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83.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 無事に閉じ込められていた部屋から脱出することに成功したアリスたち。しかし、国はその対応に追われ続けていた……。

 しばらく、王宮はバタバタしていた。


 二十二年前の模倣事件が起こったこと。それへの対応で追われていた。


 特に、大事は無かったとはいえ、他国の王家を巻き込んでしまったこと、黒魔術師を出してしまったことが痛かった。特にフォティアの国王夫妻が大騒ぎをしているらしく、「戦争の一歩手前だった」と解説する学者もいた。


 それから、アリスたちが閉じ込められている間、行方不明だったファビアンは、五階倉庫から、遺体となって発見された。自分で髪を引きちぎったり、体中を搔きむしったりと、かなりひどい状態の体だったらしい。最後は、自分で舌を噛んで自害したのだと、報道された。


 もちろん、こんな中で成績発表やら期末試験やらしている場合ではないので、アリスたちはしばらくの間、休業を命じられていた。その代わり、いつもより多く衛兵や警備隊、軍が派遣され、国中で目を光らせていた。


 動きがあったのは、あの事件から二週間が経った日だった。


 他国の魔術師たちはすでに国へと引き上げていたので、謁見の間にいるのはアエラスの魔術師たちだけだった。


 なぜか、その場にはルイスとアンの二人もいた。他の保護者や魔術師たちは、既に帰ったというのに。


「こちらの不手際で、あなたたちに怖い思いをさせてしまいました。申し訳ございません」


 アエラス国王直々に謝罪されてから、アリスたちは事件の全容を聞かされた。


 サビーナは、幻のユリアの五番目の子供を復活させようとしていた。


 そこで、賢者の石を手に入れることを思い立ち、今回のアゴーナスを狙っていた。そうすれば、普段は近づくことができない王家の人間とも、接触しやすい。


 アゴーナスに向け、サビーナはいくつもの作戦を練った。上級たちに邪魔されないよう、黒魔術を使ってファビアンの精神を壊し、魔力管理システムを使って有名な魔術師たちの魔力を封印させるように指示した。


 貴重な血の持ち主であるアリスを狙い、クロエの特性を使って逃げられないよう、クロエを占い準備室に閉じ込めた。結果的に逃げられてしまったが、これでクロエと皓然の二人は行動を一緒にとるようになるだろうと踏んでいたらしい。


 競技が始まってから、サビーナはわざとチームメイトたちを戦闘不能にし、どさくさに紛れてカメラを壊して扉に黒魔術を仕掛けた。発動させるには、上級たちの魔力が封印されてからでなくてはならない。だから、爆発を待った。上級見習い同士がぶつかれば、必ず激しい魔力の衝突により、爆発が起こるからだ。爆発が起こったということは、まだ上級見習いたちの魔力が封印されていないことを示す。


 サビーナが思っていた通り、ラファエルたちが起こした爆発を最後に、爆発が起こらないのを見て、黒魔術を発動させた。爆発がそれから起こらないということは、上級見習いたちの魔力が封印された、ということだからだ。


 あとは、ゆっくりと三人分の血を集めて、魔術師たちを人質にアエラス国王の血も頂戴すれば終わる。


 ディスマスが睨んでいた通りだった。


「ファビアン・シュワルツ先生は精神崩壊し、自殺。サビーナ・カーロ・ヴェナは魔術師階級を剥奪、今後は国際裁判にかけることとなります」


 国王は再びアリスたちに謝罪してから、話す順番をダリアに譲った。


 ダリアも今回の事件について謝罪し、責任を取って魔術師統括管理者を辞すことを宣言した。


「後任は……。ルイス・ランフォード先生に、お任せすることとなりました」


 その言葉に、アリスたちは驚いた。ルイスたちから、そんな話を一切聞いていない。


 それに、アンも驚いているようだった。ダリアとルイスの顔を、何度も見比べている。


「発言しても、よろしいでしょうか」


 ルイスは手を上げ、ダリアを見つめた。


「私は、そのようなお話を受けた覚えがありません」


「ええ、初めて言いましたから。昨日、私を抜いた会議で決まったのです」


「そうでしたか。しかし、いきなり過ぎませんか。私たちには、まだ守り人の任期が残っています。そう簡単には……」


「元々、第二六三番地区は、クロフォード家が担当していた地区です。私とあなた方の仕事を交換する、という説明が、一番簡単になります」


 クロフォード家は、元々守り人家系だ。


 ダリアはその嫡子として生を受けたが、家業を継ぐのではなく、教職の道を取った。今は、妹がクロフォード家を切り盛りしている。


 だから、十年前にルイスたちは守り人として、すぐに別世界に赴任することができたのだ。


 だからと言って、ルイスが簡単に引き受けるわけがなかった。


「しかし……」


「残念ながら、もう決まってしまったことなのです。反対意見は認められません」


 ルイスはそれに顔をしかめたが、ダリアはそれに気付いていないフリをして話を進めた。


 だから、集まりが終わった後にルイスたちが来ることは、分かり切っていた。


「きちんと説明してくれませんか」


「もちろんです。ここではなんですから、私の執務室へどうぞ」


 ランフォード夫妻を連れて、ダリアは執務室に入った。あの汚かった部屋も、急な引っ越しのために荷物は全てまとめられ、がらんとしている。


 夫妻に椅子を進めたダリアは、お茶を出して自身も椅子に腰を下ろした。


「私は、この事件について責任を取って統括管理者の任を降りるつもりだと、陛下にお話ししました。すぐ、後任者を見つける会議が始まりましたよ。しかし、私は中に入れずに終わり、エスコから後任はルイス、あなたに決まったと言われたのです」


