87.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
ついに迎えた社交ダンスパーティー。アリスは皓然と練習を重ねていたが、やはり不安は不安で……。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう! アリーがディスマス王子と踊るだなんて!」
「アンタが緊張してても、意味ないでしょ」
「だいぶ前に決まったことだしな」
ついに、パーティー当日がやってきた。
今日はタキシード姿で髪もきちんとまとめているラファエルは、さっきからずっと、部屋の中をウロウロと歩き回っていた。これには、深いスリットの入った白いタイトドレス姿の牡丹も、ラファエルと同じくタキシードに身を包むローガンも、ため息をついた。
ディスマス王子が「アリスは命の恩人だから」と発表したのは、ラファエルも知っている。だが、それでも、他国の王子と妹が躍る事が、気に入らなかった。
もしそれで、互いに惚れ込みでもしてしまったら。そしたら、アリスはきっと……。
「いやだああ!」
「牡丹、アイツうるさい。何とかしてくれよ」
「私に言わないでよ。それに、あれは一生治らないから。シスコン、ブラコン、厨二病には、付ける薬なんて無いのよ」
虫でも払うように手を払った牡丹だったが、振り向いたラファエルによって、次の被害者にされてしまった。それも、急に。
「アリーのデビュタントパートナーのこともだぞ!」
「それは私じゃなくて、あの子に言ってよ」牡丹は肩をすくめた。「そんなに小然が嫌なら、自分から立候補すればよかったじゃない。何でしなかったのよ」
「それはだって、あんましつこく言うと『子供扱いしないで』って、言うから……」
どんどん声を小さくしていくラファエルに、ローガンは思わず頭を抱えてしまった。
「めんどくせー……」
「お前には言われたくないね!」
「もう言われとけよ。皓然はうちの愚妹とも踊ってたし、そもそもルイス先生の付き人だろ。アイツらに恋愛感情は関係ねえと思うけど? 去年だって、オリヴィア姫はディルと踊ってた。そんな古臭い風習を気にしてるのなんて、ほんの一握りだけだろ」
その言葉にわずかな希望を見出し、ラファエルはやっと背筋を伸ばした。
最終チェックで姿見の前に立つと、どうもルイスに似た青年が写っていた。髪が金色だったなら、みんな見間違ってしまうほどに。
チェックを終えて姿見から離れたラファエルは、ローガンに捕まった。
「ネクタイが曲がってる。何をチェックしたんだよ」
「おお、ありがとう」
「……お前って、本当に昔から変わらないよな」
ラファエルのネクタイを正してから、ローガンは部屋のドアを開けた。
***
アリスは、ガチガチに緊張していた。
朝からアンとメイドたちがやってきて、アリスは隅々まで磨かれた。お風呂には二回も入れられて、バラ水までかけられた。
このメイドたちはアエラス王宮に仕えているメイドたちで、お願いすればパーティーの準備を手伝ってくれるらしい。他のチームの準備もあるということで、このチームには二人しか来なかった。
メイドたちに「大変ですね」なんて言っていたら、笑顔でやってきたアンにコルセットをしめるからと、食事まで制限された。元から小食のパウラは何とも思っていないらしいが、アリスは泣く泣く食事の量を減らしてもらった。
その代わり、目を見張るほどの出来栄えだった。
基本、ドレスは国のイメージカラー。なので、アリスもパウラも、白いドレスに身を包んでいる。
アリスは白のフィッシュテールドレス。スカート部分には金色の糸であしらわれた細かな刺繍。裾はクリーム色のレースが縫い付けられている。裾と同じクリーム色のレースを腰にリボンにして巻く。靴は白の総レースのヒール。アリスの要望で、一番低い五センチ。
