76.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
なんと、上級見習いたちの魔術が封印されてしまった。挙句、アリスたちは訓練場に閉じ込められて外に出ることができない。そこで、情報交換のため、アリスたちはローガンたちのいる洞窟へ向かうことになったのだが……。
中継が急に切れ、王宮は大騒ぎになっていた。
上級魔術師たちが、魔力を封じられてしまったから。そして、アゴーナス参加中の魔術師たちの安否も不明になってしまった。
国民からの問い合わせには王宮の担当部署が当たり、チームの面倒を見ている上級たちは、保護者への知らせを急いだ。もはや、ファビアンの捜索をしている暇もなく、王宮にやってくる保護者の対応に、衛兵たちも追われていた。
その中に、ルイスとアンの二人もいた。守り人の任は、他の守り人に留守をお願いして。
子供たちの安否が不明で、かつ二〇三訓練場には黒魔術による封印が施されていて、中に入れないと言われたから。
ダリアに事のいきさつを説明され、ルイスたちが真っ先に行ったことは、他の保護者たちに交じってダリアを質問攻めにするのではなく、国王の元へ行くことだった。
本来、上級魔術師だとしても、アポ無しで国王と会うことは難しい。しかし、二人は簡単に国王に会うことができた。
「ゼノ!」
上級魔術師たちと一緒に学生たちの救出について話している国王を、アンは呼び捨てにした。いくら公爵の娘だからと言って、許されることではない。とても無礼な行為だ。
「アン! 陛下になんて口を利く!」
「お父さんは黙って!」
父に怒鳴られても、アンは国王に迷うことなく詰め寄った。衛兵たちに止められたから、国王まであと一メートルほどの場所で「どういうこと?」と怖い顔で問いただした。
「あなた、『未来図』で見なかったの!?」
「『未来図』を見ることは無かった」
国王は立ち上がり、衛兵たちを下がらせた。これで、国王とアンを隔てるものは何もない。
「見ていたら、アゴーナスを中止していた」
「ええ、そうでしょうとも! 私が言いたいのはこれだけよ。うちの子たちに何かあったら、どう責任を取ってくれるの!? あの子たちが、し、し、死んじゃってたら……!」
「アン、よせ」
やっとアンに追いついたルイスは、肩で息をしながらアンの肩を掴んだ。
「落ち着け。ここでゼノを責めたって、何の解決にもならない」
「あなたは子供たちが心配じゃないの!?」
「心配に決まってるだろ。だから、一刻も早く助けてやらないといけない。なら、今すべきことはこれじゃない。お前も分かるだろ。とにかく落ち着け」
アンは大きく息を吸いこんでから、国王に深く頭を下げた。
「大変申し訳ございませんでした。何なりとご処分を」
「そんなことはしない。先輩、あなたの気持ちは、同じ親としてよくわかるよ」
ゼノに肩を叩かれ、アンはそっと顔をあげた。
「それより、良かった。二人も会議に参加してくれ。二人の意見も聞きたい」
「ありがたいお申し出ですが、申し訳ございません」
ルイスは頭を下げた。
「我々はもう、アエラス王国の上級魔術師ではございません。守り人として、お国のことに口を出すことはできません」
「……そうか。なら、協力してくれ。守り人であれば、訓練場にかけられた黒魔術を解けるかもしれない。結界や封印は、あなた方守り人の専門分野だ」
「かしこまりました。我々でよろしければ、お力になれるよう、全力を尽くす所存でございます」
そのまま、会議が開かれることになった。
「では、現状を把握しましょう。まず、我々上級魔術師の魔力が、何者かによって封印された。これは、アエラスだけでなく、他三カ国の皆様も同じです」
これに、その場にいた全ての魔術師たちが頷いた。アエラスだけでなく、ネロ、ガイア、フォティアの上級魔術師たち、全員。
「そして、我々の魔力によって動いている、子供たちのメディカルチェックシステム、通信機器、カメラ、全てがダウンした。さらに、競技会場となっている二〇三訓練場には黒魔術による封印が施されており、中に入ることはおろか、中の状況を把握できないでいる」
「千夜族であれば、黒魔術をどうにかできるのでは?」
