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69.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 アゴーナスの前半戦、迷路が終了し、アリスたちは好スタートを切ることが出来ていた。さらに、ガイアの姫であるオリヴィアと、その護衛騎士であるディルの二人とも交流することができた。

 二日目に向けて、アリスたちはチーム内で情報共有をすることになり……。

「——お疲れさまでした。大変な迷路だったでしょう」


 魔術師たちが全員返ってきてから、ダリアはモニター越しに魔術師たちを見つめた。


「皆さん戻られたところで、中間発表と参りましょう。現在、エキシビションと迷路を合わせた総合得点の順位です」


 画面が切り替わり、順位と魔術師の名前、それから獲得ポイント数が現れた。


 一位から三位までは、フォティアの上級見習いたち。全員二千ポイントを有しているから、この三人が、前に桃子たちが言っていたフォティアの上級見習いだけで作られたチームだろう。一位のヴィトゥス・クックという人は、三千ポイント越え。優れた判断・行動が評価され、千ポイントは自力で稼いだことになる。


 四位がローガン、五位牡丹、六位ラファエル、といったように、しばらく上級見習いたちの名前が並んだ。


 それが終わったら、次は各国の姫、王子の名前が来た。苗字が国名だから、名前を見ればどこの王族か分かる。十四位はネロのディスマス王子。十五位はガイアのオリヴィア姫、十六位はその姉、ソフィア姫、十七位にディル。それからさらに進み、パウラたちの名前のさらに先に、フォティアのジャン王子がいた。アリスたちの体から自由を奪い、真っ先に迷路に入って行った金髪青年だ。


 アリスたち一年生は、やはり下から数えた方が早かった。それでも、アリスたちは、新人にしては良い成績らしい。エキシビションでもらった得点もあり、三九三人もいる魔術師の中で、アリスたちは二百位代前半をキープしていた。


「とはいえ、これは中間発表です。上位者は明日のアゴーナスで気を抜かぬよう、下位者は、巻き返せるよう、万全の準備をして来てください。それでは、一日目はこれで終わります。お疲れ様でした」


 簡素な言葉をもらって、魔術師たちはそれぞれ動き出した。ほとんどの魔術師は、これから食堂へ行って夕食を確保する。だから、アリスたちは部屋に戻って、冷蔵庫に入っていたパンや、即席麺などで腹を満たした。


「さて、みんなお疲れ様」


 食後の紅茶を淹れて、パウラは仲間たちを見つめた。


「特に、アリスとアダン。君らはエキシビションもあったし、余計に疲れただろ」


「うん。もう眠たいよ」


 そう言って、アダンは大きなあくびを漏らした。


「でも、パウラに今日は優しくしてもらったから、良い日だね!」


「いつだってボクは優しいけどな」


 紅茶をすすり、パウラは目をこする一年生たちを部屋に戻していない理由を発表した。


 つまり、明日のアゴーナスについて。


「毎年、チーム対抗のゲリラ戦があるって、前に話したな。今日の迷路は、いつもと違う。だから、明日がそのゲリラ戦だと思うんだ。何百とあるチームのどこと当たるかは、分からない。それで、『このチームに当たったらすぐ逃げる』っていう、超危険なチームについてだけ、説明する。だから、寝るんじゃないぞ。君らが授業中にウトウトしているの、知っているからな」


 最後の一言にピンと背筋を伸ばした二人を見て、先輩たちは一斉にため息をついた。


「じゃあ、まず。アリスが思う危険なチームは?」


「えっ」


 予想もしていなかった質問に、アリスはビクッと体を跳ね上がらせた。


「えーっと……。ラファお兄ちゃんたち? 上級見習いがいるチームかな」


「正解。四カ国すべてに、上級見習いがいる。でも、一カ国につき一から二チームだ。まず、うちのローガンチーム。メンバーは、リーダーのローガン、牡丹(ムーダン)、ラファエル。アエラスはこの三人だけ。でも、全員がすごく強い。ローガンは判断力がずば抜けてる。瞬時に状況を理解して、的確な指示を出す。おまけに、家系特性の『指揮者』を使われたら、その瞬間にゲームオーバー。ボクらは、まつげ一本自由に動かせず、アイツの操り人形になる」


 その言葉に、アリスは音を立てて唾を飲み込んだ。どうやら、とても大変な人に喧嘩を売ってしまったようだ。


「次、牡丹だけど——」


「姉さんは、攻撃と回復、サポートの担当ですね」


 その牡丹の弟、皓然は顔をしかめた。


「ちょっとした怪我や傷なら、すぐ治されます。白夜の特性は自然回復を促しますからね。姉さん自身は、肉弾戦の出来る式神使い。式神たちに邪魔されて、姉さんに近づくことすら困難です。近づけても、薙刀なんて振り回してくるし。とにかく間合いに入れてくれない」


