71.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
クロエが何者かに誘拐されてしまった。皓然の案内で、最後にクロエがいた場所、占い準備室へと皆で向かったアリスたち。だが、助けに行ったアリスたちまで占い準備室に閉じ込められてしまって……。
「——そりゃ、大変だったねぇ」
談話室でアリスたちの話を聞き、ニコは紫の瞳を丸くした。
この優しそうな顔をした黒髪の魔術師、ニコ・ヤンセンが、最後のレオたちの仲良しさんだった。なぜか、パウラは頑なに彼に近付こうとしないけれど。
「それで、アリスはなんで手を拭いて、レオはティーシャツを拭いてるのさ」
「ミイラに触ったから」
ランフォード兄妹は声を合わせ、それぞれ手とティーシャツをおしぼりで拭きながら答えた。うまく説明できないが、ミイラの体の一部がついていたら呪われそうな気がして。
「とにかく、先生たちに報告すべきではないかね」
「ダメダメ。そしたら、俺らがピッキングしたのバレちゃう」
「したのは君だろ」
「黙って見てたシオンくんも、同罪だと思いまーす」
シオンは舌打ちをして、ニコを睨みつけた。しかし、取り出したスマホはポケットへ。
「しかし、まさかクロエが襲われるなんてね」
ニコがそう言うと、クロエは大きな声で何やら訴え始めた。耳元で叫ばれ、主人の皓然は耳を傷めたようだ。感動の再会を果たしたとはいえ、これはさすがに堪える。
クロエを落ち着かせ、皓然がクロエの言葉を翻訳してくれた。
「藤原姉妹の人形と世間話をしていたところ、急に黒い布を被せられたそうです。それが、この布なんですけど……」
そう言って皓然が、クロエが入っていた袋を取り出した。
それを見て、アリスは目を丸くした。よく、あの状況下でこの布を持って行こうと判断したものだ。アリスなら、絶対に袋のことを忘れてきただろう。
「これ、魔力を遮断するみたいです。巻き込まれた藤原姉妹の人形も一緒に入っていました」
そう言って、皓然が袋から白い紙を取り出した。エキシビションで桃子が偵察用に使っていた、あの人の形に切り取られた紙だ。
「——あ、然くんいた」
そんな声がして振り向くと、そこには瓜二つの顔をした少女が二人。千夜族で、黒い髪をお団子にしているが、それぞれでお団子の場所は左右違っていた。アーモンド形の黒い瞳は、皓然を見つめている。
「クロエちゃんの無事も確認」
右側にお団子をしている方が、クロエを見つめた。
「私たちの人形が、襲われる直前に一緒にいた。ご存知?」
「知ってます。はい、これ」
皓然が人形を差し出すと、左側にお団子をしている方が「ありがと、然くーん!」と笑顔で受け取った。
「ってか、みんなお揃いじゃーん! え、はじめましてー! 藤原紫乃ですー!」
「藤原紫雨。よろしく」
「双子でさー、紫乃は妹ねー! ネロで魔術師やってんのー! ね、シーちゃん!」
「ぼくに同意を求めないでくれたまえ……。あと、シーちゃんも」
「同じクラスじゃんさー! だし、タボ先輩に『シー坊』って呼ばれてっしー」
「私たち、二年生」
アリスとアダンの二人と握手をして、紫乃はシオンの隣に、紫雨はニコの隣に座った。
隣に紫乃がやってきて、シオンは思い切り顔をしかめた。
「ほんとまじビビったー! 紫乃たちはお喋りしてたのー、そしたらさー、急に真っ暗になっちゃってー、魔力が遮断された感じー?」
「犯人の顔は見てないのか?」
パウラが尋ねると、紫雨は首を左右に振った。
「本当に急だった。でも、千夜族ではない。魔力が全く違った」
「クロエも同じこと言ってますね」皓然は頷いた。「ただ、色んな魔力が合わさっているようで、犯人の特定は難しいそうです」
「てかさー、これまじでやばくね? 先生に言った方がいいよね?」
「それは、色々と諸事情があるから、やめて欲しいなぁ」
ニコがそう言ったのだが、紫乃はニヤリと笑った。
「なんか、悪いことしちゃった感じー? なおさら言わなきゃじゃねー?」
「いやいやいや、ただの救出作業よ? 俺らはなんも悪いことしてないって!」
