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77.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 黒魔術により、アリスたちは訓練場に閉じ込められ、外部との連絡手段も経たれてしまった。先生たちが会議を開く中、アリスたちは学生たちが集まる洞窟へと向かっていた。

 洞窟には、既にたくさんの魔術師たちが集まっていた。ざっと見ただけでも、百人近くはいるだろう。桃子たちがいるのが、昨日の迷路との違いだった。


「無事だったんだね! 良かったぁ」


 アリスを抱きしめて桃子がそういうから、「桃子も無事でよかった」とアリスも彼女を抱きしめ返した。


 そこにセレナたちもやってきて、みんなで互いが無事であることを喜んだ。


 先輩たちは先輩たちで、情報交換をしていた。だが、パウラたちから話を聞いたニャットは顔をしかめた。


「まだ、安心するには早いかもね」


 ニャットはそう言って、洞窟の奥にチラリと目を向けた。


「王族の方は、まだ全員揃っていないんだ。フォティアのジャン王子と、ガイアのお姫様方が、まだ来てない。南西方向から、かなり強い魔術がぶつかり合っているのを感じるから、多分そこかな。ヴィトゥス先輩たちが行くって言ってたけど……」


「なら、合流するのも時間の問題だな」


 ヒューは腕を組んだ。


「魔術がない状態とはいえ、上級見習いが来たのなら両者とも戦いを止めるだろ」


「それはどうかなぁ」


 その声にハッとしたパウラたちの視線の先には、金髪の青年がいた。


 巻き毛の金髪に、空のような青い瞳。丸渕メガネをかける彼が身に着けているのは、ネロの制服。階級は中級。


 ネロのディスマス王子は、パウラたちが頭を下げる前に手をあげて、その動きを省かせた。


「いいよ、今そんなこと気にしてる場合じゃないでしょ。ソフィアとオリヴィアなら、すぐに状況を判断するだろうけど、ジャンはどうかな。良くも悪くも、情熱的だからね」


 ここにはフォティアの魔術師もいるので、ディスマスはかなり言葉を濁した。今、いらぬ争いを産むべきではないと理解しているようだ。


 そんな彼は、アリスを見つめた。


「泣いたの?」


「え」


「涙の痕があるよ。いつここから出られるか分からないんだから、あまり水分とエネルギーを消費しない方がいいと思うよ」


「は、はあ……」


「あ、水は大丈夫か。確か、滝と湖があった。なら、最低でも三日は持つかな。食べられる草も結構生えてるし。ここ、笑う所」


「あ、あは……?」


「ふーん、難しいね」


 そこで、王子は付き人のがっしりした男魔術師に回収されていった。


 そんな王子と入れ違いで、シオンがやってきた。


「王子なりに、アリスを励まそうとなさっていたのだよ」


「そ、そっか……。それで、シオンは色々と、その、大丈夫?」


 シオンは右手を布で吊り、左の頬をまっ赤に腫れさせていたのだ。それに、あちこちに痣が出来ているし、絆創膏もあちこちに貼っている。


「大丈夫。桜花(インファ)と当たった時点で、怪我無しは諦めたのだよ」


「うちの姉が、すみません……」


「いや、むしろ桜花のおかげで助かったのだよ。桜花が投げた木のせいで、ぼくはどう考えても戦闘不能になったが、回収されなかった。それで、異常事態なのが分かったから。うちのミーナと、サラも止められたしね」


