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73.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 ついに始まったアゴーナス二回戦目。アリスたちは開始早々、九人を倒して好スタートを切っていた。

そんな中、とある実力者チーム同士がぶつかり合っていて……。

「——あ」


 桜花(インファ)を背に乗せて森の中を歩いていたシロクマと、同じく森の中を歩いていた背の高い青年は、お互いを見た瞬間に声をそろえてその言葉を発した。


 そして、次の瞬間。両者の頭上で激しい爆発が起こった。


「ここで会ったが百年目! 今日こそ決着つけてやる!」


「出来るもんならやってみな!」


 水の泡に入るサラが、五メートルはある白い大蛇と張り合っていた。


 ルーカスたちが森の中で出会ったのは、ネロのカエサル・バローネのチームだった。つまり、シオンが所属しているチーム。


 フォティアのヴィトゥスチームと、アエラスのローガンチームがライバル関係にあることは有名だが、こちらの二チームもまた、ライバル関係にあった。


 正確には、人魚のサラと、蛇人間のミーナが。


 初めて会った時から馬が合わないらしく、二人はお互いと会った時だけ「出会い頭に殴る」をモットーに戦い始める。他のメンバーはそれに巻き込まれているに過ぎない。


「カエサル……」


「しょうがねぇ。ミーナがやっちまったんだから」


 シオンに肩をすくめてから、カエサルは剣を抜いた。


 カエサル・バローネ上級魔術師見習い。ライトエルフの母と、人間の父を持つ。エルフの特徴である長い耳と銀色の髪。しかし、瞳は人間の父親譲りの黒。


 人間離れした身体能力と魔力の精密性から、魔法使い時代から注目されていた。エルフの血のおかげで、精霊たちとも意思疎通を図れるのが強み。


 ただし、喧嘩っ早いのが玉に瑕だった。これは、シオン以外のチームメイト全員の共通項でもある。


「今年は逃げんなよ、ルーカス・ツヴィングリ。そろそろ、昔みたいに姿を現したらどうだ」


「やなこった」


 桜花を降ろし、シロクマは二本足で立ちあがった。カエサルも背が高いが、ポラリスの方が大きい。ルーカスと同じ紫の瞳は、カエサルを二メートルの高さから睨みつけた。


「お前がミーナを何とかできたら考えてやる」


「お前がサラの手綱を握れるようになったら、考えてやる」


 リーダー同士でバチバチしているのを見て、シオンはドッと疲れた。ミーナはすでにサラと戦闘状態。カエサルも三秒後には戦い始めるだろう。


 となれば、自分は後の二人と一緒に、桜花の相手をしなければならないではないか。


「ナナ、タボ、久しぶりだね!」


「久しぶりだなぁ、桜花!」


 筋骨隆々のタボは、腕を組んで豪快に笑った。制服が破れたら困るからと、上半身は裸の状態で。茶色の肌には、これまでの戦いを物語る傷痕が複数残っている。


 その隣で、こちらもまた筋肉が盛り上がったナナも桜花に笑いかけた。彼女はタンクトップの上に制服をシャツのように羽織っている。制服は動きにくいから、と。


 二人はネロの戦闘民族の出で、幼馴染。優秀な戦闘員だけが許される、きつく編み込まれた三つ編みが、二人の強さを表している。この二人がリンゴなど片手で簡単に握りつぶせることを、シオンは知っている。


「桜花とまた戦えることを、ナナは嬉しく思うぞ」


「ほんと、ほんと? 桜花、いーっぱい頑張るね!」


「桜花、大変言いにくいのだがね……」


 大はしゃぎの桜花に、シオンは恐る恐る声をかけた。


「三対一で、本当に勝つつもりなのかね」


「うん、そうだよ!」


 桜花はシオンに無邪気な笑顔を見せた。


「だってね、桜花はとっても強いんだもん! ぜーんぜん、余裕だよ!」


 そこまで言われてしまうと、シオンもカチンと来てしまう。


 黙ってベルトから針を取り出すと、桜花は嬉しそうに笑った。


「えへへ、シオンも一緒に遊んでくれるんだね! 桜花、嬉しいなぁ。いつも小然(シャオラン)が大人しくしてって言うから、つまんないの。だから、いっぱい遊べて嬉しいな!」


 そういうが早いか、桜花は近くの木を引っこ抜いた。まるで悲鳴かのように、木がメキメキと音を立てて小さな少女に引っこ抜かれる様子を、シオンはポカンと見つめていた。


 話には聞いていたが、まさか……。


「いっぱい遊ぼうね! 早くばてたら、怒っちゃうからね!」


 シオンたちに向かって、木が投げつけられた。


「いっ!?」


「シー坊、下がれ!」


 前に躍り出たタボの拳が、飛んできた木を真っ二つに割った。


「タボ、すごーい!」


 桜花はキャッ、キャッ、と手を叩いて喜んでいる間に、シオンは手に持っていた針を桜花に投げつけた。


 シオンの針には、細工がしてある。小さな返しを付けて簡単には抜けないこと。そして、特殊な毒物が仕込んであること。


 針は真っ直ぐに飛んでいき、桜花の首に確かに刺さった。しかし、桜花は毒の影響を受けることなく、ナナの蹴りを小さな手で受け止めた。


「相変わらずのバカ力だな」


「えへへっ! ナナも相変わらずだね!」


 たった一人の幼い中級魔術師が、一国の中級魔術師三人と渡り合っている。


 その事実に、シオンは音を立ててつばを飲み込んだ。


「なんで毒が効かないのだね」


「だって桜花、みんなとは違うんだもん」


 桜花はケロリとした様子で首に刺さった針を抜いた。


「これが牡丹(ムーダン)とか小然だったなら、危なかったかも」


「よく言うよ」


 牡丹はもちろんのこと、皓然にも、そもそも簡単に針を刺すことはできない。


 だが、もしも。


 もしも、針が刺さっていたのなら。その時は体がマヒして、体は言うことを聞かなくなっている。桜花には効いていないけれど。


「みんなと違うって、噂は本当のようだね」


「あ、そっかー! 去年、シオンはルカにやられちゃったもんね」


 シオンは口を「へ」の字に曲げた。桜花の言う通り、去年はルーカスの不意打ちによってチームで唯一、戦闘不能にさせられてしまった。


 だから、こうして桜花と手合わせをするのは初めてなのだ。


 桜花は制服の裾を掴み、可愛らしくお辞儀して見せた。


「改めまして、僵尸(キョンシー)の黄桜花です。生きてたら牡丹の一個上のお姉さんです、よろしくね」


 僵尸とはいえ、礼儀正しいのは姉弟で同じらしい。


 シオンは新たに針を取り出して構えた。

お読みいただきありがとうございました!

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