53.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
次なる依頼は、共同依頼。そのパートナーとなるチームは、初代「あまりもの組」である、ルーカス・ツヴィングリが率いるチームだった。
だが、彼のチームときたら色物ぞろいで……。
「——落ち着いたか?」
「うん。ありがとう」
「どういたしまして」
この部屋の住人ではなく、皓然がえらく時間をかけて淹れてくれたお茶を飲み、アリスはやっと現状を把握し始めていた。
まず、ここの住人は、中級魔術師の三人。リーダーのルーカス・ツヴィングリ、その補佐で、人魚のサラ。そして、千夜族の黄桜花。
ルーカスはパウラの二つ上の兄で、このチームのリーダー。
桜花は本当に皓然の姉なのだと教えられた。しかも、黄姉弟の一番上なのだと。つまり、この見た目で牡丹のお姉さんだ。そして、普通の人間ではなく、彼女は僵尸だった。
サラは昔、密漁業者に殺されかけている所をルーカスと桜花に助けられたのがきっかけで、魔術師になった。
これだけでも情報量が多いのだが、まだ覚えるべきことがあった。
人の言葉を話すシロクマは、ルーカスの使い魔で名前がポラリス。ポラリスの首にかけられている雪の結晶のペンダントから、声が流れていた。そして、この声の持ち主がルーカスだった。彼は滅多に人前に姿を現さず、いつも依頼にはポラリスが主人の代わりに行くのだという。
そして、このルーカスもまた、生活力のない人だった。この部屋はあちこちに本が山積みされているし、掃除も行き届いていないので埃まみれだった。ソファも謎のシミだらけだし、家具はあらかた壊されてしまっていた。
考えることを放棄したアリスは、桜花を膝に座らせた状態でそれらの説明を聞いていた。
「あとは……。あ、桜花はそんな感じだから、俺と同じ五年生。サラも本当は百歳越えだけど、四年生の扱い」
「桜花ね、頭いいんだよー!」
ルーカスと桜花に、アリスは素直にうなずいた。これは、つっこんだら負け、というヤツだ。多分。
「桜花姉さん、座るならぼくの膝にしてください」
「小然は固いからやだ!」
そう言って桜花が抱きついてきたのだが、ものすごく強い力だった。骨がミシミシ言っているのがわかる。何より、このままでは骨が折れる。
「桜花! アリスが骨折しちゃうよ!」
アダンが慌てて注意してくれたおかげで、アリスは骨折せずにすんだ。だが、本当に桜花が皓然たちの姉なのかという疑念を強める結果になってしまった。
結局、サラが花の形の水をいくつも空中に浮かべて、桜花をアリスから離してもらった。光物が好きなのだという桜花は、「キラキラ!」と大はしゃぎしながらサラと戯れている。
その間に、代表してルーカスがアリスたちと依頼について話してくれることになった。目の前にいるのは、お昼寝中のポラリスだけれど。
「狼を何とかしろって依頼だが、俺に心当たりがある。レオ、お前もだろ」
ルーカスに名指しされたレオは肩を飛び上がらせると、バツが悪そうに目を泳がせ始めた。これは、図星だった時のレオだ。
「……ローズ」
「え、ローズ? 誰?」
「俺の、まあ、幼馴染」
「はい!?」
そんな幼馴染がいること自体驚きなのに、どうして今、その幼馴染が出てくるのだろう。
そんなことを思っているアリスと違い、パウラと皓然の二人まで「やっぱり」なんて言っている。アリスにとって唯一の救いだったのは、女子の情報にはとても詳しいアダンがいてくれたことだ。
「ローズ・マルタン。ヘレナ先生のチームメイトである、グレース・エニス先生と、アンリ・マルタン先生の子供だよ。あと、お兄さんのフェリクス・マルタンもいるんだ」
「じゃあ、立場としては私たちと同じなんだ」
「んー、ローズたちはちょっと……。実は、アンリ先生が狼人間なんだよ。狼人間は人間の国と友好関係にある異種族の一つだから、まだそこまで差別されないかなぁ。ただ、狼人間が人間のこと嫌いなんだ」
「う、うん? えっと、つまり?」
「フェリクスとローズも確かに英雄の子供だけど、お前らと違ってあまり受け入れられていないってこと」
