンが可哀そうだ。


 レオはというと、シオンの気持ちに気付いて、思わず苦虫を嚙み潰したような顔をしてしまった。アリスの何が良いのか、点で分からない。それに、なんだかモヤモヤするような気がする……。うまく言葉にできないのが、またレオの心をかき乱した。


「にしても、皓然。随分と楽しそうに踊ってたね」


 ニコは皓然の姿をカメラに収めると、カメラから顔をのぞかせて無邪気な笑みを見せた。


「君が楽しそうに踊ってるの、初めて見たよ」


「そうですか? まあ、これまでの相手はパウラか牡丹姉さんでしたからね」


 パウラは確かに仲の良い友人だが、ダンスになるとお互いに事務的になってしまうし、姉の牡丹はというと、ずっと「テンポが速い」、「リズムがズレてる」だとか、色々と文句を言ってくるから、楽しむようなものではなかった。小さな声で「はい、はい」と返事をしながら踊っているのは、何百人もいる中で皓然ただ一人だけだっただろう。


「パウラはともかく、牡丹姉さんと踊りたいって人の気が知れませんよ。ネチネチ文句しか言ってこないのに」


「さすがに、それは君にだけでしょ」


 ニコが楽しそうに笑ったところで、アリスとパウラが戻ってきた。


 パウラはニコがいるのを見て顔をしかめたが、アリスは笑顔で二人に挨拶した。シオンの顔が赤いことには、気付かないで。


「今日はもう、十分すぎるくらい踊ったよ! さすがに、今日はもういいかな」


 水を飲むアリスの言葉に、シオンはガックリと肩を落とした。


 その様子を見たパウラは、「最後にもう一曲くらい、踊ったらどうだ? せっかくだし」とアリスに言ってみたのだが、当の本人は「もう十分楽しんだよ!」と屈託のない笑顔を浮かべた。


「それより、お腹すいちゃった」


「それなら、あっちにビュッフェあるぞ」


 レオはビュッフェを指さし、「せっかくだから、シオンも行って来たら?」と言おうとした。だが、これまたアリスの笑顔に計画は潰されてしまった。


「ありがとう! 桃子たちを誘って行ってくるね!」


 そう言うが早いか、アリスは「行ってきまーす!」と元気に走って行ってしまった。


「……アリスは手強いぞ」


「まあ、頑張ってください」


 パウラと皓然は、悔しそうにアリスを見送るシオンの肩を、軽くたたいた。


「まあ、ほぼ初めましてなんだから、あの反応が普通なんじゃないかな」


 シオンの写真を撮ってから、ニコはアリスの姿を眼で追った。


「あの子は特に有名だし、レオから色々と話を聞いてたから、ずっと昔から一緒にいるような気になっちゃうけど。俺もシオンも、今回のアゴーナスで初めて会ったわけじゃん」


「ってことは、シオンはよほどちょろいってことに……」


 余計なことを言おうとしたレオの口は、皓然が急いで塞いだ。確かに、同じことを一瞬だけ考えてしまったけれど。


 そんな空気を切り替えるように、ニコはパウラに笑顔を向けた。


「パウラ、俺とも踊ってよ」


「遠慮する」


 パウラはニコを見つめて肩をすくめてから、声を潜めた。


「対魔術師の血を引くボクなんかと踊ったら、君への風当たりが強くなるぞ。フォティアは特に、その風潮が強いだろう」


「そのことなら心配ないよ。だって俺、レオと仲良しだもん。俺への風当たりなら、大分前から強いから!」


 レオと肩を組み、ニコはパウラになおも笑顔を向けていた。


「俺は単純に、パウラ・ツヴィングリっていう女の子と踊りたいだけ」


 その言葉にパウラは唇を「へ」の字にして眉をひそめたが、やがて根負けしたのか、大きなため息をついた。


「一曲だけだぞ」


「やったねー!」


 パウラと一緒に歩いて行くニコを恨めしそうに見つめるシオンに、皓然は肩をすくめた。


「シオンも、あれくらい積極的に行けばいいじゃないですか」


「嫌われたくない」


 シオンの過去を知っているから、それ以上は何も言えず。結局、皓然はもう一度肩をすくめた。

お読みいただきありがとうございました!

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