発言したのは、フォティアで魔術師を統括しているメリナ・クライン上級魔術師。ダリアと同じ立場の女性だ。細身で背の低い彼女は、すっかり白くなった髪を一つにまとめ、紫の瞳で千夜族の魔術師たちを見つめた。
特に、その中で一番、態度の悪い千夜族を。
「どうですか、斎千菊さん?」
「……結論から言うと、無理ですね」
赤毛のプリン頭の元中魔術師は、そう言って腕を組み、背もたれに体を預けた。
「私たちの本分は、裸の魂を黒魔術に転用されないようにすること。魂の場所を移し替えているだけですので」
「そうでしたね」
「それはそうと、私をここに呼んでいいんですか?」
今度は手をポケットに入れ、千菊はアエラス国王に薄く笑って見せた。
「私はもう、魔術師をクビになった身ですよ。階級章なら、大分前にお返ししませんでしたか?」
「あなたは実力者ですから」
「おや、光栄ですね」
国王にそんな態度をとる彼女は、隣に座る別の千夜族の女性に肘でつつかれた。
それを見てから、今度はガイアの魔術師統括管理者の女性が手をあげた。
「ガイア王国、リーヴィア・フォンターナと申します。ランフォードご夫妻にお尋ねします。結界術などにお詳しいかと思いますが、解けるのでしょうか。ご見解をお願いいたします」
「守り人、ルイス・ランフォードです。私も結論から申し上げます。この目で見ていないので、何とも言えません」
ざわついた会場を、アエラス国王は手をあげて鎮めた。
「では、見ていただいても構いませんか?」
「もちろんです」
それで、アンをその場に残してルイスはエスコと一緒に訓練場に向かった。
規制線の前にいた衛兵たちは、上級魔術師二人に敬礼してから、規制線を取ってくれた。ルイスの足では、線の下をくぐることが出来ないから。
実際に、扉には黒魔術による封印が施されていた。雁字搦めに鎖を巻かれているような扉からは、どす黒い気配を感じる。
「どう、ルイシート」
「それで俺を呼ぶな。——どうやら、封印術自体は拙いみたいだな。素人がしたものだ」
「なんで分かるのさ」
「別世界には、古本屋で見つけたものを手掛かりにして、黒魔術を使おうとするアホがいるんだよ。今も昔も、人は人を恨むから。まあ、非魔術師がするものよりはしっかりしてる」
「じゃあ、解けるかい?」
「それは何とも。一番は、術者を見つけて術を解かせること。二番目は、この魔術を解読して、一つ一つ術を解いていく。二十二年前みたいに」
「それは、かなり時間がかかるね」
「ああ。それから、三つ目。中からこじ開ける」
「……できるの、それ?」
「アイツら次第だ。まあ、可能性はゼロに等しい。俺らで難しいんだから、経験の浅い子供たちには無理だろう」
「じゃあ、第一案と第二案を同時進行で進めるしかないね」
「そういうことになるな……」
そう言ってから、ルイスはハッとしてエスコを見つめた。
「いや、第二案は無理だ」
「何でさ」
「俺らは今、魔術が使えない」
それに気づいた瞬間、エスコは黙って王宮の壁を殴った。
国には、国民全員分の魔力が保管されている。それは、守り人であっても同じ。だから、ルイスたちも、元魔術師である斎千菊も、魔術が使えない。
他国の魔術師たちも、アエラスに入国した時に魔力が記録されている。そうでなければ、買い物はおろか、魔術を使った瞬間に警報が鳴ってしまう。だから、他国の魔術師であっても魔術が使えない。
かといって、こんな複雑な術を相手したことのない衛兵たち魔法使いに、解術なんて高等テクニックはない。もし、封印魔術を解きたいと思っても、それは魔術師に依頼することだ。そもそも、封印も魔術師にしかできない。
魔術師の仕事なのに、魔術が使えないせいで手も足も出ない。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ! クッソ、これじゃエルンスト先輩に合わせる顔がない」
「落ち着け。まずは、これの術者を割り出す。それをしながら、アイツらが中からこじ開けてくれるのを祈るしかないな」
そう言いながら、ルイスの胸の中は不安で一杯だった。
子供たちには、絶対にあんな思いをさせてはいけない。そう思いながら、育ててきた。
あんな愚かな行為は、繰り返してはいけない。
「急ぐぞ。一人でも死んだら、俺らの負けだ」
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