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86.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 アゴーナス、期末試験の次は、ネロ王国の王子であるディスマスとの代表ダンス。アリスはそれに向けて、家族だけでなく、チームも巻き込んで準備を重ねているのだが……。

 パーティーが開かれるのは、一週間後。


 アリスはアンに手を引かれ、ガブリエルとルイスも巻き込んでドレス決めに奔走することになった。それと並行して、ダンス練習。


 夏休みのはずなのに、全く休まらない。


 暇さえあれば、パウラと皓然にダンスの相手役を頼んで練習をしているのだが、なかなか上手くいかない。


 元々、アリスはダンスが得意だ。とはいっても、得意なのは社交ダンスではなく、ヒップホップ等のダンス。社交ダンスは、学校の授業でバレエと一緒に習ったことがある程度。うろ覚えのステップと専門用語に、アリスは混乱してばかりだった。


 今だって、アリスは練習に付き合ってくれている皓然の足を踏まないよう、細心の注意を払ってばかりだ。


「——あ、ごめん!」


 注意していたのに、踏んでしまった。


 あと一週間で、ダンスを形にしなければならない。


 それもまた、アリスにプレッシャーをかけていた。今日だって、桃子たちに遊びに誘われていたのに、それを断って練習している。今朝、出かけてる前のアダンに何度も「本当に、今日は来ないの?」と念押しされたくらいだ。


 パウラとレオは、課題のレポートを書くために図書館へ。だから、付きっきりで練習に付き合ってくれる皓然に、申し訳なく思えて仕方なかった。


「大丈夫、ちょっとずつ上手くなって来てますよ」


「でも、本番で王子様の足を踏むわけにはいかないじゃん……」


「それは、まあ……。踏まないに越したことは、無いですね」


 あの王子のことだ。本番で足を踏んでも怒らないとは思うのだが、やはり緊張する。


 そんなアリスの様子を見て、皓然は「息抜きしませんか?」と笑顔を見せた。


「ずっと部屋でダンス練習していても、息が詰まるでしょう? 中庭とか、外に出ませんか?」


「……じゃあ、あそこがいい」


 アリスはちらりと皓然を見上げて、ボソボソと呟いた。


「前、連れてってくれた境界……」


「いいですね。じゃあ、お茶の準備もしますね」


 そう言って、皓然は手際よくバスケットに飲み物とお菓子をつめて、部屋のドアを開けた。


 夏休みということもあり、中庭はいつもよりガランとしていた。みんな、普段は出れない王宮の外へ遊びに繰り出しているからだ。


 二人は前にも訪れた、木の陰を通じて境界へと足を踏み入れた。


 何度来ても綺麗なこの場所で、アリスを思い切り体を伸ばした。大きく深呼吸すると、とても気持ち良い。


「アリスも、この場所が気に入りました?」


 レジャーシートを敷く皓然に、アリスは笑顔で頷いた。


「綺麗だし、空気も美味しいし! ありがとう、皓然。秘密の場所なのに、教えてくれて」


「どういたしまして。ここなら人は来ないし、好きなだけ息抜きしてくださいね」


 それに頷いてから、アリスはまじまじとこのチームメイトを見つめた。


 そう言えば、皓然も謎に満ちた人なのだ。小人に育てられたとか、どう見ても五歳児の姉がいることだとか。


 アリスに見つめられていることに気付いた皓然は、不思議そうに首を傾げた。


「どうかしました?」


「私、皓然のことよく知らないなって思って」


 レジャーシートに腰を下ろし、アリスはジッと皓然を見つめた。


「家系特性とか、お父さんの付き人をしていることは知っているけど」


「そうですか? じゃあ、質問コーナーにでもしますか。ぼくの話なんて、何も面白くないですけど」


「そんなことないよ。……本当に、色々聞いてもいいの?」


「答えられる範囲で、ですけど」


 それにお礼をしてから、アリスはうなった。何から聞いたらいいのか分からない。


「あ、じゃあ、いつから王宮に仕えているの?」


「七歳からです。ぼくは早生まれなので、他のみんなは八歳になる年ですね」


「……みんなより一年遅いね?」


「ぼく、それまで小人の国にいましたから」


 そう言って笑った皓然は、どこか寂しそうだった。


「偶然、クロエと一緒に迷い込んだ境界が、アエラスに繋がっていたんです。もちろん、国は大騒ぎですよ。でも、陛下が『君が望むなら、このまま国にいてもいいんだよ』って言ってくださって。それで、両親にアエラスで暮らすことに決めたって手紙を書いて、そのまま住み着いちゃいました」