「分かっているんですか、先生」


 ルイスは体を前に乗り出した。


「俺をあなたの後継者にしたのは、子供たちを別世界に戻さないようにするためだ。今回、アリスがディスマス王子たちをギリギリの所で助けたらしいですし、あの子の力が規格外であることも分かってしまった」


「ええ、その通りです。あなたの嫌うジジババたちは、まだあの子にヘレナを殺させようとしています」


 ダリアは長く息をついた。


「私だって反対しましたよ。しかし、あのジジババ……、保守派の人たちは、ヘレナを殺すことしか頭にないのです。私は保守派と対立関係にありますし、厄介払いもできて丁度良いのでしょう」


「だからって、強引過ぎませんか」


「ええ、強引です。ですから、私は厄介払い。あなた方を使って子供たちをこの世界に縛り付ける。そして、ルイス。あなたに私の尻ぬぐいもさせる。用が済んだらあなたもクビにして、自分たちの支持者を挙げる。これが目的でしょうね。まあ、そんなことはさせませんが。自分の尻くらい、自分で拭います」


 ダリアのことだから、自分の尻拭いをルイスにさせないだろう、というのは分かっていた。


 それに、指名されたルイスは、これから保守派が用意したレールの上から動けない。ここでどんなにダリアを質問攻めにしても、国の権力者たちが決めたことには逆らえない。


「——アン、悪い。振り回してばかりだ」


「いいのよ、分かっていたことだから」


 アンは小さなため息をつくと、ダリアを見つめた。


「幸い、私の専門は魔法生物学です。先生の跡は引き継げます」


「ありがとう、アン。あなたにルイスを任せて、正解でした」


 ダリアの言葉に、ルイスは思わず顔をしかめた。


 実の両親が殺され、引き取ってくれた老夫婦も亡くなり、途方に暮れていたルイスとヘレナをこれまで育ててくれたのが、ダリアだった。そのせいか、ダリアは時々、こういった仕事中でも、親のようなことを言い出す。ルイスには散々「公私はきちんと分けなさい」と説教してくるくせに。


「ともかく。本当に、申し訳ありません。私がしっかりしていないばかりに」


「そんな、お気になさらないでください」アンは首を左右に振った。「十年前のあの日、私たちは先生に助けられました。今度は、私たちの番です」


 アンはそう言って、ルイスを見つめた。


「子供たちのことは……、私たちも気を付けます。特に、今回はアリスの血が盗られてしまいましたから。ね、ルイス」


「ああ。……こちらのことは、お任せください。ヤツらの好きなようにはさせませんよ」


 大きくうなずいたダリアと仕事の引継ぎ関係の話をしてから、夫婦は部屋を出た。


 用意されていた部屋に戻り、ソファに腰を下ろした瞬間、二人の口からため息が出た。


 二人が何を心配しているのかというと、アリスのことだった。


 アリスの家系特性は、表上はカイルから引き継いだ『自己成就』だ。フォティア王家のものではない。それなのに、どうしてサビーナはアリスの血をとったのか。その場には、レオもいたというのに。普通に考えれば、アリスの血では、賢者の石への手がかりにならないはずだ。


 やはり、女が生まれないはずの家系に生まれた娘だから、なのだろうか。


 アリスのことだけでも心配なのに、ダリアと仕事の引継ぎ関係、周りの権力者たちからの圧力をどうかわすか……。まだまだ考えるべきことが沢山ある。


 それに、引っ越し作業と、子供たちへの説明も。


 あの場には三人ともいたから、状況は分かっているはずだ。ラファエルとレオは、ルイスたちが選ばれた理由を察していることだろう。だが、アリスは。アリスは、きっと分からないことだらけで、戸惑っているだろう。


 やることだらけで、どこから手を付けたら良いのか分からない。


 その日の晩。


 アンも眠ってから、ルイスは机に向かっていた。


 これから、自分たちに何が起こるのか分からない。だから、もし何かあった時のために、子供たちに伝えなければならないことを。


 いわゆる、遺書というやつだ。


 まさか、こんなものを書く日が来るとは思っていなかったが、保険はかけておいて越したことはない。


 魔術師になったその日から、明日も生きているとは限らないのだから。

お読みいただきありがとうございました!

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