ポラリスから、ルーカスの声が聞こえてきた。パウラと似た言動をとるのなら、間違いなく肩をすくめているだろう。
「狼人間、バンパイア、小人、巨人、エルフ、妖精、精霊、人間は、ユリア様の時代に連合軍として悪魔と戦った歴史がある。でも、狼人間とバンパイアは満月の夜に暴走するから、人間から恐れられてる。逆に、狼人間は銀以外に弱点がないから常に戦争では最前線に送られ、仲間が何千万と殺されて、人間を恨んでる。総指揮をとっていたのは、いつでも人間だったから。まあ、互いに嫌い合っているんだ」
「でも、英雄なんでしょ? その、お父さんの狼人間の先生も」
「あくまでも、英雄はアンリ先生だ。おまけに、グレース先生はネロの公爵家の跡取り娘だったんだけど、アンリ先生とほぼ駆け落ち。その子供のフェリクスとローズは、両親がいなくなって引き取り手が誰もいなかった。だから王宮が引き取ろうとしたんだけど、その前に二人は行方不明になってしまった」
「なんで?」
「狼人間を嫌う貴族たちが結託して、二人を王宮から追い出したからだ。その貴族たちは、もちろん逮捕。しかも、どこに二人を置いてきたのか分からないときた。手下たちが国の外に連れ出そうとしたが、途中で逃げられたらしい。それ以来、マルタン兄妹は行方不明だ」
道理で、アリスがその名前を知らないわけだ。それから、その兄妹を国が必死に探さない訳も分かった。恐らくだが、まだ一定数の貴族が狼人間を嫌っているのだろう。アリスたちのことは呼び戻そうとしていたことを考えると、かなりの数が反対していそうだ。
「それから、白い森があるこのキュクノスに狼は生息していない。狼人間の大使館はあるが、まあ、大使たちが森の近くの畑を荒らすわけもない。となると、そのマルタン兄妹が依頼書の狼である可能性が一番高いってわけ」
ルーカスが長い説明を終えると、部屋には桜花とサラが遊ぶ声だけが響いた。アリスたちは、黙っているレオを見つめているからだ。この中で、一番マルタン兄妹と親しかったのがレオだから。
「——ローズもフェリクスも、狼になれた」
レオのその言葉が、この仮説が当たっていることを匂わせた。
「ローズは狼人間の血が濃いのか、簡単に狼に変身してたけど、フェリクスは人間に近いみたいで、完璧な狼に変身するのに時間がかかってた。でも、二人とも銀アレルギーだった。ローズは、銀に触っただけでかなり腫れるくらい。治るまで、ずっと痛いって泣いてた」
「なら、そのマルタン兄妹が噂の狼と見て、作戦を練ろう」
それにあたり、レオがみんなに見せてくれたのは一枚の写真だった。金髪の赤ん坊を抱く銀髪の少年と、よく似た銀髪の少女。それから、金髪の少年。
銀髪の少年、少女がマルタン兄妹だった。兄のフェリクスはストレート、妹のローズは緩くうねった髪。だが、兄妹とも銀髪で、琥珀色の瞳をしていた。それから、恐ろしく容姿が整っている。幼少期でこんなに綺麗な顔をしているのだから、成長した今は絶世の美青年と美少女になっていることだろう。
それから、金髪の少年と赤ん坊が、レオとアリスの兄妹だった。
「うわぁ。赤ちゃんの私、めちゃくちゃ太ってる」
「なんで? アリス、可愛いじゃーん!」
「……アリス、アダン。今、それじゃないから」
呆れ気味のレオは肩をすくめ、他の面々も二人に呆れた目を向けた。
「二人とも、銀色の狼に変身してた。眼の色は変わってなかったな、狼人間固有の目だし」
「多分、髪を染めてたとしても、狼になったら銀色に戻るんだろうなぁ」
写真とにらめっこしながら、パウラは腕を組んだ。
「依頼人からの情報だと、被害はあまり出てないみたいだけど」
「でも、自分の畑を荒らされるし、近くに狼がいたら怖いですよね……。あ、マルタンさんたちを悪く言ってるわけじゃないですよ!?」
レオはそれに頷き、改めて写真を見つめた。
今回は、ルーカスたちを中心に動くことになる。だが、現場に行くのは使い魔のポラリスだし、桜花は五歳児だし、サラは珍しいのでみんな驚く。なので、依頼人と話したり、交渉したりするのは基本、パウラたち。その代わり、もしも狼が襲い掛かってきた時は先輩たちが前に出てくれることになった。
お読みいただきありがとうございました!




