78.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
脱出のため、アリスたち学生魔術師たちは本部となっている洞窟に集まり、情報共有と作戦会議を開いていた。それによると、どうやらアエラスの上級魔術師が怪しいようで……。
オリヴィアもそれに気づくと、アリスに笑い返してくれた。
「確認だけど、中級、初級はまだ魔術が使えるよね?」
ディスマスの言葉に、魔術師たちは元気に返事をした。
「なら、こうしよう。上級見習いには知恵を貸してもらって、動ける人たちは、救助班と、捜索班と、探索班に分かれよう。救助班は、ここの存在を知らない魔術師の保護。捜索班は出口を探す。探索班は、薬草や食べられる草や水の確保。でも、怪我をしている人。無理はダメだよ、魔物もまだいるかもしれないし。さっきラファエルが言ってたように、体は一つしか無いんだから。うちのシオン・ハイドみたいになってる人、留守番ね」
その時、初めて洞窟内に笑い声が響いた。シオンのチームメイトたちが耐え切れず笑い出したのが、周りにも伝染したらしい。
「うーん、面白い話って難しいや」
笑いを求めていたわけではないディスマスは、不思議そうにみんなを見つめ、頭をかいていた。
「楽しそうなところ悪いけど、話を戻すよ。シオン、牡丹の手伝いは出来そう?」
「は、はい! 可能です!」
「なら、君は牡丹のお手伝い。薬草に詳しいだろ? 出来る範囲でいいから、彼女のサポートをしてあげて」
「かしこまりました!」
「それから、えーっと……。あ、ミーナとサラ。君らは怪我をしているけど、全然動けそうだね」
「もちろんですわ、閣下!」人間に戻ったミーナは胸を張った。「人魚の攻撃ごときでは、このミーナを倒すことなど出来ませんもの!」
「いいえ、王子様! 人魚の方がずーっと頑丈ですのよ! 蛇人間の攻撃なんて、羽で触れられるようなものですわ!」
そこでまたバチバチし始めた二人を鎮め、ディスマスは蛇人間と人魚を見つめた。
「怪我人でも二人くらい元気な人は、ここの警備をお願いね。上級見習いも、数人残ってて欲しいな。牡丹は手当て担当で決定していい?」
「もちろんです。お任せくださいませ」
牡丹はそう言って、ディスマスに優雅にお辞儀して見せた。
ディスマスはそれに頷いてから、「澄玲、瑾萱。君たちもここに残ってくれる?」と、自国の上級見習い二人も呼んだ。
「君らは魔術が無くても強いから、怪我人たちを守ってあげて」
その言葉に、千夜族の女性二人が「かしこまりました」とお辞儀した。
「カエサル。君はエルフの血が流れているから、魔力には敏感だよね。魔力は封印されたみたいだけど、魔力を辿ることは出来る?」
「はい、可能でございます」
「なら、君は捜索班だ。千夜族もカエサルの所に行ってくれると助かるな。蝶、梓睿、頼めるかな」
蝶と梓睿もそれに返事をしてお辞儀をした。
「次。救助班は、パウラ。パウラ・ツヴィングリ」
思ってもみなかった名前にアリスたちは驚き、何よりパウラ自身が驚いて「は、はい!」と上ずった声をあげた。
「君はまだ、魔術が使えるよね。それに、君は対人能力に優れてる。戦闘態勢にいる魔術師も説得できると思うんだけど、お願いしていい?」
「はい、お任せください。精一杯、務めさせていただきます」
ディスマスに答えたパウラを見つめていて、アリスはなんだか寂しかった。まるで、自分のお姉さんが盗られてしまったように感じられたから。
もしかしたら、チームのみんなとも、友達とも、別れてしまうかもしれない。そう思うと、とてつもなく不安だ。
「あ、そうそう。レオとアリスのランフォード兄妹」
次は自分たちが呼ばれ、レオとアリスは声をそろえて返事をし、背筋をピンと伸ばした。
「君ら、火力強めだよね。特にレオは『百発百中』を持ってる」
「左様でございます」
そう答えながら、レオは必死にジャンを視界から消そうとしていた。ジャンが『百発百中』を引き継げなかったことにコンプレックスを抱いていることを、知っているから。今だって、物凄い剣幕でこちらを睨んでいる。
「封印の種類にもよるけど、結界術の様なものならコアを確実に撃ち抜く必要がある。もしそうなら、君の特性で壊して欲しい。——アリス、君の魔力量は凄いね。魔術を使うのが苦手のようだけど、君ならイメージしただけで形になりそうだ。お兄さんと一緒に、捜索班に入ってもらいたい」
アリスは心臓をドキドキさせながらも、レオと一緒に「かしこまりました」と頭を下げた。
「あとは……、ぼくは探索班に行くよ。食べられる草木、薬草なら分かるから。シブシソ、付いてきてくれるよね」
「ええ。あなたをお守りするのが、私の役目ですから。どこへなりとも、お供いたします」
そう言ってディスマスの側で跪いたのは、さっき彼を回収していった魔術師だった。どうやら、ディスマスの側近だったらしい。
そんな中、オリヴィアはスッと手をあげた。
