63.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
ついに始まった、アゴーナスのエキシビション。良いスタートダッシュをきれたアリスたちだが、このまま作戦通りに最後まで残ることができるのか……?
現在、すでに四組が宝探しを終えて戻ってきている。
ネロが一組、フォティアが二組、ガイアが一組。今の所、アエラスのチームは一組も成功していない。だが、最後の一組はアエラスのチームになりそうだ。
最後の鍵を持ってるのがアリスたちで、最後の宝箱を持っているのがルイーズたちだからだ。この両者がぶつかり合ったとしても、最後まで気を抜かずにダリアの元まで戻ることが出来れば、アエラスからも成功チームが出る。
とはいえ、まだ他にもチームはいくつか残っている。今年はフォティアとガイアの一年生が強いようだ。ネロの一年生は一組、アエラスはアリスとルイーズの二組のみであるのに対し、フォティアとガイアはそれぞれ三組が生き残っている。
だが、これはアリスたちの生存確率が高いことを示している。
だって、アリスは腐ってもフォティア王家の血筋だから。国王を崇拝するフォティアの魔術師たちは、まずアリスのことは狙わない。非公認とはいえ、国王の姪孫であることに変わりない。だからと言って、助けてくれるとも思えないけれど。
空中に映し出されているアリスたちを見ながら、レオはそんなことを考えていた。
レオたちが初めて出場したアゴーナスは、フォティアで行われた。一年生だけで組まれたチームであるにも関わらず、レオたちがそれなりの功績を残せたのは、それのおかげでもある。だから、依頼件数が少なくても無事に進級することができた。
映像の中でアリスたちがネロのチームを撃破すると、会場が大きく揺れた。ネロの魔術師たちが悔しみの声を上げ、他三か国の魔術師たちは完全に試合を楽しんでいた。どんな競技でも、人間は得点が発生すると盛り上がるらしい。
その一方で、フォティアとガイアの魔術師たちがぶつかり合っていた。
魔術のフォティアと、武力のガイア。両者とも一歩も譲らないこちらの試合にも、みんな目を奪われているようだ。
だが、レオが気にしているのはそこではなくて……。
「このまま行けば、アリスとルイーズで一騎打ちだね」
「エ、エスコおじさん! じゃなくて、先生……」
まるで自分の心を読んだかのような発言に驚き、レオは飛び上がってしまった。しかも、公爵の先生を「おじさん」呼ばわりだ。
本来なら怒られるところだが、この先生は「久しぶりだね」なんて屈託のない笑顔を浮かべた。
ルイスとアンのチームメイトで、昔から何かとランフォード家にも来ていた上級魔術師だ。幼い頃から、エスコにはたくさん遊んでもらった。もちろん、アリスも面識がある。
「ごめん、ごめん。私も忙しくて、すぐ挨拶に来れなくて悪かったね」
「いえ、別に……。こちらから出向くべきだったのに、すみません」
「固いってー。私とお前の仲だろ? いつもみたいに話してくれよ」
「いえ、ここは王宮ですので」
キッパリと断ったレオに肩をすくめてから、エスコは近くにいたパウラと皓然にも挨拶した。もちろん、笑顔で。
「にしても、しばらく見ないうちにアリスもでかくなったね。謁見式の時はビックリしたよ」
「それ、本人に言ったら喜びますよ」
「『少し前までちびっ子だったアリーはどこかな?』って言ったとしても?」
「それは怒られますよ」
「だよね。本当、子供って少しの時間で顔つきまで変わっちゃうんだね」
「それも怒られますよ。『子ども扱いしないで!』って」
「年頃の女の子ほど、複雑な心理状態をしているよね」
文字通り手をあげたエスコはレオの隣に腰かけ、「ねえ、パウラ」と自身の付き人に笑顔を見せた。
「何ですか」
冷ややかな目のパウラに、エスコは構わず「この試合、どうなると思う?」と尋ねた。
「アリスたちは、作戦通りに動けるかな?」
「動けると思いますよ。フォティアとガイアで潰し合っているし。今の所、ユーゴの特性が上手いことはまっているように見えますから」