髪はサイドの髪を編み込んでハーフアップに。白いレースのリボンを結び付け、軽く巻いてもらった。
パウラは、白のイブニングドレス。肩を出して、ウエストは絞められている。アリスとは違い、装飾の類は全くない。代わり、白い長手袋をして、今日は髪を降ろしていた。飾りは、白い羽と細いリボンで作られた髪飾りだけだ。それに、眼鏡をしていなかった。
リビングでみんなと落ち合ったアリスは、パウラの姿を見て興奮していた。
「すっごく綺麗だね、パウラ! 大人っぽい!」
「ありがとう。アリスも、可愛いじゃないか」
パウラはアリスの肩を抱いて、待っていた男子たちの前に押し出した。
男子は三人ともタキシード姿だった。レオと皓然は髪を上げ、アダンは長い髪をまとめている。それに、レオは黒いネクタイ、皓然は白の蝶ネクタイ、アダンは黒の蝶ネクタイをしていた。レオとアダンはジャケットの前を開いていたが、皓然はピッチリ前をしめていた。
「ほら。みんなも、君に釘付けだ」
「別にそういうんじゃ……」
レオはそう言ったが、残り二人はぽけっとアリスを見つめていた。
「……うっそだぁ」
「嘘じゃないだろ」
パウラはレオにニヤリと笑いかけた。
「君の妹ちゃんは、イケメン俳優って一世を風靡したカイル先生の娘さんだぞ?」
「それはそうだけどさ。おい、皓然。しっかりしろよ。目の前にいるのは、ただのアリスだ」
レオの言い方にアリスはイラッとしたものの、アリスは目の前の皓然とアダンを見つめた。二人とも、まだ呆けているようだ。
「えっと、似合う?」
「似合う似合う!」アダンは頬を紅潮させた。「すごいや、アリス! 元から可愛かったけど、もっと可愛くなったよ! すれ違う人、みんなビックリしちゃうよ! ね、皓然!」
「あ、はい」
アダンに肩を叩かれてハッとした皓然は、アリスにいつもの笑顔を見せた。
「すごく似合ってますよ。ぼくが相手で本当にいいのかなって、思ってしまうくらいに」
「ありがとう。でも、今更パートナー辞退なんて、認めないからね?」
「まさか。仕事はちゃんと最後までしますよ」
笑って差し出された手を取り、アリスは皓然に笑いかけた。
レオはパウラの手を取り、アダンは約束している子がいるからと、部屋を出て行った。
「みんな、楽しんできてね」
部屋の外でアンとメイドたちに見送られ、アリスたちは長い廊下を歩き始めた。
パーティー会場は、四カ国の共同管理地にある、古城で行われる。ユリアとその仲間たちが、この城で先勝祝いをしたとの伝承がある。それ以来、四カ国共同のパーティーはこの城で行われるのが習わしとなっている。
城へ行くための門には、長蛇の列ができていた。それぞれが、自分のパートナーと手を取り合って並んでいた。このパーティーは生徒たちだけでなく、一部の上級も参加するので、大人数が移動することになる。それで混んでいるのだ。
並んでいた人たちは、アリスたちが登場した瞬間、一瞬だけ静かになった。
アリスが来たからだ。もちろん、彼女が綺麗だから言葉を失ったのもある。
ただ、一部の人たちは、ヘレナを思い出していた。目の前に現れた金髪の少女は、若い時のヘレナとそっくりだった。
どこか緊張した空気を戻したのは、セレナたちだった。
アリスたちとタッチの差で列に並んだセレナが「アリス、すごく綺麗ね!」と声をかけた。一緒にいたヒューも「なんと美しい!」と感嘆している。
「君の美しさと言ったら、まるで我がアエラスの——」
「ありがとう。セレナも綺麗だね!」
白いサテンのミモレドレスに身を包むセレナは、髪に白いリボンを編み込んで、白い花を挿していた。ドレスの裾からは金色のレースがのぞき、フロントに大きなリボンが結びつけられていた。
セレナはアリスの言葉に頬を赤らめ、「あ、ありがとう……」と恥ずかしそうに笑った。