 その言葉に合わせるように、シオンのチームメイトたちと、桜花たちがやってきた。サラと、白い髪をツインテールにした黄色の瞳を持つ少女は、シオンよりも傷だらけだった。


「アリスたちは初めてだね、紹介する。でっかいのがリーダーのカエサル。筋肉だるまの男がタボ、筋肉だるまの女がナナ、威嚇しているツインテがミーナ」


「悪意しかない紹介をどうもありがとう、シオン坊や」


「いだだっ! 事実だろ! ったああ!」


 タボとナナに体を拘束され、カエサルに腫れた頬をつつかれ、ミーナにはあちこちの痣を押しまくられ、シオンは悲鳴を上げていた。


 シオンがぐったりして黙ったところで、カエサルはアリスたちに笑顔で握手を求めた。


「初めまして。カエサル・バローネだ。こっちは戦闘民族アルクメネ族のタボとナナ。それから、ツインテールが蛇人間のミーナ。……おや」


 カエサルは腰を折り、俊宇の顔をあちこちから見回した。


「……何でしょう」


「君、誰かに似てるね。あ、李家だから梓睿(ズールイ)の弟か! へえ、確かに今年のアエラスは将来が楽しみだ。上級家系がこんなにたくさん」


「……」


 俊宇は口元を袖で隠し、カエサルを黙って睨みつけていた。


「カエサル」


「ごめんって」


 シオンににらまれ、カエサルは正直に謝った。


「李家は仲が良いって聞いてたからさ」


「……それは」


「……本当」


 俊宇の肩を抱いて、また別の千夜族が現れた。俊宇とそっくりで、長い前髪で左目を隠している。長い黒髪は銀色のリングで一つにまとめられていた。


「……兄貴」


「……うちの弟に手出したら、……容赦しない」


 なんと、話し方まで同じと来た。


 本当にそっくりだと驚いているアリスの前で、俊宇は兄の手をそっと外した。


「……俺、一人で出来る。……過保護」


「……可愛くない」


 なるほど、俊宇なりに苦労しているようだ。


 そこに、過保護な兄がもう一人帰ってきた。


「お前ら無事だったかー!」


 そう言うなり、ラファエルはレオとアリスを力強く抱きしめた。他のみんなもいるというのに、頬ずりまで。


「兄ちゃ、やめ……っ」


「お兄ちゃん、痛いって……!」


 それを見て、梓睿は弟を見おろした。


「……あれ、……して欲しい?」


「……絶対に嫌だ」


 それからしばらくして、ジャンとオリヴィアたちがやってきた。


 オリヴィアはアリスに今日も抱きつくと、一緒にやってきたもう一人の金髪少女である姉と、その付き人を紹介してくれた。


「ソフィアお姉様と、その付き人のオレガノよ。オレガノはディルのお兄様なの。私たち、四人でチームを組んでいるの」


「そうなんだ……」


 こちらは何だか、似ていない兄弟姉妹だった。


 ソフィアはツンとしていて、アリスたちの挨拶に「どうも」としか返してくれない。だが、オリヴィアと同じで、ソフィアも可愛らしい容姿をしていた。ソフィアは長い金髪にリボンを編み込んだお団子頭で、紫色の瞳を持つ。


 オレガノは、ディルよりもピシッとしていた。背筋はずっとピンと伸びているし、挨拶には「こちらこそ、よろしくお願いいたします」と、とても丁寧に返された。髪と瞳の色は、ディルと同じヘーゼルブラウン。だが、髪はぴっちりとオールバックにしていた。アリスが思い描いていた「護衛騎士」そのものだ。


 それから、オリヴィアたちと一緒にやってきた、ジャン王子のチームメイトは女子二人。


 一人は、なんとバンパイア。日差し対策の帽子やサングラスなど、重装備の下から、真っ白な肌のきれいな女性が現れた。ジャド・ブラッドという彼女は、長い白髪に赤い瞳を持っていて、アリスを見るとハッとしていた。


 もう一人は、マリベル・ポップルウェル。すみれ色の縦巻きロールの髪を耳の下でツインテールにし、髪と同じ色の瞳は静かにアリスたちを見つめていた。


 二百近い魔術師たちが集まり、洞窟はぎゅうぎゅうだ。だが、ミーナが蛇に変身して、太いしっぽで地面をたたくと、砂埃をあげながら洞窟が広くなった。驚いているアリスに「蛇人間は、土属性の生き物なんだ。地面を操るのが得意だから、これくらい普通なのだよ」とシオンが耳打ちして教えてくれた。


「じゃあ、ぼくが代表して話すね」


 洞窟の入り口付近に立ち、ディスマスは魔術師たちを見つめた。


「みんな、どういった状況にあるかは聞いていると思う。上級見習いたちの魔力が封印され、先生たちとの連絡も切れた。戦闘不能者が出ても外にワープしていないね。これは、先生方の魔力も封印されていると思って間違いないだろう。恐らく、二十二年前のハーコート事件の模倣だ。端的に言うよ。一人でも死んだら、犯人の思うツボだ。よって、ネロの魔術師のみんな。何があっても、殺しをしてはならないし、攻撃もしてはいけない。今、ぼくらが力を入れるべきは、協力し合って脱出することだ」