ニコは「ねっ!」とシオンに同意を求めたが、彼は頷かなかった。
「ニコ、もう無理だ。諦めたまえ」
「何の話? 諦めるってなに?」
「紫乃は、人の弱みを握るのが大好きなんだ。もう、先生たちに言ってる。ほら、緊急連絡先にメールアドレスも書かれてただろ」
そう言ったシオンの言葉に合わせ、紫乃はニヤリと笑ってスマホを取り出した。画面には、緊急連絡先のアドレスに宛てたメール文。
「まあ、『人生、諦め大事』って言うもんなー!」
文章を読み終わったニコはさっきまでとは違い、体を伸ばして椅子に体重をかけた。
「——やっべぇ、レグルス先輩に怒られる」
「そ、そこは俺らが上手い具合に言っとくから!」
レオはニコに慌ててフォローを入れた。
「俺らが助けてもらったことに、変わりねぇし。本当に助かったよ、ありがとう」
「どういたしまして。でも、アリスのおかげだよ」
ニコのその言葉に、アリスは首を傾げた。
「私? 何にもしてないよ?」
「思いっきり悲鳴上げてたじゃん。あれで、鍵を開けようって決心がついたんだよね。大変なことが起こっているのかもって。まあ、実際に大変なことになってたけどね」
悲鳴、といえば、握ったのがミイラの手だと分かった時だろうか。
まさか、あのミイラに助けられたとは……。
「あのミイラ、もしかして神聖なものだった?」
アリスが首をかしげながら呟くと、アダンが「まじ!?」と立ち上がった。
「じゃあ、ぼくも触りに行かなきゃ!」
「いや、触んな」パウラはアダンを座らせた。「備品を壊したらまずいだろ。ただでさえ、君は物の扱いが雑なんだから……」
「ぶーっ」
「ぶーじゃない。四歳児か」
そう言いながら、パウラ自身は立ち上がってウロウロと歩き始めた。考え事をする時の、彼女の癖だ。
「占い準備室の鍵を持っているのは、ダリア先生と、占い学を担当している先生たちだけだ。でも、先生たちがどうしてボクらを閉じ込めた? ボクらを閉じ込めた目的はなんだ? まず、クロエの特性を完全に封じようとしてたから、確実にボクらをよく知る人物だ。アエラスの人間? いや、クロエの特性はみんなが知ってる……。そもそも、何でこのタイミングなんだろう。今、この王宮はいつもより魔術師が多い状態だ。その中でクロエを誘拐するだなんて難しすぎる。いや、起きてるんだけど……」
一人で問いを投げかけてツッコミを入れるパウラの足は、メアリーの登場で止まった。
「クロエが誘拐されたって聞いたんだけど!」
「先生」皓然は立ち上がった。「お騒がせして、すみません。でも、無事に見つかりました」
「皓然もクロエも、何ともない? クロエは、何もされてない?」
「少しの間、魔力を遮断する袋に入れられたようですが、問題はなさそうです」
そこで、アリスたちはメアリーに何があったのかを報告した。
話を聞いたメアリーは目を丸くし、それから、怒りで顔をゆがめた。
「なんてこと! 使い魔の誘拐だなんて、とんでもない人間がいるもんだわ! それから、ピッキングもね! 今度から、そういう時は私たち上級を呼ぶこと! いいわね?」
メアリーに釘を刺されたものの、お咎めなしのニコは嬉しそうに「はーい」なんて気の抜けた返事をした。
「この件は、私たちが引き受けます。皓然とクロエは、念のため医務室で診てもらってね。明日に備えて、みんなは早く休みなさい」
「でも、先生……」
アリスはメアリーを見つめた。少なくとも、この王宮にはクロエを誘拐し、自分たちを閉じ込めた犯人がいる。
それに、こういった場合は現場検証などが必要なのではないだろうか。明日もアゴーナスがあるからと言って、アリスたちをそう簡単に帰していいのだろうか……。
「大丈夫よ」
メアリーは笑顔でアリスの肩を叩いた。
「王宮には自動録画機能があるし、防犯カメラもあちこちに付いてる! 私たち上級が動くんだから、犯人逮捕も時間の問題。だから、アリスたちは安心して、ゆっくり休みなさい。ね?」
「はい……」
メアリーに返事をしたものの、アリスの胸は不安と疑問で一杯だった。
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