「全部、クレア先輩にしていただいたの」
「腕によりを掛けさせていただきました」
白いタイトドレスに白いショール姿のクレアは、誇らしげに顔を輝かせた。
「さすがだな、クレア」
パウラが声をかけると、クレアは「そうでしょ?」と顔をパッと輝かせた。
「ほんっとうに可愛いのよ、うちの子! 髪型もね、ドレスに合うように二人で何時間も考えてね、ドレスだってすごく悩んだのよ!」
「うちのアリスだって、可愛いだろ?」
「可愛いわよ! ねえ、あとで二人とも写真撮ってもよろしくって!?」
食い気味のクレアに驚きながらうなずくと、ヒューがどこか疲れ切った様子でため息をついた。
「悪いな。うちのクレアは、可愛いものが何よりも好きなんだ」
「知ってる」
レオはヒューに肩をすくめて見せた。
それから列は進み、十五分ほど待って、やっと門をくぐることができた。
門の向こう側は、石造りの古めかしい城だった。城というよりも、砦に近いかもしれない。ただ、掃除は隅々まで行き届いていて、綺麗な状態を保っていた。
「アリス・ランフォード初級魔術師様でございますね」
アリスが門番にうなずくと、小さな箱を取り出した。門番が箱を開けると、そこには真珠で出来た美しいブレスレットが入っていた。
「ネロ王国、ディスマス王子閣下と踊られるのであれば、こちらをお取りください」
アリスは驚いてブレスレットと門番の顔を交互に見てから、震える手でブレスレットを手に取った。
アンに、事前に言われていた通りだった。
ダンスの承諾となる何かを、門番から渡される。それを身に付けたら、広間の分かりやすい所に立つ。そうすれば……。
ブレスレットを身に付けながら、アリスは改めて緊張してきた。
これから、アリスは……。
皓然にとってもらっている手に力が入ったのか、皓然はアリスに「大丈夫」と優しい声をかけてくれた。
「ディスマス王子なら、きっと上手に君をリードしてくれますよ」
「そ、そうだよね」
あんなに頑張って練習したのだ。それに、皓然の足を踏む回数もだいぶ減った。ゼロ回には、出来なかったけれど……。だが、大分形にはなっただろう。
会場となる大広間の扉は他よりもずっと大きかった。
音を立てて唾を飲み込んだアリスの目の前で、扉は恭しく開いた。
「ご案内いたします。アエラス王国から九名様。パウラ・ツヴィングリ中級魔術師、レオ・ランフォード初級魔術師、アリス・ランフォード初級魔術師、黄皓然中級魔術師、ヒュー・ベーコン中級魔術師、クレア・モロー中級魔術師、セレナ・リラ・コルデーロ初級魔術師、ユーゴ・プィチ初級魔術師、李俊宇初級魔術師。以上、九名様がいらっしゃいました」
名前を呼ばれると一歩前に出て、お辞儀してから長い階段を下りていく。その階段の周りには、既にたくさんの魔術師たちが集まっていた。衛兵やメイドも、とにかくたくさん。
皓然にエスコートされながら現れたアリスが、真珠のブレスレットをしているのを見て、周りはざわめき立った。これで、アリスはディスマス王子のダンスの誘いを受けたことになるのだから。
階段を降りると、みんなアリスたちの周りから一定の距離を置いた。コソコソ話をするのに、本人に聞こえる場所で話していてはエキシビションの時のようにアリスからお説教を食らってしまうだろう。
そんなことは気にせず、桃子たちがやってきた。それに、シオンとニコ、ツェツィーリアの三人も。
「桃子も可愛いね」
「ありがとう! えへへ、ニャットくんに手伝ってもらったんだよ」
桃子のドレスは、オフショルダーのミモレドレス。ショルダー部分のレースには、いくつもの花の刺繍が入っていた。桃子は髪を一つにまとめ、小さな白いリボンのピンを刺していた。
桃子たちと話をしてから、アリスはシオンとニコの二人にも笑顔で挨拶をした。それなのに、シオンは呆けたまま固まってしまい、ニコは興奮した様子で「写真撮っていい!?」と首からかけていた一眼レフに手をかけた。