「ご両親は、反対とかしなかったの?」


「さあ。返事はまだ来てないので、なんとも。でも、あの二人ならきっと、反対はしないと思います。昔から『自分で決めた事なら、応援する』って言ってくれてましたから……」


 遠い目をする彼に、アリスはもう一歩踏み込んだ質問をしてみることにした。


「聞いていいのか、分からないけど……。皓然はどうして、小人の国に住んでたの?」


「両親が、亡くなったから」


 そんな重い話も、彼は薄く笑って話した。


「実の両親とも、医者だったんです。両親は、小さな村で開業医をしていたらしいんですけど、その村はある日、なくなってしまいました」


「え」


「ヘレナ先生たちが調査に行った村は、ぼくらの生まれ故郷です」


 膝に舞い降りてきたクロエを撫でながら、皓然は話し続けた。だが、アリスとは一切、目が合わなかった。


「最初、村で異変が起こったって前にお話ししましたよね。その時、両親はぼくら姉弟を村の外へ逃がして、行方不明になりました。姉さんたちはぼくを連れて、何週間も冬の森を歩き続けて、凍え死にかけている時に小人の両親に拾われたんです。もちろん、すぐアエラスに連絡して、ぼくらを引き取ってくれる家を探しました。でも、黄本家の圧力が強くて、どの家も引き取ってくれなかった。孤児は王宮が育ててくれるとは言え、姉さんたちが赤ん坊だったぼくの面倒を見れるわけがないし、その姉さんたちも弱ってた。それで、みかねた小人の両親が親になってくれたんです。戦争時代の名残で、他種族に育てられても、国籍を変えなくて良いって法律も残ってますから。前の戦争の時、孤児が結構エルフとかの他種族に育てられてたので、その名残です。だから、小人の両親に引き取ってもらえたんですよ」


「えっと……。そ、壮絶な人生を送って来たんだね……」


「びっくりしたでしょ」


「正直に言うと、うん」


「素直ですねぇ」


 小人に育てられた、という時点で、彼の両親が無事ではないことは分かっていた。ただ、まさかここでヘレナたちに繋がるとは、思っていなかった。


 それに、皓然がこんなにも大変な人生を送っていたことにも。正直、今までは世話焼きのお兄さん、というイメージが強かった。


「ぼくも、アリスに聞いてもいいですか?」


 思ってもみなかった質問に驚きはしたものの、アリスは「いいよ」と頷いた。


「アリス、ダンス得意ですよね?」


「え、へたっぴだよ。今日だって、皓然の足、何回も踏んでるじゃん」


「そうじゃなくて。社交ダンスじゃない、別世界のダンスがあるんじゃないですか? そっちのダンスは、得意なんじゃないかなって」


 その言葉に、アリスは唾を飲み込んだ。


「なんで……」


「リズム感があるし、体幹がしっかりしてる。それに、体が柔らかいし、身軽。ある程度の筋肉もついてる。いつもの君の動きを見ていたら、何かをしていたことは分かりますよ」


 思ったより、観察力があるらしい。


 観念して、アリスは大人しく白状することにした。


「ダンススクールに、通ってたの。暴力沙汰を起こして、一年くらいしか、いられなかったけど……。今思えば、あれも魔力を暴走させちゃってたんだろうな。でもね、すごく楽しかった。だから、ダンススクールをやめた後も、一人でずっと練習してた。アイドルの動画を見て、振り付けを一生懸命覚えて。誰に見せるわけでもなかったんだけどね」


「やっぱり」


「凄いね、皓然。お兄ちゃんたちも、このこと知らないんだよ」


「そりゃあ、最近は毎日君と踊ってますから」


 そう言って笑った皓然に、アリスも笑い返した。


 これで、一つ。悩み事がなくなった。


「皓然。私のデビュタントパートナー、やってくれない?」


「ぼくですか?」


 驚いた顔をする彼に、アリスは大きくうなずいて見せた。


 ドレスを見て回っている間、アンはもう一つのことを心配していた。それが、デビュタントパートナーだ。これは、デビュタントを迎える人——つまり、アリスたちが、相手を選ぶことができる。


