79.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
アリスたちは脱出のため、お互いに攻撃しないことを約束し、ネロのディスマス王子の指揮の元、三手に分かれて行動していた。そのころ、ルイスたちはというと……。
ダリアたち上級魔術師たちだって、バカではない。
こういったことがあった時用に、入口とはまた別に、非常用の出口を作っていた。だが、その出口にまで封印が施されている。これでは、文字通り手も足も出ない。しかし、これで分かったこともあった。
犯人は、上級魔術師である、ということ。
そして、行方不明になっているファビアン・シュワルツがその犯人である可能性が、極めて高いということ。
これにより、ファビアン探しは再開され、王宮には戒厳令が敷かれた。衛兵という衛兵がかき集められ、保護者の中からも階級章持ちはファビアン探しに動員された。保護者たちも、自分の手で子供を危険にさらした犯人を探し出そうと、躍起になっていた。
そんな中、ルイスとアンの二人は、ずっと二〇三訓練場の扉前から動こうとしなかった。二人でコソコソと話しては、封印術をあちこちから観察している。
訓練場の警備担当を仰せつかった衛兵は、不安で不安で仕方なかった。
そう、アリス推しで、さっきアゴーナスのリアタイを見逃していることに苛立っていた、あの衛兵だ。
こんな状況では、アゴーナスのリアタイどうこう言っている場合ではない。しかし、彼は自分の後ろに英雄と呼ばれる魔術師たちがいることに、とても興奮していた。
だって、これまでランフォード家の人間は、会えたらラッキーくらいの人間だったから。
ルイスたちは別世界にいたし、ラファエルは研究室に籠りっぱなし。会いたいと思っていても、会えるような人たちではなかった。
そんな人たちが今、自分の後ろにいる。
衛兵は、感動の涙を懸命にこらえていた。
「——アン、大丈夫だから」
「うん……、そうね、そうよね。でもね、もう心配で……」
「大丈夫。子供たちはみんな無事に決まってる」
——こんな状況でなければ、もっと良かったのに。
集まった保護者の中には、閉じ込められている魔術師の兄弟姉妹も連れてきている人もいた。だが、階級章持ちは、その子たちを会場に残してファビアン探しに奔走している。中には、魔法使いの両親に子供を預けて行く魔術師も。
今の親世代の魔術師たちは、二十二年前の事件と、世界大戦で最前線にいた。だからこそ、子供たちを同じ目に遭わせたくないのだろう。
「——み、君。ちょっとお使いを頼んでもいいか?」
「は、はい! 何なりとお申し付けくださいませ!」
ルイスに声をかけられ、衛兵は上ずった声をあげた。心臓をドキドキさせながら敬礼をして、ランフォード夫妻と向き合った。
見かけただけでもラッキーなのに、会話までしてしまった。
「エスコ……、は、無理か。千夜族の魔術師を呼んできてくれないか。誰でもいい」
「かしこまりました!」
衛兵は走って行き、最初に出会った千夜族の上級魔術師をルイスの元へ案内した。
「——確かに、誰でもいいとは言ったが……」
なぜか、ルイスは渋い顔をしたけれど。
「まあ、いい。お前の意見を聞かせてくれ、秋桐」
衛兵が連れてきたのは、斎秋桐。言わずもがな、桃子の父親である。
クセっ毛の黒髪をヘアバンドで止めて、たれ目の黒い瞳は静かな光を灯している。しかし、見た目とは違ってかなり感情が忙しい魔術師だ。
「ルイス先輩、アン先輩……」
「あー、はいはい。久しぶり。それで、この封印術なんだが……」
「うちの桃子ちゃんは無事ですよねぇ!?」
ルイスに抱きつき、秋桐はドバドバ涙を流しながら訴えた。
「だから、助けるためにお前の知恵を貸せって!」
「うちのっ、うちの桃子ちゃんは、まだ十三歳になったばかりなんですぅ!」
「うちの娘はまだ十三にもなってねぇよ! 助けたいんなら、お前もちゃんと見ろよ!」
キリがないと悟ったルイスは、強制的に秋桐の顔を封印術に近づけた。
「——あれ、これは……」
「どう、秋桐。この封印術、どう思う?」
「内側からかけられてる、ように見えますねぇ」
秋桐がアンにそう答えると、ルイスは舌打ちした。
「やっぱりな。……さすがは千夜族、見ただけで分かるのか」
「千夜族というより、これはぼくじゃなきゃパッと見で分からないですよ」
秋桐は、今度は自分で封印術を調べ始めた。
「千菊ちゃんでも、よっぽど見なきゃ分からないと思いますよ。一応、ぼくは安倍家の出身なんでね。安倍家が何でも屋みたいなことをしていて、助かりました。……これ、よく見たら完全に内側からかけてますね。イメージとしては、内側から南京錠をかけている感じです」
「何のために?」アンは顔をしかめた。「そんな回りくどいことをする、理由が分からないわ。それに、そんなことをしたら、自分も閉じ込められてしまうじゃない」
「理由は恐らく、自分も中にいないと目的が達成できないからだろ」
立ち上がり、ルイスは扉を睨んだ。
「犯人が分かっても、今の俺らは子供たちを人質にとられてるから、派手に動けない。このタイミングで、どうして……」
そのルイスの思考を止めたのは、国王ゼノと、その娘マヤの二人だった。
「私も、見ておくべきかと思ってね。何の役にも立たないかもしれないが……」
マヤを抱いた国王が扉に近づいた瞬間、ずっと一点を眺めていた姫の瞳が動いた。
「パパ」
「マヤ……!」国王は目を見開いた。「パパのことが分かるのか? 声を聞けたのは、パパって呼んでもらえたのは、三年ぶりだ……!」
「裏切者が中にいる。賢者の石を狙ってる」
「賢者の石?」
そのワードに、ルイスたちは一斉に反応した。
賢者の石とは、物質変換を誘発する謎の物体。「石」とは言うが、本当に石なのかも分からない。錬金術師がずっと追い続けているもの。もちろん、ラファエルも。
その昔、ユリアが作り出したとされるこの物体は、悪魔との大戦で傷ついた戦士たちを癒したとされる。しかし、ユリアはこの物体とともに姿を消し、二度と戻ってくることは無かった。
そのため、ユリアが残したとされる言葉のみが、賢者の石への手がかりとされている。
『これは、私が隠します。どうしても知りたいのなら、代償を払ってください。秘密は、私の子供たちだけが知っています。子供たちが認めた方にだけ、これを授けましょう』
子供たちというのは、四つの国の始祖。今も彼らが生きているわけがないので、現代では王族ということになる。
今、閉じ込められている王族は七人。
ネロのディスマス王子。
ガイアのソフィア姫、オリヴィア姫。
フォティアのジャン王子。そして、ラファエル、レオ、アリスのランフォード兄妹。
アエラスのマヤ姫と、その父ゼノ国王は、ルイスたちの目の前にいる。
「——そうか。そういうことか」
ハッとしたルイスは、ゼノ国王を見つめた。
「陛下。何があっても、ここにいらしてはなりません。よろしいですか?」
「ルイス。チームメイトだろう、そんな敬語なんて使わなくていいよ」
「……犯人の狙いは、賢者の石。子供たちを人質にして、お前から何かを奪おうとしている。あとは、アエラスだけだ。他三カ国のユリアの血を引く子供は、もう揃ってる」
「——分かった」
ゼノは頷き、マヤを連れてその場を去って行った。
そんなゼノに抱かれるマヤの瞳は、不思議な光を灯していた。
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