「い、いいけど……。あ、じゃあ待って! みんなで一緒に撮ってもらおうよ!」
そんな訳で、女子たちだけ集まって、写真を撮ってもらった。男子たちはみんな「全員が似たような恰好で、華がない」と断られてしまったから。確かに、みんなの違いと言えば、リボンかネクタイか、そしてその色が白か青か赤か、という違いしかなかった。
それに比べ、女性陣はみんな違う格好だ。アリスたちが真っ白なドレスなので、ツェツィーリアの暗い赤色のバックレスドレスはとても目立った。
「パウラ、どうしてこのドレスなの?」
いつの間にかパウラを後ろから抱きしめるツェツィーリアは、パウラのドレスの裾を持ち上げた。
「これじゃあ、お腹が閉まって十分な声が出ないじゃん」
「当たり前だろ。歌わないんだから」
「なんで!? 今日こそ私と……」
「しねぇよ! いい加減にしろよ、君! ボクの今日の主目的はな、可愛い後輩たちの晴れ姿をこの目に焼き付けることなんだよ! 歌うことでも、踊る事でもないの!」
「じゃあ、どうしてレオと一緒にいるの?」
パウラに無理やり引っぺがされ、ツェツィーリアは不機嫌そうに頬を膨らませた。
その質問に、パウラとレオは互いに見つめ合ってから、指をさしあった。
「まあ、コイツでいいかなって」
見事に言葉がシンクロし、二人は「いえーい」なんて気の抜けたハイタッチをかわした。
エスコートしてくれる人、する人がいた方が、格好がつく。だから、二人は互いにフリーだった、という接点だけで今日の約束をしていた。
「そういえば、俊宇の相手は?」
ハッとしてアリスが首をかしげると、俊宇は何てことないように「……コイツ」と近くから女の子を引っ張ってきた。
緑色のバルーンドレスの千夜族。頭の上で作られている二つのお団子にアジアンノックのかんざしが刺さっていた。
「……幼馴染の朱笙鈴。……ガイアの一年」
「へえ。はじめまして!」
「はじめましてヨ」
笙鈴はアリスにニッと笑って見せた。
「我、あなたに会えて嬉しいネ! 前から話してみたかったアル!」
「そ、そう?」
なんだか、彼女まで独特な話し方をする……。
そんなことを思っていると、桃子が「笙鈴ちゃん、久しぶりー」と声をかけた。皓然もそれに気づき、「おや」なんて声をあげた。
「わあ! みんな、お揃いネ! ガイアは千夜族が少ないから、なんだか嬉しいアル!」
「相変わらず、笙鈴は翻訳術には頼らないんですね」
皓然がそういうと、笙鈴は「まあネ!」と胸を張った。
「言語学者の娘として、翻訳術に頼っているわけにはいかないアル!」
「さすがですね」
笑った皓然をつつき、アリスは「どういうこと?」と耳打ちした。
「なに、翻訳術って」
「文字通り、言葉を翻訳してくれる術です。ぼくら、みんな話してる言語が違いますけど、それで意思疎通がとれているのは、翻訳術のおかげなんです。笙鈴は、その翻訳術を使っていません。あれは彼女が自分の力でアエラス語を話しているので、ちょっと癖のある喋り方になっているんです」
「そう、なの?」
「はい。ぼくは小人の言葉だし、ニコはフォティア語だし、シオンはネロ語、パウラとレオはアエラス語です。アリスは?」
「私はフランス語……。でも、教科書とか読めるし……」
「だから、それは翻訳術のおかげです。ルイス先生かアン先生が、君にかけていたんだと思いますよ」
まさか、こんな土壇場でも新しいことを知る事になるとは……。
別世界にいた時、アリスはあまり外国語の授業が得意ではなかった。文章は何を書いているか全くだったし、リスニングもさっぱり。ということは、アリスに翻訳術がかけられたのは、魔術界に戻るとなった時で……。
お読みいただきありがとうございました!




