85.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
何とかアゴーナスも終了し、前期期末試験乗り越えたアリス。しかし、ホッとするの束の間。とある人物からの手紙により、今度はダンス練習をしなければならなくなったようで……。
魔術師のほとんどは、貴族だったり、お金持ちだったり。とにかく、身分の高い家出身であることが多い。そのため、周りとの交流を図る場が設けられることもある。
いわゆる、社交界だ。
アドワが言っていたパーティーというのは、この社交界のことだ。特に、アリスたち一年生は社交界デビューをする、デビュタントの年だ。
デビュタントのことは、アリスも知っている。別世界にもあったから。
「つまり、私はデビュタントの年だから練習するってこと? それなら、アダンも練習しないといけないんじゃない?」
「——よし、解説しよう」
アリスまで自分のように引っ繰り返らないよう、パウラはアリスをソファに座らせた。
「デビュタントでは、確かに一年生は踊らないといけない。でも、それはみんな一斉に踊るものだから、別に気にしなくてもいい。多少下手でも、人数が多いから誤魔化せる。でもな、この学期末パーティーは、アゴーナスで優秀な成績を収めた人を称える場でもあるんだ」
「つまり、私が優秀だったってこと?」
アリスはパッと顔を輝かせたが、皓然が笑顔で「違いますよ」とその可能性を断ち切った。
「今年の最優秀者は、ディスマス王子です。ネロの。あの時、四カ国の魔術師たちの指揮を執ってくださったから、その功績をたたえて」
「なぁんだ」
「なんだじゃない」パウラはため息をついた。「いいか、この手紙にはなんて書いてある?」
「『パーティーの日、大広間でお待ちしております』」
「で、この印章はネロ王国のものだ。——なあ、分かったか?」
「……ごめん、イマイチ分からない」
レオはため息をつき、「つまり」とアリスを指さした。
「ディスマス王子に、『一緒に踊りましょう』って誘われてんの、お前は! ディスマス王子と二人で、みんなに見られている中で踊るの! アニメのプリンセスみたいに!」
「うっそでしょ!?」
アリスの体から、一気に力が抜けていくのを感じた。パウラの判断は、正しかったらしい。ソファに座っていなかったら、皓然は氷嚢をもう一つ用意することになっていただろう。
「なんで!? 私!? なんで!?」
「知らんけど、ディスマス王子のお眼鏡に掛かったんだよ! うわぁ、やばいぞ、これ……」
レオは頭を抱えて、その場をウロウロと歩き回り始めた。
「ただでさえ、最優秀者にジャン王子が選ばれなくて、フォティアのヤツらブチギレなのにさぁ……! こっちが聞きてぇよ! なんで!?」
「二人とも、落ち着きなよ」
なぜか今日は大人しいアダンは、満足そうに笑った。
「そんなの、お断りしちゃえばいいんだよ! これで解決! アリスの相手はぼくで決まり!」
「無理だな。王子クラスとなると、断れないだろ」
「ですね。外交問題に発展しかねません」
パウラと皓然の言葉に、アダンは勢いよく立ち上がった。ランフォード兄妹と同じように、大きな声で「なんで!?」と繰り返しながら。
「とにかく!」
勢いよく立ち上がったパウラは、チームメイトたちを見つめた。
「アン先生の所に行くぞ! こういうのに詳しいし、アリスのお母様なんだから!」
その言葉に、アリスたちは「おお!」と歓声をあげたのだが……。
アリスから手紙を受け取ったアンは、目を点にしてしばらく動かなくなってしまった。
アンの肩から手紙を覗き込んだルーナは、毛を逆立てて低い声をあげた。最近知ったのだが、ルーナはアンの使い魔だったらしいのだ。
「……」
「お母さん?」
「ただいま……。——なんだ、お前ら来てたのか」
疲れ切ったようすのルイスが仕事から帰ってくると、アンは震える足で「どうしましょう」と、着替えすら済ませていない夫に近付いて行った。
「な、なんだよ。フラフラして……」
「あなた、どうしましょう……。アリーが、うちの娘が、ネロにお嫁に行っちゃうかもしれないわ……!」
「なんだと!? おい、アリス! どこの馬の骨だ、お前を狙ってるのは!」
「え、何の話?」
取り乱すランフォード夫妻と、ポカンとしているアリスを見て、パウラは小さくため息をついた。
「家族だな、これは」
「ですね」
皓然も、その言葉に小さくうなずいた。