「ガイアの魔術師たちも同じです」


 オリヴィアはスッとディスマスの隣に立ち、自国の魔術師たちを見つめた。


「二十二年前の惨劇を繰り返してはなりません。良いですか、必ず、死者を出さないようにしますよ。我がガイアの誇れる民であるあなた方を、ここで失いたくありません」


 ネロとガイアの魔術師たちは、一斉に返事をした。これで、この二カ国の魔術師たちは、攻撃をすることは無いだろう。


「フォティアの魔術師、右に同じな。とりあえず出るぞ」


 ジャン王子は、興味なさそうに命じて、マリベルに世話を焼いてもらっている。それでも、フォティアの魔術師たちは王子に敬礼して返事をしていた。


「さて、アエラス王国の魔術師のみんな」


 アエラスの番では、上級の三人が前に出た。


「まずは、申し訳ない。我々が導くべきなのに、魔力を封じられてしまった。君たちの不安を煽ってしまったことに、謝罪する」


 代表で話すローガンは、そう言ってアリスたちに頭を下げた。ラファエルと牡丹も、それに続いた。


「ここには陛下も姫様もいらっしゃらないので、恐れ多いが、我々から話をさせてもらう。アエラスのみんなにも、他の魔術師を殺すことや、攻撃することを控えてもらいたい。不安なのはみんな一緒だ。……私たちの言うことを聞きたくないという者も、中にはいるだろう。私たちの言葉に、強制力はない。従いたくないのなら、従わなくても良い。ただ、これだけは聞いていけ」


 そう言って、ローガンは鋭い光を灯した目で魔術師たちを見つめた。


「一度でも人を殺したら、もう戻れなくなる。その先にあるのは、一生付きまとう後悔か、快楽に囚われてサイコパスの道を走って処刑されるか。そのどちらかだけだ」


 シンとした重い空気になったところで、牡丹が笑顔で手を叩いた。


「怪我をされている方は、私の所にいらしてくださいね。魔術は使えないけれど、応急処置は出来ますから」


「そうそう。怪我人は早めに牡丹の所に行けよ」


 ラファエルはポケットに手を突っ込んだ。


「どんなに優秀な医者や錬金術師でも、手や足を生やすことは出来ないからな。一生物の体、大事にしろよ」


「なんでまた暗い雰囲気にするのよ!」


「事実じゃん」


「そういう問題じゃないでしょ! ラファの頓珍漢(とんちんかん)!」


 ローガンの後ろでコソコソ話す二人のせいで格好つかなかったが、アエラスの魔術師たちも上級見習いの三人に返事をした。


「はい、じゃあお互いに攻撃は無しって決まったね。これからは協力していくよ」


 ディスマスは手を叩き、みんなの視線を集めた。


「情報共有の時間だ。さっき、先生たちの魔力も封印されている可能性の話をした。まあ、確実だろうけど。それに加えて、まだ誰も救助に来ていないってことは、恐らく出口も封印されているのだろうね。はい、みんな。落ち着いて聞くように」


 シンとした洞窟内に、ディスマスのどこか落ち着いた声が響いた。


「犯人は上級魔術師。そして、黒魔術に手を出している可能性が高い。それと、魔力を封印したってことはアエラスの上級かな。でも、アエラスの魔術師たちを責めてはいけないよ。彼女たちも被害者なんだからね。そこで、我々がすべきことは、ただ一つ。出口を探し出し、黒魔術の封印を解くことだ」


 まだシンとしている魔術師たちを見て、ディスマスはオリヴィアの肩を叩いた。


「君の方が、お話は上手だ。ぼく、さっき滑っちゃったし」


「最後まで説明しなさいよ」


「えー」


 ディスマスがそんなことを言うから、オリヴィアは咳払いをしてから一歩前に出た。


「古い文献によれば、黒魔術の封印を解くことはかなり高度な技術を要します。複雑に絡まり合った細い糸を、一つ一つ解いて行くようなものです。普段の先生方なら解けるでしょうが、今は先生方も魔力を封印されていると仮定して考えれば、救助は絶望的です。しかし、まだ方法はあります。術者が封印を解くこと。それから、封印を壊すこと。この二つです」


 これには、洞窟内がざわざわし出した。オリヴィアが出した二つの案も、成功の可能性は低いからだ。経験豊富な魔術師たちほど、この方法に不安感を覚えているようだ。


 だが、オリヴィアはみんなに笑って見せた。


「みなさん。ここには一体、何人の魔術師がいると思っているのですか? 出来ないのなら、出来るようにすれば良いだけのこと。先ほど、ディスマス王子もおっしゃったではありませんか。『これからは協力していく』と。知恵を出し合い、問題を一つずつ解決していけば、私たちに不可能はありません」


 さっきまでとは違い、今度は魔術師たちの気合が入った声が洞窟内にこだました。


 アリスは周りを見てから、オリヴィアに目を細めて見せた。オリヴィアに、尊敬の意を込めて。


 オリヴィアもそれに気づくと、アリスに笑い返してくれた。

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