アリスたちが立てた作戦。それは、ユーゴの家系特性を使って宝箱を持っているチームを割り出すこと。
桃子が飛ばしていた人形から生き残っている魔術師を調べ、その人に特性で宝箱を持っているのか直接脳に語り掛ける。それが、『以心伝心』という、プィチ家の特性だった。何度も家系特性を使っているのに魔力不足になっていないのは、アリスとアダンの二人が魔力を分けてるから。
そして、アリスたちは全員が偽物の鍵を持ち、相手をかく乱させる。追いかけるべき人が分からないでいる間に、お互いを助け合いながら相手を倒す。まさに、チームワークと作戦を活かしている戦い方だった。
「でも、ぼくは不安ですよ」
そう言って、皓然はため息をついた。
「よりによって、最後の敵がルイーズたちだなんて。きっと、本気で潰しに来ますよ」
「こういう競技だから、私たちも怒れないしね」エスコは肩をすくめた。「医務室で治してもらえるような怪我なら、失格にもならない。前回の一件で、ルイーズは屈辱を味わわせられて、気が立っているしね。お母様からきつく絞られたそうだよ」
レオと皓然はその情報に頭を抱えたが、やはりパウラはケロッとしていた。肩の上で栗を食べている使い魔と笑いあってから、エスコにも笑顔を見せた。
「先生、アリスのことをいつまでも子供だと思っているでしょ。アリスは、結構ズケズケとモノをいう子ですよ。煽り上手です」
「おや、それは楽しみだ。父親の英才教育のお陰かな」
肘をつき、エスコはニヤリと笑った。
***
「——他は、ルイーズちゃんたち以外にいないみたい」
人形からの報告を受けた桃子の言葉に、アリスは思い切り顔をしかめた。よりによって、面倒な人たちが残ったものだ。
こちらは六人、あちらは五人。人数ではこちらの方が一人分有利なのだが、実力はあちらの方が上だろう。
何せ、ルイーズたちはみんな貴族だ。貴族は総じて質の良い魔力を持ち、強力な魔術を扱える。だからこそ、過去の大戦で何度も武勲を上げて今の地位を築き上げることができた。
——と、レオが言っていた。だから、貴族や政治家の家は上級魔術師家系であることが多いのだと。
だが、こちらにはエルフのアダンがいるし、千夜族も二人いる。ユーゴとセレナの二人は戦闘能力が高いので、ルイーズたちにひけは取らないはずだ。
多分。
問題は、アリス自身だ。家系特性を使ったことはないし、得意魔術は防御魔術のみ。攻撃魔術など、これまでに一度も使ったことがない。みんなから離れた瞬間、アリスの生存確率はグッと下がる。今の所、まだ鍵を見つけた以外で目立った行動も出来ていないので、何とかしてルイーズ戦で巻き返したいところだ。
どんなに嫌でも、ルイーズたちとの戦闘は避けられない。
ルイーズたちの様子を探るため、アリスたちは移動し、七階の広場にたどり着いた。いくつもある廊下の合流地点で、他よりもずっと広い作りになっている。桃子の人形は、ここでルイーズたちを見失ってしまったらしい。
「とりあえず、固まって動こう。相手はあのルイーズたちだし、バラバラにされたら勝率が一気に下がっちまう……」
ユーゴが言葉を言い終わらないうちに、アリスたちを爆発が襲った。しかも、壁や天井に跳ね返されないよう、ローズが入れられていたような魔力の壁で覆われている。
「……みんな、無事?」
「なんとか!」
いち早く反応して防御魔術を展開してくれた俊宇に、桃子はせき込みながら答えた。
この爆発の犯人が誰か何て、考えなくても分かる。
「固まれ!」
「させねーよ」
ユーゴに短剣で襲い掛かったのは、取り巻きの一人で唯一の男子、ジョージ・クラーク。アリスの記憶が正しければ、子爵家の息子。
ジョージの攻撃を剣で弾いたユーゴは、そのまま彼との戦闘に入ってしまった。
そのフォローに桃子が入ろうとした瞬間、アリスたちは一斉に別の方向へ飛ばされてしまった。その瞬間、アリスの頭に一言だけ浮かんだ。
——誘い出された。
ルイーズたちの目的は、アリスたちをバラバラにして確実に一人ずつ潰すこと。そうすれば、強みのチームワークを封じることができる。