***
改めてパウラたちから話を聞き、ルイスはティーカップを落とし、アンはソファの背もたれに倒れこんでしまった。疲れているせいか、最近のこの夫婦は取り乱しがちだ。
「……なんで、アリスなんだ?」
「さあ、それは俺らにも分からない」
ルイスにタオルを渡しながら、レオは正直に答えた。
「今、シオンにも聞いてる所。でも、ネロでも大騒ぎになっているんだって。だって、ネロの貴族じゃなくて、アエラスの平民の娘を指名したんだから」
ポカンとしているアリスに、アダンが耳打ちした。
「最優秀者がダンスを踊る相手は、親しい相手なんだよ」
「私、王子と友達になってないよ? オリヴィアとは友達になったけど」
「違うよ! 友達じゃなくて、婚約者とか恋人とか、そういう『親しい人』なの!」
「うえええっ!?」
アリスは顔を赤らめ、勢いよく立ち上がった。
「私、あの王子と付き合った覚えも、結婚の約束をした覚えもないよ!?」
「そうだよな。つまり……、ディスマス王子はアリスに好意があるってことか?」
パウラの言葉を聞き、アンは再び青い顔でルイスに「どうしましょう!」と縋り付いた。
「私たち、この子に妃教育をしてないわ! テスト結果もあんまり良くなかったし……」
「それ今関係なくない!?」
「ああ……。なあ、今からでも陛下にお願いすれば、妃教育をしてくれる貴族が見つけられるんじゃ……」
「ちょっと! 私、ネロにお嫁に行かないから!」
アリスは大慌てで両親の間に割って入ったが、みんなは黙ってしまった。
「——あの、アリス?」
シンとした空間を切り裂いたのは、皓然の静かな言葉だった。
「つまり君は、王子を振るってことですか?」
「そうだよ?」
「もし君がネロの国民だったとして、自分たちの大事な王子様が他国の魔術師に振られたら、どう思います?」
「……いい気はしない、かな?」
「そういうことです」
「でも、大事なのは私の気持ちじゃないの!? そもそも、私は一、二回くらいしか話したことがないのに!」
それにみんなが再び黙ってしまったところで、レオのスマホが浮かび上がった。
「シオンからだ! 続報!」
レオの言葉に一同は背筋を伸ばし、シオンからの続報に耳を傾けた。
「えっと、さっき王子から話があったみたい。アリスを指名したのは、アゴーナスの時に命を救ってもらったから、だって」
「命、救ったっけ?」
本人は何のことだか分かっていなかったが、レオはシオンからの知らせを読み進めて行き、「サビーナに襲われる一歩手前で、アリスがサビーナを吹っ飛ばした時のことみたい」と、アリスの功績を教えてくれた。
「『あの時、アリスが来てくれなかったら、世界は混沌と化していただろう』だってさ。別に、お前に惚れてるとか、そういう訳ではないみたい」
「……良かった」
ルイスは脱力しきり、ソファに思い切り体を預けて天井を仰ぎ見た。
こんなに可愛がっている娘がたったの十三歳で婚約だなんて、考えただけで憂鬱になる。
「結婚なんて一生しないで欲しい」
「アリー。パパの言うことなんて、気にしないでいいのよ。疲れているだけだから」
さっきまでとは違い、アンは笑顔でアリスを見つめた。
「良い人が出来たら、ちゃんと紹介してね」
「あ、うん……。多分、できないと思うけど」
アリスの両親は、とても気が早い人たちだったようだ。
「あと、それは私よりお兄ちゃんたちの方が早いと思う」
「っはあ!? おまっ、何言ってんだよ!」
真っ赤な顔のレオを見て、アリスたちはニヤリと笑った。ルイスだけは、話しについて行けずにポカンとしていたけれど。
それにしても、レオはとても分かりやすい。
レオから睨みつけられているのを無視して、アリスはふと疑問に思ったことがあった。
「一年生って、みんなで踊るんでしょ? それ、私も?」
「当たり前じゃないの。アリーは二回、みんなの前で踊ることになるわね。——あっ! そんなこと言っている場合じゃないわ! ドレス、見に行くわよ!」
「え」
「王子様と踊るんだから、特に気合い入れなきゃ! アエラスの魔術師統括管理者の娘ですもの、国の威信がかかってるわ! そうだわ、おじいちゃんにお話ししましょう!」
「おじいちゃんに!?」
「そうよ! きっと、良いお店を紹介してくれるわ! さあ、行くわよ!」
「え、えええっ! ちょ、お母さん!?」
結局、アリスはアンに引きずられるようにして、部屋を出て行くことになった。
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