74.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
ルーカスのチームとシオンのチームがぶつかり合っている間、別の場所でもライバルチームがぶつかり合っていた。一方で、王宮ではとある人物探しが行われていて……。
シオンたちがいる場所から、そう遠くない地点で、爆発が起こった。
煙が晴れると、両者とも無事であることが確認できた。
それを見て、それぞれのチームリーダーは小さな舌打ちを漏らした。
「今年もお前らと遊んでたら、優勝逃すだろうが。さっさとやられちまえ、ローガン」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。君たちが消えてくれると、全てが丸く収まるんだからな、ヴィトゥス」
お互い、目指すものは優勝だ。知名度は上がるし、ポイントは大量に入るし、色んな所で融通が利くようになる。
特に、卒業に向けてコツコツポイントを稼ぐ必要がなくなるのだ。今の内から、少しでも多くのポイントを集めていて、悪いことは無い。
それに、元々お互いを良く思っていないから、公式の場で思う存分相手を叩きのめすことが出来て、とても好都合なのだ。
「それにしても、相変わらずだなぁ。弟妹が来て、随分と丸くなったと聞いていたんだけどな。ラファエル、出会い頭に爆発起こすのはお前くらいだ」
「そりゃ、どうも」ラファエルはヴィトゥスに笑いかけた。「いいじゃんか、いつもの感じで。そちらさんのレグルスだって、やる気満々みたいだし」
確かに、ラファエルは爆発の種を仕込んだ。水素に火をつける、これだけで、かなり大きな爆発が起こる。だから、水素が入ったカプセルを用意し、出会い頭にそれを投げつけてやったのだ。
相手陣が、必ず空中でそれを攻撃すると知っているから。
ラファエルが思った通り、相手のレグルスが魔術を使ってカプセルを破壊した。魔力を使うと、熱エネルギーが発生する。アリスがしょっちゅう火花を散らしている原因は、これだ。瞬間的に高熱を発するため、火花が発生する。
つまり、レグルスが魔術を使ったことで熱が発生し、それが水素に引火、爆発が起こった、というわけだ。
こういう危険なことが起こってしまうため、魔術界では理科の授業にかなり力を入れている。
カプセルを爆発させたレグルスは、仮面の下で表情一つ変えていない様子だった。ただ、自慢の銀髪が少し焦げたことに小さな苛立ちは覚えているらしかった。
「俺が投げつけるもんなんて、危険物に決まってるじゃん。お前だって知ってたはずだろ」
「知っていたよ。だからこそ、こんな失態を犯した自分を許せないんだ。お前たちといると、判断力が鈍る」
「そりゃ良かった」
満足そうに笑うラファエルの隣で、牡丹は白狐を呼びだしていた。
牡丹の体をすっぽりと覆いつくせるほど大きな狐は、唇をひんむいて鋭い牙をあらわにした。目の前の千夜族を、白夜と一緒に威嚇するために。
ショートカットにアゲハ蝶の髪飾り。蝶の飾りをつけているのは、胡蝶家の人間だけだ。
黄家と表裏一体の関係にある胡蝶家。その跡取りが、目の前にいる蝶だった。
「葛の葉、抑えて」
「相変わらず、アンタは動物王国の女王様だね」
何種類もの虫を侍らす蝶は、牡丹に薄く笑って見せた。
「そんな猛獣ばかり連れてたら、せっかくの牡丹の花が踏み散らかされるんじゃない?」
「蝶ちゃんって、結構そういう恥ずかしいこと普通に言うわよね」
その一言に、蝶は憤慨した。
何が一番気に入らないかと言うと、牡丹に悪意が一つもないことだ。ただ、自分が思った感想を率直に言っているだけ。それがまた、蝶の怒りを逆なでしていた。
蝶は昨晩からずっと、牡丹を煽る為に頑張って考えてきたのに。
「やっぱり私はアンタが嫌いだ!」
「そう? 私は蝶ちゃんのこと、好きよ。ストレートで可愛いから」
「いつまで経っても子供扱いしやがって……!一歳しか変わらないくせに……!」
「あ、お口悪いわよ。ダメでしょ、フォティアの公爵令嬢がそんな言葉遣いしてたら」
「いつもはちゃんとしてるし! アンタにだけだよ!」
「私にだけ? やだ、ちょっと照れちゃう……」
「そういう意味じゃない!」
千夜族同士は、今回も牡丹が会話の主導権を握ったらしい。
それぞれリーダーたちがチームメイトをなだめてから、一斉に攻撃に入った。
勝負は一瞬。ローガンとヴィトゥス、どっちの家系特性が先に作動するかだ。
だが、両者はあと一歩という所で、ピタリと止まった。
「——どうやら、状況は同じみたいだな」
「残念だけどな」
ローガンとヴィトゥスは互いを見つめ合ってから、臨戦態勢を解いた。ラファエルたち、他のメンバーも。
「ラファ、牡丹。お前らは魔力を引き出せるか?」
「全く」
牡丹がそう答えた瞬間、葛の葉は空気に溶けるように消えていった。式神を形作っていた牡丹の魔力が尽きたからだ。