それに……。
床に投げ捨てられたアリスがあまりの痛みに動けずにいると、ヒールが床を叩く音が近づいてきた。
「良い眺め。——ねえ、ランフォードさん?」
「ルイーズ……」
煤だらけのアリスを見おろすのは、やはりルイーズだった。
アリス一人になれば、ルイーズは好きなように憎たらしいクラスメイトを痛めつけることができる。誰にも邪魔されずに。
サッと見回すと、桃子たちにもそれぞれ相手が用意されているらしかった。
桃子の相手は、子爵令嬢のソニヤ・プハッカ。薄い茶髪に紫の瞳、それから眼鏡をかけている。確か、召喚魔術が得意。
セレナの相手は、あのアメリ・フォン・ウェーバー。噂では、セレナに直接指示を出していたらしい、伯爵令嬢。植物関連の魔術が得意だったはずだ。
アダンと俊宇の相手は、体の大きなレティシア・ド・エルフェ。ルイーズの父方の従姉妹で、伯爵令嬢。エルフェ家は軍人家系。そのせいか、レティシアはレスラーのような筋骨隆々とした体をしていた。リボンを編み込んだ黒髪を払い、小さな男子二人を見おろしている。
そして、ユーゴの相手はジョージ。ジョージはとにかく身軽な、レティシアと同じく軍人家系。だが、優秀な姉と違い、ジョージはとにかく甘やかされて育ったらしい。そんな彼の姉は、どういう因果か、ラファエルの同級生の中級魔術師だった。
ルイーズたちのことだから、どこかで必ず仕返しをしてくるだろうと踏んでいた。だから、アリスは彼女たちのことを調べていたのだ。パウラたちチームメイトや、王宮生活が長く、情報をたくさん持っているアダンたちに教えてもらい、予習はバッチリだ。
それを活かせるかは、まだ分からないけれど。
とにかく今は、目の前の相手に集中した方が良さそうだ。
アリスは静電気を発生させながら立ち上がり、ルイーズを正面から睨みつけた。
***
「斎家の方と手合わせできるとは、光栄です」
ソニヤは眼鏡を押し上げ、桃子を見つめた。
千夜族はもちろん有名だが、斎家はその中でもさらに有名な方と言えるだろう。今の斎家当主——つまり桃子の母親は、先代国王の命令に背いた罰で魔術師をクビになった人物だからだ。そのため、千夜族でも珍しい中級魔術師止まり。
しかし、その実力は折り紙付きだ。もちろん、その娘である桃子も。
「私は、ソニヤちゃんと戦いたくないなー」
桃子は微笑んだが、目は笑っていなかった。自然と、梅の人形を抱く手に力が入る。
プハッカ家の家系特性は、『召喚』。ありとあらゆる生き物を呼びだすことができる特性だ。その代わり、術者が操れるレベルまで、という制限がある。
もし、ソニヤが桃子以上の実力者であった場合、桃子に勝ち目など一つもない。
「そんな悲しいこと、言わないでくださいな」
ソニヤは胸に抱いていた分厚い本を開き、浮かび上がった白い魔法陣から四匹の妖精を呼びだした。眼を見開く桃子に、こちらは余裕の笑みを浮かべる。
「私の『召喚』と、あなたの黒魔術まがいなお人形。どっちが上か調べましょうよ」
「……うちの子たち、結構ヤンチャでさ」
桃子の手から人形が空気に溶けるように消え、代わりに彼女の背後に現れた白い魔法陣から、三メートルはありそうな人形が三体、ゆっくりと這い出てきた。全て黒髪で、顔には白い面を付けている。
一体は、松の柄の着物を着て、笑っているように見える面を付けた人形。手には錆びついた包丁を持っている。包丁からは赤黒い血が滴り落ち、綺麗な床を汚していく。
二体目は、竹の柄の着物を着た人形。他二体と違い、黒い髪を一つにまとめ、泣いているような顔の面。泥で汚れたライフルをソニヤに向けた。
三体目は、他の二体より小さくて、梅の柄の着物。右は笑っていて、左は泣いている面。この人形だけ何も持っていないが、桃子のことを後ろから抱きしめて放さないでいる。
そんな人形たちに囲まれる桃子は、冷たい笑みを浮かべた。
「ソニヤちゃんのプライド、バキバキにへし折っちゃうかも。悪いけど、責任はとれないよ。だって、黒魔術まがいな家系特性なんだもん。まだ研究が追い付いてない分野だから、仕方ないよねぇ?」