「では、私とディルは救助班で。こう見えて、腕には自信がありますから。ルーカスも一緒に来てくれるかしら。それから、桜花も来てくれると嬉しいわ。ホア、あなたも来てくれる?」
「はい、お世継ぎ閣下」
ニャットとそっくりな女性は笑顔でオリヴィアに敬礼し、桜花は「わーっ!」と嬉しそうな声をあげた。
「オリヴィア姫様、桜花が来たら嬉しいんですか?」
「ええ、もちろん。頼りにしてるわ」
「えへへっ! 桜花、頑張るります!」
「頑張ります、な」
桜花とポラリスの間の空気が揺らぎ、一人の青年が現れた。
栗色の髪と紫の瞳、眼鏡をかけたその人は、桜花の言葉を正し、オリヴィアにお辞儀した。
「やっと姿を見せてくれたわね、ルーカス」
「……お役に立てるよう、全力を尽くし、姫様をお守りいたします」
それだけ言って、ルーカスは再び姿を消してしまった。
「ジャン王子。あなたが指揮をとらないようなら、私が指名いたしますが、よろしいでしょうか?」
言葉遣いこそ綺麗だが、オリヴィアは鋭い瞳でジャンを見つめた。こんな中でも、ジャンが指揮を取ろうとしないことに、嫌悪感を覚えているからだ。
しかし、そんなことなど知らないジャンは「どーぞ」と興味なさそうに答えた。
オリヴィアは舌打ちしそうになるのを何とかこらえながら、フォティアの魔術師たちを見た。
「レグルス、ニコ、ツェツィーリアの三人も救助班に来て欲しいわ。あなた方は、最初から魔術師たちを探してくれてたわね。勘の鋭さ、観察力がずば抜けているから、出来ることよ。ヴィトゥス、ラファエル。あなたたちは探索班にお願いできる? その知識と経験で、みんなをサポートして欲しいの」
それに、名前を呼ばれた五人はオリヴィアにお辞儀した。
これまでの傾向を元に、自分がどの班に属すべきか、留守番すべきかを考え、それぞれで仕事を決めた。アリスの捜索班は千夜族が多く、皓然、アダン、ニャットチーム、藤原姉妹がいた。
カエサルたちの指揮を元に、アリスたちは洞窟から出発した。
さっきまでとは違い、なんだか不気味だ。肌がピりついて痒みを覚えるし、どこからか何かが襲ってきそうで自然と息をひそめてしまう。
他のみんなも同じようで、ゆっくりと周りを警戒しながら進んだ。
「——黒魔術の気配だ」
急に蝶が足を止め、指さした方向から魔物が飛び出してきた。
上半身は裸の女性で、下半身はライオン。はじめて見るその魔物に、アリスはあんぐりと口を開いてしまった。
「朝は四本足、昼は二本足——」
急に話し出したその言葉は、最後まで続かなかった。
千夜族の反応速度が、とにかく早かったからだ。皓然はもちろんのこと、魔術の使えない蝶はナイフを投げていたし、藤原姉妹の紙人形や桃子の人形たちが、一斉に魔物に襲い掛かっていた。
魔物の姿が消えてから、アダンが「スフィンクスを見たの、初めてだ……」と小さな声でこぼした。
「ついでに、瞬殺されるところも」
それからも一行は、魔物を倒しながら森の中を進んだ。だが、終わりは見えない。
というのも、カエサルたちは確かに黒魔術を感じ取るのだが、魔物たちの気配が多すぎて邪魔をしてくるのだ。魔物たちも黒魔術で出来ているから、上手く探ることができないのだという。
「……おかしいな」
そう言って足を止めたのは、梓睿だった。
「……全チームのポイント的に、……魔物の数はそう多くないはず」
「確かに、そうだな」カエサルは頷いた。「それに、放ったのは低級の魔物。スフィンクスは中級くらいで、低級ではないしな。ってことは……」
「黒魔術で部屋に閉じ込められたというのは、確実だな。その影響で、魔物たちが活性化し、レベルも高くなっているんだろう」
蝶の言葉に、アリスたちは音を立てて唾を飲み込んだ。これでは、拠点にしている洞窟も危ないし、アリスたちにも危険が伴う。
そこで、アリスは隣の皓然にそっと耳打ちした。
「クロエに、入口を探してもらえないの?」
「無理です。だって、ぼくらは入口を知らないんですから。すぐ、森の中に移動させられたじゃないですか。それに、ほら」
皓然が指さした遠くの空には、ハルピュイアの姿。
「クロエを飛ばしたら、魔物に襲われて終わりです」
「確かに……」
「残念ですが、探すには先輩方がしているように、黒魔術の出所を目指すしかないんです。ただ気配が濃すぎるから、難航していますけど……」
これもこれで、不確実な方法だ。
それで、今度はレオに耳打ちした。
「『百発百中』で、壊せないの?」
「無理。使うには、俺が全体像を理解していないと。パウラが『魔術は想像力』って言ってるだろ。『百発百中』を使うには、どれくらいの規模、どれくらいの距離がある的に当てるのか、想像できないと」
「そんなぁ……」
それでは、このままでは……。
「先生方が、術者を特定出来たら良いんですけどね……」
「多分、先生たちもその線で動いているとは思うよ」
皓然とレオの会話を聞きながら、アリスはどんどん不安になって行った。
お読みいただきありがとうございました!