「一番、私と踊ってくれてるから」


「一応聞いときますけど、そのデビュタントパートナーも、本来は親しい人と踊るってこと、知ってます?」


「うん。だから、お兄ちゃんにお願いしようと思ってたんだけど……。でも、皓然がいいなって。ダメかな」


「ダメってわけじゃ……。本当に、ぼくでいいんですか? せっかくのデビュタントですよ? 一生に一度ですよ?」


「分かってるよ。じゃあさ、お兄ちゃんにお願いして、私たちがちゃんと踊れると思う?」


「それは……」


 皓然が渋い顔をするのには、訳がある。


 レオはこれまで、自分のデビュタント以外に、パーティーに参加していない。もちろん、ダンスのステップだってうろ覚えだ。そんなレオは、パーティーで絶対に踊らないと決めて参加しようとしている。


 そんなレオとアリスがペアを組んだら……。そこそこ、グダグダなペアになるだろう。


「ラファ先輩も、ダンス苦手らしいですもんね……。ポポフ隊長は陛下の側を離れられないし、ルイス先生にダンスは難しいし……。分かりました、ぼくでいいなら」


「本当!? ありがとう!」


 皓然の手を握ってアリスが笑顔を見せると、やっと皓然はいつもの優しい笑みを浮かべてくれた。


「ぼくが相手役をして喜んでくれたの、君が初めてです」


「そうなの?」


「はい。だって、パウラや姉さんたちが、喜ぶと思います?」


「うーん……」


 正直、そういった姿は思い浮かばない。


 そんなアリスを見て、皓然は楽しそうな笑い声をあげた。


「本当、君は素直ですね」


「だって、本当にパウラたちが喜んでる姿が想像出来なかったんだもん」


「その通りですよ。ぼくも相手がいなかったから、パウラとは、『まあ、君でいいか』みたいなところがありましたからね、お互いに」


「本当、仲良いよね」


「そうですか? まあ、長い付き合いですからね」


 八歳の時からの知り合いということは、先輩たちはもう七年目の付き合いということになる。来年には、丁度人生の半分。


 なんだか、羨ましい。


 アリスには、そんな長い付き合いの人がいない。アリスが魔力を暴走させるたび、転校を繰り返していたから。


 隣にいて当たり前の人。


 いつか、アリスにもそういう存在の人が出来るのだろうか。


 両親のような、レオとローズのような、パウラと皓然のような……。


「皓然って、パウラと付き合ってんの?」


「絶対にありえませんね」


 アリスの質問に即答し、皓然は苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「パウラと付き合ったら、ぼくの精神が持ちません。」


「でも、仲良いよね」


「なら、君だってアダンと仲良しじゃないですか。付き合ってます?」


「絶対にないよ」


「そういうことです。でも、まあ。パウラは相棒みたいな存在ではありますかね」


 なにせ、これまで二人だけでチームを守ってきたのだ。幼馴染でもあり、友人でもあり、背中を預けられる存在でもある。


 皓然は別に、パウラを嫌っているわけではなく、彼女を恋愛対象として見たことが無かっただけ。毎年、パーティーにドレス姿に現れるパウラを見て、「そういえば、パウラは女子だったな」なんて心の中で思っているほどだ。


「それより、レオとローズは絶対だと思いますよ」


「皓然もそう思うよね!」


「あんな分かりやすい態度を取られたら、ねぇ?」


「ねぇ?」


 皓然と、彼の語尾だけ真似したアリスの二人はお互いを見つめ合い、同時に噴き出した。


 理由などない。ただ、楽しいから笑っていた。


「そういえば、アリスはこれまで、どうやってダンスの振り付けを覚えてたんですか?」


「動画をゆっくり再生させて、動きを確認するの。そうしたら、振り付けも分かるし、自分のペースで進められるでしょ?」


「なるほど……。じゃあ、その方法で行きましょう」


 アリスにお茶を差し出し、皓然は笑った。


「いつもその方法だったということは、その練習方法はアリスに合っているってことです。お手本の動画なら、図書館に山ほどありますよ。見てみますか?」


「見る!」


「じゃあ、決まりですね。お茶をしたら行ってみましょうか」


 その言葉に、アリスは笑顔で頷いた。

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