その正面で、蝶の周りで飛び回っていた虫たちも白い煙になって消えていった。この虫たちもまた、蝶の魔力でなりたっていたから。
「——ダメだ。陣を書いても動かない」
地面に簡単な魔法陣を描いたラファエルは、木の枝を放り出して舌打ちを漏らした。
「誰かが、俺たちの魔力に鍵をかけたらしい。でも、魔力はまだ体に残っているから、単に引き出せなくなってるみたいだ」
「私も同じだ。魔法すら使えない」
そう言ってレグルスは、ラファエルが投げた枝をブンブンと振っていた。普段なら、こんな簡単な動作でも火花くらいは散るはずだ。
「——二十二年前と、似た何かが起こってるのか?」
ローガンは深く考えようとしたが、そこにハルピュイアが飛び出してきた。
「邪魔……」
そう言ってローガンは腕を振るったが、何も起こらない。それを見て、ハッとした。
今の自分は、魔術が使えないではないか。
そんなローガンに代わり、牡丹の薙刀がハルピュイアを真っ二つに切り裂いた。
「何してんの、ローガン。いつも魔術に頼ってばかりいるから、こうなるのよ」
「はいはい、説教は後な。とりあえず、落ち着いて考えられる場所は……」
ぐるりと周りを見渡して、ローガンの瞳はとある場所を見つけた。
***
「——ここも外れか」
五階倉庫の扉を開けて、衛兵は舌打ちを漏らした。
昨晩起こった、使い魔誘拐事件。しかも、使い魔を助けに来た魔術師たちを占い準備室に閉じ込めた。……他国の魔術師たちがピッキングして助けたらしいけれど。
捜査の結果、ファビアン・シュワルツという占い学を担当する上級魔術師が怪しい、ということになった。そこで、彼から話を聞こうと部屋に向かったが、いない。王宮中、どこにも彼の姿がない。おかげで、衛兵たちは手の空いていた上級魔術師たちと一緒にファビアンを探している。
それにしても、どうして今日に限って仕事があるのだろう。そう思って、衛兵はもう一度、舌打ちを漏らした。
昨日は休みだったので、エキシビションと前半戦は家で観戦することができた。ビールを飲みながら、アエラスの魔術師たちを応援していた。前半戦の迷路は、魔術師たちを見ながら「違うって! 右だって、右!」なんて叫びながら、何だかんだ楽しんだ。
だって、彼の推しであるアリス・ランフォードのチームは、すぐに迷路を抜け出してしまったから。
アゴーナスのテレビ中継では、好きなチームを選んで観戦することができる。アゴーナスの中継をしているテレビチャンネルでメニューボタンを押し、チームコードを入力するだけだ。衛兵は、エキシビションの時はチームを指定せずに見ていたが、アリスがどうにも気になって、途中からアリスのコードを入れて観戦していた。
エキシビションを見ていて、衛兵は涙が止まらなくなった。「こんなにも自分たち平民のことを思ってくれている魔術師が、この世にいるなんて!」と。
そう、彼の実家はフレース侯爵家で小麦農家をしているのだ。未来のフレース家を、あんな小娘に継がれるのは嫌だ。
アリスのような、自分たち平民のことを思ってくれる人に継いでもらいたい。アリス以外にも、平民に優しい魔術師は多いけれど。
いや、本当は王族なのに平民として生活し、平民の側に立ってくれたから、アリスのことを推せるようになったのだ。とはいえ、貴族に優しくされるのも嫌ではないのだ。ヒュー・ベーコンは廊下ですれ違う人たちに笑顔で挨拶してくれるから、衛兵は彼のことも好きだ。
それから、セレナ・リラ・コルデーロの戦いにも感動した。彼女の身の上は知っていたし、ルイーズたちからどんな仕打ちをされていたのかも知っている。だから、彼女がアメリに勝った時は「良かったな、良かったな」と泣きながら喜んだものだ。
昨日のことを思い返していたら、衛兵の中で沸々とまた怒りが込み上げてきた。
——今日の最終戦、生で見たかったぁ……!
いや、中継でもいい。とにかく、リアタイで見たい。そうでなければ、休憩中や勤務後の更衣室で結果が聞こえてきてしまう。そんなネタバレは嫌だ。録画したものを家でじっくり、またビール片手に楽しみたい。
それが、独り身である彼の、ささやかな楽しみなのだから。
「いいなぁ、視聴覚室担当のヤツら……。仕事中にもアゴーナスが見られてさぁ。俺だって見てぇよ。アリスちゃん、まだ残ってるかなぁ。いや、あのパウラちゃんのチームなんだから、大丈夫だろ。あーっ、でも大丈夫かなぁ。アダンがなぁ。アイツ、面白いけど手ぇ出すの早いからなぁ。ああ、俺らのアリスちゃん、大丈夫かなぁ。大丈夫だな、うん。皓然くんもいるし、兄貴のレオくんいるしな。うん、大丈夫だ!」
ブツブツ呟きながら、衛兵は倉庫の扉をしめた。
倉庫の中に、上級魔術師が潜んでいることに気付かずに。
お読みいただきありがとうございました!




