70.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
明日のアゴーナス二回目に向けて情報交換中のアリスたち。どうやら、フォティア王家とランフォード家の間には、深い溝があるらしいのだが……。
どうやら、アリスが知らない何かが、ランフォード家とフォティア王家の間にあるらしい。
張り詰めた空気を戻したのは、口の周りにココアを付けたアダンだった。
「皓然。ネロの王子って、眼鏡の人だよね?」
「ディスマス王子。お名前は覚えてくださいよ。確かに、眼鏡をかけていらっしゃるけど」
アダンの口周りを拭きとりながら、皓然は肩を落とした。このアゴーナスが終わったら、期末試験があるのに……。どうやら、もう一度、このテストもアゴーナスと同じくらい頑張らなければならないのだ、と教えないといけないようだ。
「ディスマス王子は、物凄い秀才です。ぼくらと一つしか変わらないのに、有名大学の教授と毎日ディベートをして、商売についてお勉強されているようですよ」
「皓然たちと、どっちが先輩?」
「ディスマス王子。フォティアのジャン王子は六年生、ディスマス王子は四年生。ガイアのソフィア姫はぼくらと同じ三年生で、オリヴィア姫は二年生。これくらいは覚えててもらわないと、困りますよ」
「はーい。なんか、うちの姫様だけ歳が離れてるんだね」
アエラス国王には、一人娘がいる。つまり、姫君。
マヤ姫、九歳。しかし、魔力を発現してからというもの、口を利かないし、動こうとしない。しかし、何か発達障害があるわけでは無いらしく、ただ、意識がはっきりしていないのだという。
国王と王妃は、そんなマヤ姫をとても可愛がり、大切にしている。
それに、国民も。魔力発現後、意識がはっきりしない子供は稀にいるからだ。それに、そういった子は大抵、十三歳頃には意識がはっきりし、他よりも高い魔力レベルを持つことになる。
「陛下は、他国の女王、王よりお若いですから。ご成婚も少し遅かったです、し……」
そう言って、急に皓然は黙りこんでしまった。
アリスたちが声をかけると、ハッとしたように立ちあがった。顔が少し引きつっている。
「明日も早いので、ここらで終わりにしませんか?」
「それもそうだけど……」
「それじゃあ、また明日」
そう言って彼が向かったのは部屋ではなく、玄関だった。
「皓然!」
流石にパウラも立ち上がり、彼の後を追った。
「何があった! 君が焦るなんて、よほどだろ!」
「……クロエと、切れた」
そう言って振り向いた彼の目には、涙が浮かんでいた。
「急に、クロエの存在を感じなくなった! きっと、何かあったんです!」
「なら、なおさら一人で行くんじゃない! みんなで行くぞ! クロエが最後にいた場所は?」
皓然は頷き、みんなの先頭を走り出した。アリスたちはその後ろに続く。
それにしても、皓然があんな顔をするなんて……。そして、あのクロエに何かあったのだとしたら、大事件だ。使い魔たちの世話をしているから、クロエがしっかり者であることはアリスも知っている。見境なく、光物を持ってきてしまうけれど。
アリスたちは皓然の案内で王宮内を走り、一つの部屋にたどり着いた。占い準備室だ。
皓然はそこを勢いよく開けると、「クロエ!」と大きな声で叫んだ。
「クロエ! いるなら返事して、クロエ!」
すると、部屋の奥から弱々しいカラスの声が聞こえてきた。
電気をつけて、声がした方へ行ってみると、そこにはゴソゴソ動く黒い袋が転がっていた。
袋の口は堅く結ばれていて、皓然はベルトに付けていたナイフを使って袋を引き裂いた。
「——クロエ! 怪我はない、心配したんだよ!?」
袋に入れられていたのは、クロエだった。
袋の中は空気が薄かったのか、かなり弱っているが、命に別状はなさそうだ。
アリスたちがホッとする中、皓然は涙ながらにクロエを抱きしめて笑っていた。クロエが苦しそうにしていても、力強く抱きしめて。
「それにしても、一体誰がこんな……」
レオがそう言った瞬間、蛍光灯が割れて明かりが消えた。それに、バンッと勢いよくドアが閉まる音も。
「マジかよ!」
慌ててレオはドアを開けようとしたが、鍵をかけられたのか、ドアはビクともしない。
「おい! 開けろ!」
「誰かいませんか!?」
兄妹でドアをたたくが、ドアは開かない。
閉じ込められた。
それを理解した瞬間、皓然が「すみません!」と叫んだ。
「いや、君らは何も悪くない」
こんな状況でも冷静なパウラの声が聞こえてきた。
「ボクらを閉じ込めた奴、クロエを襲った犯人だろ。さて、どうしたもんか……」
「うひゃあ! パ、パパパ、パウラ! ここ、水晶玉で一杯だよ!」
「占い準備室だからな」
「なんで冷静なんだよおっ!」
「冷静にならないと詰むから」
パニックになっているらしいアダンの声も聞こえてきた。だが、まだ目が慣れていないから、アリスにはただの暗闇しか見えない。ドアまで来れたのは、アリスは部屋に入ってすぐの場所にレオと一緒に立っていたからだ。
「とりあえず、分かったことがある」
暗闇から、パウラの声と指を鳴らす音が聞こえてきた。
「犯人がクロエを捕まえたのは、特性を封じるためだ。電気を壊したのもね。皓然とクロエが別の場所にいたんじゃ、特性で抜け出されて終わりだ。対して、今の状況。暗闇じゃ影は出来ないから、窓からクロエを出したって特性で出られない。そもそも、弱りすぎて飛べなさそうだったし」
「冷静だけど詰んでるじゃん!」
ついにアダンは泣き言を言いだし、アリスは手さぐりにレオを探して手を握った。手汗がひどいけれど、レオが相手なのだからいいだろう。
そう思っていたのに、レオは手を握り返してくれない。
「お兄ちゃん、手ぇ握り返してよ!」
「はあ? 俺、握られてないけど?」
では、アリスが握っているのは?
その瞬間、部屋全体をほのかに照らす光が現れた。光の元を持っているのは、クロエを肩に乗せた皓然。小さな懐中電灯を持っていたようだ。
その光の中で自分の手元を見て、アリスは悲鳴を上げた。
アリスが握っていたのは、サルのミイラだった。
「ぎゃああ! 変なの触っちゃったああ!」
「うわああ! 人の服で手を拭くなああ!」
今度こそレオを見つけたアリスは、レオのティーシャツに手をこすりつけた。
レオはアリスを捕まえると、まるで盾にするようにアリスを自分とミイラの間に立たせた。レオは、こういう怖い物が大嫌いだ。
「あ、影できますね」
「皓然も冷静かよぉ……」
レオの背中にくっつき、アダンは涙を流していた。
その瞬間、ドアからガチャガチャと音が鳴り響き、アリスたちはビクッとした。
さっきまで涙を浮かべていたのに、皓然はすぐに反応してアリスの前に立ってくれた。後ろの男子二人より、よっぽど頼りになる。
ガチャガチャいう音はどんどん大きくなっていき、しまいには「ガチャッ」と鍵が開く音がした。
皓然はもしもの時に備えてナイフを構えていたが……。
「あれ? 君ら何してんの?」
「え、ニコ……? シオンも」
ドアを開けてくれたのは、アエラスの魔術師ではなく、フォティアとネロの魔術師だった。
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