「ぼくらが遠くから攻撃するのは?」


 アダンの提案に、レオは首を横に振った。


「去年、俺の『百発百中』を防がれた」


「じゃあ、もう『百発百中』って言えないじゃん! 『九割五分』じゃん!」


「だから、やばいんだって! つまり、魔術も牡丹の方が上ってこと! 俺の家系特性は無効化されて、叩き落されたの!」


 レオは頬を膨らませ、肘をついた。去年の屈辱を思い出しているのだろう。


「で、レオ。ラファエルについて」


「……兄ちゃんは、自然をうまいこと利用してくる」


 パウラに答えて、レオはため息をついた。


「頭の中には、ありとあらゆる知識が詰まってる。錬金術はゼロから物を作り出せないけど、その欠点を知識でカバーしてる。錬成陣を書く暇がなければ、特性を使ってくるだろうし」


「そうだな。さて、アリス。ラファエルの家系特性は?」


「えーっと……。『創造』だっけ?」


「正解。家系特性『創造』は、ポポフ家の特性。錬金術と同じで材料がなければ作れないが、材料と設計図が頭にあれば、錬成陣無しで何でも作ることができる。ラファエルが毎日のように機械を解体、組み立てをしているのは、その設計図を頭に落とし込むためだ」


 あの楽しくもおかしな兄の行動には、そんな秘密があったらしい。


「ところで、錬金術って?」


「鉛とか石を、金や銀に変える術です」と皓然。「簡単に言えば、ですけど。錬金術の基本は同価交換。さっきレオが言っていたように、ゼロから物を作り出せないんです。錬金術師たちの目的は、賢者の石を作り出すことです」


「賢者の石?」


「物質変換を促すとされている、伝説の物体です」


「へ、へえ……?」


「話を元に戻すぞ」


 手を叩き、パウラはみんなの意識を現在に戻してくれた。


「ネロの上級見習いは、三人。まず、カエサル・バローネ。エルフと人間のハーフ。シオンがいるチームのリーダーだ。それから、千夜族の恵滋(えじ)澄玲(すみれ)()瑾萱(ジンシュエン)の二人。チームには、他に中級が二人。こっちも実力者だ。ガイアも三人。()梓睿(ズールイ)、ロー・ティ・ホア、エルダー・ソウザ。さて、それぞれ誰のお兄さん、お姉さんでしょう」


「はいはーい!」


「アリスに答えてもらいたい所だけど、アダンどうぞ」


「梓睿は俊宇の兄さんで、ホアはニャットの姉さんで、エルダーはディルの兄さんです!」


「はい、大正解。よくできました」


 パウラがアダンに拍手を送る中、アリスは首をかしげていた。


「パウラ先生、質問!」


「はい、アリス。どうぞ?」


「どうして、俊宇たちは兄弟なのに別の国に仕えているの?」


 アリスたちのように、祖父も親も、兄妹全員も……、一家で一つの国に仕えている、というのが普通だと思うのだ。魔術師になるには、その国の国民になって何年以上、だとか、色々と決まりがあったような気がする。


「良い質問だ。答えは簡単、君らと同じ推薦枠で国に仕えているから」


 パウラはアリスに笑いかけた。


「梓睿とホアは魔法使い時代から優秀で、複数の国から声がかかっていた。二人は、自分が学びたいこと、将来のこと、色々と考えた結果、ガイアに仕えることを決めたんだ。李家もロー家も、アエラスの千夜族(ちやぞく)だけどね」


「それ、国民が怒らない?『うちの国を見捨てて!』みたいな」


「怒らないよ。特に、千夜族は。千夜族は基本、フォティアとアエラスにしかいないんだ。だから、ネロとガイアが毎年のように千夜族を引き抜こうとする。そのために、色々と良い条件を付けてくれるんだよ。それに、推薦で他の国仕えをした魔術師は将来、外交官になるっていう暗黙の了解がある。だから、国民たちは怒らないんだよ」


「へえ」


「とはいっても、相当優秀じゃないと無理だけどね。——最後、フォティアも上級見習いが三人で、チームを組んでる。リーダーは占い学の申し子ヴィトゥス・クック。千夜族で昆虫学者の胡蝶(こちょう)(ひらり)、天文学者のレグルス。この三人だ。ローガンたちと、とにかく仲が悪い。顔を見たら殴り合うくらいには仲が悪い」