「ご心配、ありがとうございます。でも、あなたが私に勝てるわけがありませんから、ご自分の心配をなさった方が良いと思いますよ」
「あー、ないない! だって私、ソニヤちゃんよりすっごく強いもん! 今分かったんだけどね」
桃子のその言葉に、初めてソニヤの顔から笑顔が消えた。
「何をおっしゃっているのかしら。別世界育ちのあなたが、私に敵うわけありません」
「あははっ! そっちこそ、何をおっしゃるー!」
ケラケラ笑う桃子に腹が立ったのか、ソニヤは妖精たちに桃子を攻撃するよう指示した。
だが、妖精たちの魔術は全て松と竹の人形たちに防がれてしまった。しかも、人形たちには傷一つ付いていない。
「——『召喚』で呼び出せるのは、術者が操れるレベルのものまで」
その言葉に、ソニヤの顔が引きつった。
「操るって言うのは、『力を貸してもらう』のと違って、術者の魔力を使って使役している状態に近い。無理やり、上から抑え込んでいるような感じ? でも、ソニヤちゃんの妖精たちは、そこまで強く使役されてないっぽいね。瞬間的にしか使役されてない。つまり、未完成な使役術ってわけだ。四匹呼び出すだけで精一杯?」
「お黙り! 別世界出身者が!」
そう叫んだ瞬間、ソニヤは心底後悔した。
桃子の瞳が、これまで見たこともないほど冷たい光を灯したから。
「——別世界のこと、バカにしてたら痛い目を見るよ?」
桃子の笑顔に背筋が凍り付き、本能的に後ろに下がったソニヤに、松の人形が迫った。目の前には、不気味な面がある。どんなに逃げても、人形はずっと後をついて来る。
この状況を何とかしようと本を再び広げようとしたソニヤだったが、銃弾が本を貫いた。竹の人形が放ったものだ。
「私の人形たちの中に入っているのは、『怨霊』って呼ばれる子たち。黒魔術の一歩手前。お松ちゃんはね、ずっと信じていた恋人に裏切られて、悲しくて無理心中しちゃった子なの。だから、ほら。その恋人さんもお松ちゃんから離れられてないでしょ?」
松の人形から離れたソニヤは、桃子の言葉に思わず松の人形を観察してしまった。
ソニヤのこれまでの人生で、こんなに恐怖を感じたことはない。
松の人形が持つ包丁から滴り落ちる血。永遠と流れているその血は、その恋人の血だった。雫一つ一つに男性の顔が浮かび上がり「悪かった、許してくれ」と訴えながら、床に落ちていく。血だまりは人の体になり、許しを請いながらソニヤに襲い掛かってくる。
「ひっ……!」
「あーあ。憑りつかれちゃった」
恐怖で顔を引きつらせ、尻もちをついたソニヤは人形と血から逃げようとバタバタと動き出した。しかし、体は一個も進まない。
それで振り向いたのが、運の付き。
ソニヤの足首を、梅の人形が掴んでいたのだ。ひんやりと冷たい手は、強い力でソニヤの足をつかんで離さない。
「は、放しなさいよ!」
人形を振り払おうとしたソニヤの手は梅の人形の面をはぎ取ってしまい……。
次の瞬間、ソニヤの体から力が抜け、倒れこんでしまった。召喚された妖精たちは消え、力なく目を開いて、泡を吹いて気絶したソニヤだけが、そこに残された。手足はピクピクと痙攣しているので、生きていることは分かる。
そんなソニヤに、桃子は微笑みかけた。
「ほら、バカにしてるから痛い目に遭った」
桃子の目の前から、ソニヤの体は消えた。
「みんな、お疲れ様」
桃子がそう声をかけると、人形たちはいつもの姿に戻った。元の、三十センチほどの怖い人形に。松と竹の人形は魔法陣の中に消えていったが、梅の人形は桃子の手の中に納まった。
あの人の形をした血の塊は、叫び声をあげながら松の人形に吸い取られて消えていった。
五分にも満たない戦いだった。
桃子は、自分の周りを飛び回っていたカメラに、憎たらしいほど可愛らしい笑顔を見せた。カメラの向こうで驚いている人たちがいるとも知らずに。
「——お、ラッキー!」
梅の人形が首を動かした先にあった物を見て、桃子はさらに笑顔を深くした。
そこには、白い宝箱が転がっていた。
お読みいただきありがとうございました!