「相当だね……」


 ローガンは今日会ったばかりだから分からないけれど、普段は温厚な牡丹とラファエルが顔を見て殴りかかるなんて、考えられない。


 特に、ラファエル。兄妹で小さい頃から一緒だから、なおさら兄が他人を殴っているのが想像できなかった。


「——言っとくけど、兄ちゃんが一番、あの中で気性が荒いから」


 レオまでこんなことを言い出すなんて、アリスには全く予想もできなかった。


 確かに、怒ったらとても怖いけれど……。


「あと注意するとすれば、ディルたちですかね」


「そうだな」


 レオは腕を組み、天井を仰ぎ見た。


「ディルとニコとシオン……。シオンはカエサルの所だけど。あと、個人的に俺が危ないなって思うのは、ヒューとニャットの所かな」


「同感です。一年生たち、想像以上に勢いがありますもんね」


「桃子の家系特性は強力そうだし、ユーゴも剣の腕がかなり立つもんな」


 パウラもうなずき、紅茶をすすった。


「足元をすくわれないようにしないと。それから、王家がいるチームと、ルカ兄さんの所。……個人だけど、サビーナ・カーロ・ヴェナ」


 それには、アリスだけでなく、アダンも首を傾げた。


「二年生のサビーナだよね? 占い学のファビアン先生の付き人」


「ああ、そうだよ」パウラは頷く。「あの子、何か危なっかしいんだよなぁ……。謁見式の時から、君らの近くにいるのをよく見かける」


 それには、さすがに大きな声が上がった。だって、アリスもアダンも、そのことには一切、気が付いていなかったから。


「ス、ストーカーってこと?」


「ぼくのファンってこと!?」


「ファンではないと思いますけど」


 二人を落ち着かせ、皓然はココアを淹れてきてくれた。しかも、クリーム付きで。


「ストーカーに近いような気はしますね。ただ、誰のストーカーなのか分からないんです。君たちの近くにいるのは分かるんですけど、いつも一緒にいるから」


「だって、ぼくらは仲良しだからね!」


 勢いよく組まれたアダンの肩からそっと抜け出して、「そうだね」とアリスは頷いた。アダンだけでなく、桃子たちとも仲が良くて、一緒にいるのは認める。


 それにしても、そんな怖い人がいたとは……。パウラたちも、誰を狙っているのかが分からず、気に掛けることしかできなかったのだろう。それに、アリスたちに実害が出ているわけではないし、たまたま近くにいただけかもしれない。だから、サビーナに注意することも、先生たちに報告することも出来なかった。


 ただ、パウラの変な勘というものは当たるし、今回は皓然とレオもサビーナを注意しているのだから、アリスたちも気を引き締めていた方が良さそうだ。


 ココアを飲みながら、アリスはそんな風に思っていた。サビーナの風貌を知らないけれど。


「そう言えば、話しは変わるんだけど……。今日、私たちを入口で足止めして迷路に入って行ったのは、誰? フォティアの王子様?」


「まあ、そうですね……」皓然は苦笑いを浮かべた。「フォティアのジャン王子です。魔力レベルは、今の姫、王子の中でもトップクラスです。あの時、誰も立ち上がれませんでしたもんね」


「うん。でも、瞳の色は緑だった。お父さんとラファお兄ちゃんみたいな……」


 アエラス国王も、オリヴィアも、ヘレナとレオも、空のような青い瞳を持っている。


 ステンドグラスのユリアと同じ、透き通るような、紫を混ぜたような、綺麗な青。


 だが、ジャンというフォティアの王子は、エメラルドのような緑色の瞳だった。さっきも言ったが、ルイスとラファエルの親子と同じ。こちらも綺麗な色であることに、違いはないけれど。


「——それだけじゃない。ジャン王子の家系特性は『百発百中』じゃない」


 肘をつきレオは遠い目をした。


「後継ぎは、金髪碧眼と王家の特性を持っていないといけない。今の所、フォティア王家の血筋でその条件がそろってるのは俺とヘレナだけだ」


「じゃあ、お兄ちゃんが……?」


 後継ぎ王子?


 レオと正反対な言葉が繋がりそうになっている。


「死んでも嫌だね。そうなったとしても、過保護のパメラ王妃に殺されて終わりだ」


「そんなこと、言ってていいの? 一応、親戚なんでしょ?」


「大丈夫。あっちは、俺らを親戚だと思ったことは一度もないよ。いつ、俺らが王位を奪いに来るのかって、気が気じゃないだろうから」


「そんなことしないのに」


「しなくても、ジャン王子に条件がそろっていないから、不安になるんだろ。パメラ王妃は、それが心配すぎてジャン王子を過保護に育てた。おかげで、ジャン王子は王族としても許されない人間に育った。フォティアの奴らの前では、死んでも言えないけどね」


「そう言えば、あの王子様は迷路に入って行ったよね」


「まあ、ちょっとばかし……、良い意味で真っ直ぐというか、な?」


 パウラは難しい顔をして、頭を指さした。


「魔術の腕は確かだよ。上級でも扱うのが難しい天候魔術を、四年生で習得したくらいだ」


「俺は二年生で習得したけどな」


「張り合うなよ。王子のことが苦手なのは知ってるから」


 パウラはため息をつき、レオはムスッとして窓の外を眺めていた。


 どうやら、アリスが知らない何かが、ランフォード家とフォティア王家の間にあるらしい。

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